#61 最近よんだもの(16) あなた次第といわれても
「方舟を燃やす」(角田光代、新潮社)
「自分は今、すごいものを読んでいるのではないか。本書を読み進めている間、何度もそう思った。」
某紙に掲載された書評の一部である。まったく同じ感想をもった。「すげえ」と何度もつぶやきながら、そして「白装束集団を率いた女 千乃裕子の生涯」(金田直久、論創社)を思い出しながら読んだ。感じたものを、同僚や妻に伝えようと思ったが、そのすごさをどうにも説明できない。
信じること、傷つくこと、そして赦すことについての小説ではないか。感動的なエピソードもドラマティックな展開もない。自我が揺さぶられるような思いをしながら読みすすめ、読了してとんでもない傑作だと思った。だが、他の読者がそう感じるかどうか全く分からない。
しかし、どうしたらこんな小説が書けるのか。構成は恐ろしくうまい。執筆中は神経を使って楽しくなかったんだろうなと妄想する。立ち上がってくる細部の解像度のレベルが違う。何かを信じて、周囲と少しずつずれていく、ふたりの登場人物の気持ちが手に取るように分かる。善意と正義感が闇を深める。かわいそうな子と洪水が名作の条件という論文が書けないだろうか。その子は本当にかわいそうなのだろうか。
「(信じることが)心のよりどころになり救いになるが、痛みになり呪縛にもなり得る」という別の書評もあった。その通りなんだろうけど、何か違う気もする。お前の足元は大丈夫なのか。まっすぐ立っているか。歩む方向は行き先とずれていないか。自分でもよく分からなくなる。
危ういけれど、何かを信じて生きていくしかない。
「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(浅野いにお、ビッグコミックススペシャル)
タイプしたので「デ」の数が間違っていたらごめんなさい。マンガは普段からたくさん読んでいるので、強く印象に残ったもの以外はこのnoteではそれほど触れていない。が、一気に読んだ「デデデデ」全12巻はとんでもなかった。これも評する言葉が見つからない。すごい作家がいるものだ。「ムジナ」と「プンプン」にも着手した。
「呪術廻戦」(芥見下々、ジャンプコミックス)26巻もほぼ同じタイミングで読んだ。もはやこの世界の理屈は私の理解の範疇を超えているが、こりゃアカンかも、と思って読んでいたらやっぱりアカンかった。久しぶりに「銀と金」(福本伸行、アクションコミックス)も読んだ。
迷ったら、土に触れよう。座ろう。自転車に乗ろう。とりあえずそうしよう。