20230812

羽毛

あと12キロ。フォームはやや乱れ気味で重心が定まらない。あごが上がり呼吸も浅くなっている。汗は体内から全て出し切ってしまったのか、肌が妙に乾いている。つまり、あまり好ましくない状態だ。

残り7キロほどになったところで信号につかまった。いつも走っている土手には合計3ヶ所の信号があるが、ほとんどの場合、信号待ちを回避するため河川敷に一度降りてから登り返している。だが赤信号で思わず立ち止まってしまった。

あぁきついな。

久しぶりに膝に手をつく。嫌な汗がどこからともなくどっと流れ出る。キンキンに冷えた飲み物が脳裏をよぎり、唾をごくりと飲み込む。それにしても信号がやけに長いな。顔を上げて周囲をうかがったその時だった。

ん、あれは。

最初はトンボかと思った。その不思議な浮遊が妙に気になる。あ、羽毛か。毛先はフサフサとした白い綿のようになっていて、根元へいくほどに黄色味を帯びていく。美しいグラデーションに魅了される。それにしても奇妙な浮遊の仕方だ。紙飛行機のようにすぅっと風に乗るのでもなく、花びらのようにふわふわと風に舞うのでもない。ただ上から下にゆっくりと落ちていく。

ふと気づくと信号は青に変わっていたので、何事もなかったかのようにまた走り始めた。



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