20240206 対話 地上編2

「やぁ。元気だったかい。」

軽快なドラムソロの途中でぷっつり音が途切れたかと思うと、白い球体がいつの間にやら頭上にいる。昔見たアニメと現実世界が混在した映画のように見える。

淹れ立ての珈琲に口をつけると、すっかり冷めてしまっている。と言うか、その液体は珈琲という飲み物の範疇から外れた別の何かに変わり果てている。その香りはなぜか子どもの頃に訪れた動物園の犀のエリアを連想させた。

「まったく。キミってやつは。調子が狂っちゃうな。」

白い球体は表情を作る。

「慌てたり、パニックに陥ったり、あるいは泣きわめいたりと、典型的な行動を期待してたんだけど。まったく。それにしても朝早くから申し訳なかったね。とは言え、特に問題はないんだろう。キミの日常なんて別にキミじゃなきゃならない理由なんてひとつも無いんだしさ。まぁキミには本当に申し訳ないと思うんだけど、しばらく付き合ってもらうよ。」

白い球体はちかちかと光を放ちながらこう言った。マグカップを置くと、棚にもたれたままドラムソロの続きを口ずさんでみる。音程がうまくとれないがリズムは確かこんな感じだったはずだ。

「あ!」

そう叫ぶと白い球体は指をパチンと鳴らした。一瞬白い光に包まれる。

「馴れ馴れしく話しちゃったけどキミと会うのは初めてだったね。もうすでにキミと何度も話したことがあるからついつい。まぁキミにとっては初めてのことだろうから、多少面食らったかもしれないけど。あれ、そうでもなさそうだね。」

カツ カツ カツ カツ

静寂な室内に時計の秒針が響いている。

カツ カツ カツ ・・・ カツ カツ ・・・ カツ ・・ 

おかしい。その足音はまるでホテルの部屋を探し歩く宿泊客のようにあっちへ行ったりこっちへ行ったりと迷いを奏でている。

「キミ、まぁここでは個体としてのキミということなんだけれども、キミとはまた会うことになるんだ。そうだね、ここよりはもっと雰囲気のある場所だとは思うよ。」

そう言って白い球体は部屋の四隅を丹念に見て回る。

「ここよりはとても深く、キミにとっては多少息苦しい場所だとは思うんだけどね。」


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