20240806 現実と寓話

長い息を吐いて気持ちを落ち着ける。ここまでおよそ一時間半。身体から絞り出た水分が全身を伝う。折り返してからが本番だ。先日は途中で誘惑に駆られ、思わず自販機に寄ってしまった。くそっ、この程度で。昨年の今頃なら三時間程度無給水でいけたはず。ペットボトルの水をかぶかぶと飲みながら情けなさに打ちのめされたことが思い出される。今日はどうだろうか。リズミカルな動きと呼吸だけに意識を集中しながら夏草の合間を走っていく。だめだ。意識すればするほどに誘惑に駆られる。キンキンに冷えたジョッキに入った炭酸水。がぶがぶと本能のままに喉を伝わせると溢れんばかりの爽快感を伴って脳を刺激する。だめだ、だめだ。考えるな。あと一時間もすれば好きなだけありつける。まだ大丈夫。倒れるほどじゃない。いや、倒れるかも。いやいや全ては幻。現実と寓話の世界。キミはどっちを信じるのかい?たとえば夏草。強い生命力でもって風に揺られるだけ。それとキミに一体どんな違いがあるっていうんだい?そうさ。そうやってペースをさらに上げてごらん。もっともっと。ほら、まだ大丈夫。キミは夏草。もう境界はなくなったんだ。もっと自由に行き来していいんだよ。



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