20240210 ある感傷的な男

おれは感傷的な男だ。

"感傷的な"とはっきり言ってみたが、情に脆いわけでも女々しいわけでもない。ただ何となく感傷的という範疇に自分を閉じ込めてしまうことが今は必要だからこう表現してみたまでのことだ。つまり、空き瓶に"感傷的な"というラベルを貼ってみることでそこに何かしらの価値を見出そうとしてみたのだ。

街を歩いている。

大きな街で人がたくさん行き交っている。そんな中を感傷的な男が街を歩いている。目的は特にない。黒の長財布と長年愛用している擦り切れたこの革靴さえあればどこにだって行ける。何も心配はいらない。

花屋にいる。

皮を鞣したような香りに誘われて、街の小さな花屋に入る。青いバケツに無造作に入れられた50cmほどの木の枝を手に取ってみる。黄色なのか白色なのか、その一枝に小さな花がたくさんついている。皮を鞣したような不快にさえ感じる香りがそこから溢れ出ている。

おれは感傷的な男だ。
おれは感傷的な男だ。
おれは感傷的な男だ。

そう何度も呟きながら、その男は一枝を手に持って街を歩いている。







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