20231003 対話 海中編

あれ。ここはどこだろうか。つい先ほどまでいつもの河川敷を走っていたはずなのだが。体の動きが少し悪くなったのはこのせいだろうか。

「やぁ。また会ったね。元気だったかい。」

目ヤニがついて視界の一部がボヤけたようになったので、目をこすってみるが一向にボヤけたままだ。

「どうしたんだい。そう難しい顔しないでさ。もっと気軽にやろうよ。」

何か返答しようと試みるが、ゴボゴボと泡立っただけでうまく言葉にならない。

「この前はまるで逃げるようにしてキミは何処かへ行ってしまったからさ。こんな風に話せるなんてキミは恵まれているんだよ。それを、あっ、キミは聞いているのかい。」

右上で白い球体らしきものが激しく点滅している。それを無視するかのように足元を覗き込んでみると、さらなる階層が下に広がっていることに驚いた。あれはなんだろう。二頭のクジラのような巨大な生物がゆっくりとうごめいている。その大きな口が開いたかと思うと、まるでカバのような二本のするどい牙が見えた。

「あぁ、あれかい。大丈夫だよ。何かしらの役目を果たすものがないと格好がつかないから、あそこに便宜的に配置されてるんだ。"とりあえず"というやつだね。キミが特別な刺激を与えない限りこちらにはやってこないから大丈夫さ。」



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