20230822

深淵

なにも自分が特別な人間だと思っているわけではない。偶然にもこの時代のこの瞬間に生を授かり、おそらく(確信は持てない)生きているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。もっと言うなら、何かしら(それは物質的なものなのかどうかもよく分からない)の循環システムの中に組み込まれた一つの駒に過ぎないとさえ思っている。

いつも通り少しずつゆっくりと降りていく。

6時間。変化や兆しに敏感にならないように深く深くへ。9時間。ここからは丁寧さが求められる。12時間。肉体と精神を切り離さないように慎重に慎重に。15時間。よし。だいぶ降りてきた。日常では感じとれない肌触りと冷気を感じる。18時間。地上では太陽が出て明るくなっている頃だろう。残り6時間。いよいよ最後の仕上げに入る。遠い山並みから湧き出た一筋の水流が大河となるように、肉体と精神のあらん限りのエネルギーをそこに注ぎ続ける。それは血の流れない暴動であり、静かに荒れ狂う激しい抵抗だ。残り3時間。あと少し。あぁ。待ってくれ。もう少しで手が届きそうなのに。一気に浮上していく。あぁ、あともう少し。 その力は絶大でどうしようもない。ぐんぐん引き上げられていく。

そして光と熱に包まれる。


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