20230824

枯葉

某ジャズピアニストが好きだ。と言っても、彼自身が好きなのか、彼の演奏が好きなのか、それとも彼を形作っている空気感が好きなのか、はっきり言ってよく分からない。それに彼のことなんてさっぱり知らないし、演奏する曲だって熱心にレコードを集めているわけでもなんでもない。そういう意味では、軽々しく"好きだ"などと言っていいのかさえもよく分からない。だが、それを言い出すと収拾がつかなくなるので、ここではやはり"某ジャズピアニストが好きだ"ということにしておこう。

今日も河川敷を走っている。パンパンに疲労が詰まった足を上下させるのは億劫ではあるが、動かしているうちにそれがある種の快感に変わってくる。珍しく山の端の外側から水分をパンパンに詰めた雲が内側へとカールするようにまとわりついている。それはまるで巨大な雪庇のようだ。

その境界を飲み込まれた山の端を眺めていると、彼が出演していたドキュメンタリー映像がなぜか思い出された。彼の日常をとらえた映像だったと記憶しているが、ピアノの前に座るとまず初歩的な音階を何度も何度も繰り返していた。しかも数時間。その姿がなぜか自分に強烈な印象を与えた。ナレーターはまず基礎練習を繰り返すといったようなことを言っていたと思うが、自分にはそうは思えなかった。確かに端から見れば基礎的なドリルを繰り返しているが、自分にはこれはトレーニングや練習といった類のものではないと思えた。

あぁそういうことか。
彼はもう気づいているんだ。
そこへ到達する手段を






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