20240212 助手席にて

「そうよ。これがしたかったのよ。」

そう言って左手で巧みにシフト操作をしながら彼女は言った。カーブに差し掛かると両手両足をせわしなく動かしている。助手席でその様子を眺めていると、まるでドラマーが激しいソロパートを演奏しているかのように見えた。

まだ完全にはこの車の特徴を掴めていないのか、時折シフトダウンした際にエンジン回転数が合わず轟音とともに身体が前に乗り出しそうになることもあったが、概ね滑らかに車を操っていた。

これまでの彼女からは想像もつかない一面に思わず息を飲んだ。だが、その横顔に垂れる長い黒髪を見ているとそこにはいつもの彼女がいて、いつもの温もりがあった。

「さぁ、これからが本番よ。あなたはついてこれるかしら。」

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