20230809

走る姉弟

まるで蒸し風呂の中を走ってるようだ。暑い雲に太陽は遮られているが、台風の影響なのか、今朝は湿度が異様に高い。行き交う散歩者の顔にもどこか苦悶の表情が垣間見える。

今日も河川敷を走っている。ふと見慣れない二人組が目に留まった。と言っても、ここを行き交う人々を常に注視しているわけではない。気になったのは彼らが子どもであり、淡々と走っていたからだ。少しずつ彼らの背に近づく。背格好からして、後ろを走るのが姉で、その少し前を走るのが弟だろうか。姉は小学校高学年、弟は3年生くらいに見える。どうやら1kmを6分前後のペースで走っているようだ。

それにしても姉のフォームは美しい。思わず見惚れてしまったほどだ。小学生にしてこれほど安定感のあるランニングフォームを身につけているのには驚かされた。何か専門的な教育を受けているのだろうか。あるいは天性のものなのだろうか。頭にブレがなく、無駄のない腕ふり。そして、それに連動した軽やかな足運び。地面に吸い付くような滑らかさの中に、周囲の空気を震動させるような躍動感がある。それに対して、弟は子どもらしい無邪気な走り方で、姉に負けじと必死に走っている。

彼らを追い抜くときに声はかけなかったが、心の中で「大丈夫。その調子で。」と力を込めて呟いた。もちろん、そのペースでという意味もあるが、本意はそうではない。

それからしばらく走ったところで背筋をぞわぞわと走るものがあった。やはり彼らを思い出さないわけにはいかなかった。胸の開きを感じると、彼らの虚無感が空気を震わせて伝わってくる。それは躍動感をもってタンタンタンタンと小気味良い足音とともに近づいてくる。

もう後ろは振り返らない。ただ、何度も何度も彼らに声をかけ続けた。

「大丈夫。その調子で。」


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