20240205 医者
病院にいる。おそらく病院だろう。確信はないが、少なくとも病院と言えるだけの設備が整っているように見える。ただこれらは全て張りぼてであるかもしれない。とにかく表面上は病院だと納得できる施設であることは確かだ。
すると突然背の低い男性が扉をバンっと開けて出てきたかと思うと、無機質な廊下の壁に両手をつけるようにしてもたれかかった。白衣を着ているので医者だと思われるが、やはり確信はない。背の低い医者というのがどうしても自分の医者像と一致しないからだ。ただ白衣を着ているという事実だけが彼を医者たらしめている。
あまりにも真っ青な顔色だったので思わず声をかけた。よくよく考えてみると、医者に大丈夫ですか?と声をかけること自体が何か滑稽さを感じさせるが、この際そんなことは気にしていられない。
医者は片手を前に出してそれを制すると、五秒ほど合間をおいてゆっくりと息を吐いた。
もうだめだ。もうオレはだめだ。
小さな声でこう言った。彼に何が起こったのか自分になど知る由もない。それどころか自分はなぜここにいて、そもそもここが病院なのかどうかさえもよく分かっていないのだ。そんな奴が彼の抱えている問題を聞いてあげられようはずもない。
頼んだぞ。あとはお前に頼んだからな。
おもむろに白衣を脱いだかと思うと、それを自分に押しつけるようにしてこう言い放った。そして、足早に無機質な廊下を去っていく。青白い蛍光灯に照らし出されたその後ろ姿をただ見送ることしかできなかった。
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