20230921 実験的文章 サンプルB-5(終)

何を考えているんだろう。わからない。

例えば「今日は炭素循環について考えてみよう」などと何かしらのテーマを持って走っているわけではない。かといって、全く何も考えずに走っているわけでもない。このペースなら何キロ走れるだの、向かいの通りを歩いているあの男性の髪型が奇抜だだの、あんなとこに新しいラーメン屋ができただの、実にいろいろな事を断片的に考えているようにも思う。しかしそれは「考えている」という範疇にすら入らないほど細切れな内容である。後で何を考えていたのか必死に思い出そうとしても、昨晩見た夢が一向に思い出せないのと同じで、思い出そうとすればするほど濃い霧に包まれていく。

左車線を走る車がウインカーもつけずに強引に割り込んできた。強くブレーキペダルを踏み込んだせいか彼女の体がシートから少し離れる。彼女の長い髪が肩にかかる。その時に初めて黒々とした美しい髪をしていることを知った。オレは走る時に何を考えているんだろう。珍しくバイパスの下にまで渋滞の波が押し寄せている。

「別に無理に答えなくてもいいよ。何時間も走る人っていったい何を考えているんだろうって思っただけだから。たぶん私だったら耐えられない。」


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