人との出会いで人生は大きく変わる
久し振りの電話
朝晩の冷え込みが身に沁みる季節の、暖かな昼下がりに、山岡さんから電話があった。
山岡さんはプライベートで色々お世話になっていた大学の先輩で、卒業後に知り合った方。
同じ県のOB繋がりで、その当時は仕事の都合で他県に行かれ、暫く疎遠になっており、かなり久し振りの電話。
「よう!久し振りやな!ちょっと頼みたいことがあるんやけど、いいよな!」
関西出身の山岡さんは、いつも、こんな調子で、こちらの都合や返事などお構いなし。
まあ、西日本の田舎町出身の私も、そのノリは嫌いではありませんでしたが。
「久し振りの電話で頼み事やなんて、先輩もしかして保険屋にでもなったんですか?もしくはネットワークビジネスか、宗教か、危ない投資とか!あ、僕お金はありませんよ!」
「お前、貸金屋やろが!貸金屋がお金がないって、八百屋が野菜置いてませんっちゅうことやな?」
「貸金屋ですけども、先輩に融通するお金はないという意味ですよ〜。」
なんて、いかにも関西人らしい返しをしながら、本題を聞いてみた。
「俺が以前そっちに住んでた時の友達で、磐田くんっちゅうのがおってな。そいつに資格の受験を勧めたから、お前教えてやってくれよ。とりあえず、明日の16時に、〇〇駅前の喫茶店に行かせるから、よろしくな!」
って、おいおい!こっちの都合聞かずに、時間と場所は既に決まっているとか。
相変わらずの無茶振りだなと思いながら、『たまたま』予定が何も無かったので、承諾した。
あまり気が進まなかったというのが正直のところ。
だって、見ず知らずの人にパッと会って、何かを教えるって。
でも、山岡先輩の紹介する人だから、きっと悪い人ではないだろうと思い、会うことにした。
オーダースーツでビシッと決めた男
「どうもーはじめまして!磐田と申します。お忙しいところお時間頂き、ありがとうございます!」
とびきり元気な声と笑顔で、グイグイくる感じ。
この人、間違いなく、『ガチ勢の営業マン』だ。
お互い自己紹介をし合ったが、彼は生命保険会社勤務とのこと。
勘が当たったなと思いながら、
「一応聞きますが、山岡さんが勧めるこの資格って、磐田さんの仕事と何にも関連性がないですよ。国家資格ですらないですから、まあちょっと教養、雑学が深まる程度かなと。それでも勉強します?」
「はい!正直内容は何も聞いてませんけど、山岡さんが僕にオススメというので、是非!」
グイグイくるな(^_^;)
「???勉強内容、何も聞いてないの???」
「はい!とりあえず今日この時間にここに来れば、座右の銘太郎って人が会いにくるから会っとけって言われまして!」
「君さ、山岡さんが運気の上がる壺20万円だから買っとけって言ったら、買っちゃいそうな勢いだね。」
「はい!山岡さんの勧めなら!」
よし、このあと山岡さんに電話をして、100均の壺を20万円で磐田くんに売って、折半しようという話を持ちかけよう!(ほんのジョークです。)
まあ、本人がやるというのなら、付き合おう。
ぶっちゃけ、歴史と雑学的な、とある検定試験なので、別にわざわざ私が教えるほどのことは無かった。
でも、山岡さんのことだから、磐田くんと座右の銘太郎を会わせることに、きっと何かしらの意図があるのだろう。
新たな出会いは時に大きな化学反応を起こす
人と人との出会いに、別に特段の理由など要らない。
何事も、きっかけに過ぎない。
磐田くんとの出会いは、長年、深い深い人間不信に陥っていた私にとって、他人を信じることの素晴らしさを教えてくれるものとなった。
物事に先入観や思い込みがない。
どんな話でも、全部受け入れた上で、自分の中でちゃんと咀嚼して、自分の言葉に変換して返してくる。
一体、どんな教育をしたら、こんな素直な男に育つのか、ご両親にお会いしたい!
次第に、お互いの悩みを相談し合うように。
私なりに、自身の経験を通して、彼の悩みに対するアドバイスをした。
そこから、私のアドバイスを忠実にトレースし、見事にその大きな悩みを克服していった。
素直な人間の成長って、早いんだな。
『こんな生き方、俺にはできないな』と、自分の暗い過去が呟く。
『待てこら!できる、できないじゃない。やるか、やらないかだぜ!』
そう自分の心に呼びかけたら、私の心の中で、激しい化学反応が起こった。
『彼のような、素直な生き方ができる人間になりたい』
朝晩の肌寒さを感じながら、出会ったのもこんな季節だったなと思い返した。
出会って4年程経つか。
磐田くんの生き方を、少しトレースできるようになったかな。
イザという時、本気になって応えてくれるのが親友
そんな磐田くんに、生命保険会社勤務の経験を通して、私の悩みに助言を求めたことがある。
13年勤めた家族経営の会社の事業承継に悩んだ時である。
事業承継の手法に、生命保険を活用するというやり方があり、彼はそれを得意としていたからだ。
「磐田くん、ちょっと聞いて貰いたいんだけど、事業承継の一環で、2億近い負債を俺が個人で負って、創業者一族に出資金を返還しろっていうのって、どう思う?」
お互い行きつけのBarで、まあまあ飲んでくれたまえと、日本酒を勧める。
もちろん、こっちは、ウーロン茶。
「まあ、会社が手に入るのであれば、アリじゃないでしょうか。ところで、自社株はどうなってますか?」
「そこなんだよね。自社株の話をすると、話を逸らされるんだよね。」
「そこを、ちゃんと確認しないとダメですよ!会社を承継するって、負債やリスクだって負わないといけないんですよ!そこちゃんとしないと、話を進めちゃだめですよ!」
そうか、そうなのか。
後日、役員会の席で、義父が言った。
「あとは、お前の覚悟だ!男らしくこの書面に実印を押すんだ!」
「ところで、お義父さん、この書面に、自社株の件が触れられていませんが、お義父さんが自社株をどうするつもりなのかお聞きしない内は、私も覚悟を決められません。」
「お前には30%分を持たせてやってあるじゃないか。」
(持たせてというか、無理やり買わされたんですけども?)
「うちの定款を改めて確認したんですが、2年前に定款変更されていて、大事な機関決定は全部60%の合意が必要になっていますね。これでは私、自分の役員報酬すら、自分で決められません。残りの70%は、どうするおつもりか、ここでお聞かせ頂けますか?」
あからさまに義父の表情が変わった。
「それは、いちいち言わなくても分かるだろう。」
「具体的に言わないということは、相続で実子に渡すおつもりという解釈でよろしいですか?」
「まあ、そういうことになるな。俺が先に死んだら、半分はお母さんに、残り半分は、6人の実子に相続されるのは当然じゃないか。」
「これ、後で一番揉めるやり方だと僕は思いますが。」
「何を言ってんだ!うちの家族は、仲がいいんだ!兄弟で仲良くやっていけ!」
「この会社は、一族の会社なんだ!外様のお前が、権利権利と、出過ぎた事を言うんじゃない!」
義母が言葉を添えた。
「私たち家族は、ハートがいいんだ。お前は何も心配することはないんだよ。お前に悪いようにはしないから、ここはお父さんの顔を立てて・・・」
「今日の話を踏まえて、ちょっと考えさせて頂きます。」
「ああ、考えればいい。でも、俺の言うとおりにできないのなら、お前たち夫婦は、無職になるんだからな。俺の会社を俺がどうしようと、俺の勝手だ!」
後日、この顛末を磐田くんに伝えた
途端に彼は、
「こんな話、絶対に引き受けちゃダメです!こんなの奴隷契約です!こんな酷い話、許せない!」
本気になって、怒ってくれた。
その後、改めて事業承継に詳しい弁護士の方や、公共の事業承継相談センター等に相談してみたが、皆さん、口を揃えて、
「こんな酷い話は聞いたことがない。これは事業承継とは言わない。単なる投下資金の回収ですね。」と。
そして、皆さん口々に、
「その磐田さんという友人のアドバイスのとおりですね。良いお友達を持ちましたね。」と。
専門家の意見を持って、役員会に臨むと、こう言われた。
「うちの問題を、他所に話すんじゃない!」
私の人生を左右するような大きな決断を、人に相談するなと言う。
その心は、なんて貧しいのだろう。
この瞬間、私の中で、会社を去る決意が定まった。
13年、一家一族を護るためにと、鬱になるほど自分を追い詰めて、それでも『いいお婿さん』になりたくて、この仕事を、生涯の己の生きる道と定めて、頑張ってきた。
その重みが、その未練が、決断を鈍らせていたんだな。
磐田くん、ありがとう。
人生の大きな分かれ道に、磐田くんの励ましのおかげで、正しい決断ができました。
本当にありがとう。
そして、磐田くんと私を引き合わせてくれた、山岡先輩に、感謝。
2019年11月11日
座右の銘は不撓不屈
座右の銘太郎
写真は、「フリー写真素材ぱくたそ」様より
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