だから奥さんなんだってば!!
お取引先によく案内されるカラオケバー。
地方都市の繁華街で、街の浮き沈みを泳いできたマスターの、渋いマイクパフォーマンスを、今夜も常連客が口真似してイジる。
毎晩、昭和の名曲のオンパレード。
熟年のオヤジ達がもてなす、色気の欠片もないお店だが、音楽好きが集まり、地元ではそこそこ有名だ。
そして、夜の蝶を連れた男たちが、孤独を紛らわすため、はたまた、儚い駆け引きを演じるためにやってくる。
『今日はどの歌で落とそうか』なんて、叶わぬ妄想を浮かべながら。
最近夜遊びを覚えた妻に、普段どんな接待を受けているのかと勘繰られたので、
『いつものお店だよ。ほら、おっさんしかいないでしょ』と連れ出した。
お気に入りは『ジントニック』
さわやかな酸味と炭酸の爽快な味に、ご機嫌で何より。
平日の夜なのに、大繁盛。
賑やかな店内で、マスターが挨拶に来てくれた。
「座右さん、今日は黒木社長と一緒じゃないんですね。」
「ええ、今日は『妻』同伴なんです。」
隣の妻がにっこり微笑む。
食事後の2軒目だったこともあり、早々にお暇した。
お店を出る際、酔った妻が可愛らしく腕を絡めて来た。
後日、改めてお邪魔すると、マスターの倅が絡んできた。
「座右さん聞きましたよ!先日は同伴でご利用頂いて。」
「奥さん連れてた時のことか?」
「またまた~。照れ隠しですか?どこのお店のお気に入りなんですか?」
こういう話にすることが、セールストークだと思っているようだ。
まあそういう店だ。
下世話な話だと辟易していたその時、黒木社長が乗っかってきたΣ(゚Д゚)
「座右さんも隅に置けませんね~。ちゃっかりやってますな~。」
「よし、この後はその娘のお店に行っちゃおう!」
いやいや、だーかーら、連れてたの奥さんですから!
マスターに助け舟を求めた。
「俺ちゃんと、『妻』同伴って言いましたよね?」
「隠すってことは、余程入れ込んでますね。私カウンター商売40年ですから、隠せませんよ。」
マスターーー!!
「奥さんにしては、ちょっと若いんじゃないかな~と思いましたよ~。それに、腕なんて組んじゃって。」
行く度イジられるが、未だに誤解は解けていない。
妻の疑いを晴らすつもりが、余計な誤解を招く。
人生うまくいかないものです。
尚、画像は『実写版美女と野獣』をリスペクトすることを目的としており、私の妻は確かに美女(妻への忖度)ですが、私は野獣ではありません。
私はただ『老け顔』なだけです(T_T)
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