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半纏の思い出

祖父が亡くなった30年前。

当時7才だった私の記憶では、葬式の間、子供たちは2階の部屋に押し込められ遊んでいた。


居間から聞こえる坊主のお経が、祖父の死を実感させる。


火葬場のトイレの天井に、直径5センチ大の蜘蛛がいて怖かった。


『じいちゃんはお空に昇ってお星様になるんだよ』

祖父の煙を見上げながら、親父がポツリと発した言葉が耳に残る。


祖父は面白い人だった。

亡くなる前年、当時2才の妹が重度の喘息で入院。

夏休み中だったこともあり、2カ月程、熊本県荒尾市で過ごした。


有明海の不思議。

干満の差が激しく、干潮時には見渡す限りの干潟なのに、満ち潮だと全部海底に沈んでしまう。

同じ場所とは思えなかった。

干潟の遥か先で、『ウミネコ』が群れているのを見て、


「ウミネコーーーって呼んでごらん。」


大声を張り上げると、ウミネコ達がバタバタと騒いだ。

(ような気がした。)


「ほらね。ウミネコは返事を返してくれるんだよ。」


漢字ドリルで、『力』という字を書く練習をしていたら、


「そんなでっかい蚊に刺されたら死んでしまうばい。」


その時は何を言ってるのかさっぱり分からなかったが、後年、ふと思い出して笑った。


毎日、『クマゼミ』を採りに出かけた。

゛ワシワシワシワシ゛という大きな鳴き声が印象的。


道中、『ハンミョウ』という、とても綺麗な虫を見つけたが、派手な色がなんだか怖くて、コッソリ逃してしまった。


泣くほど怒られたのは、苦い思い出だ。


火葬が終わり、身内だけで料亭に移動。


大人が10人くらい、子供が6人。


親父が、『大人はビール、子供にはオレンジジュースを』

と、飲み物を注文した。


次々と運び込まれる料理と飲み物。


未就学~小学校低学年の子供6人が、大人しく席に着くわけもなく、走り回って大騒ぎをしていた。


『あれ、ジュースが7本あるよ。お兄さん、1本多いよ!!』


誰かが店員を呼び止めた。


『おかしいですね。さっき数えたらお子様が7人いらっしゃいましたよ。』


改めて子供の数を数えたお兄さんが、ポツリと呟いた。


『さっきあそこに、半纏を着たおかっぱの男の子が座っていて、随分行儀の良い子だなと思ったんだけどな・・・』


一瞬にして、その場が凍りついたのを鮮明に覚えている。


『おお!じいさん早速生まれ変わって遊びに来たか!!』

『きっと座敷わらしだよ~』


大人たちが必死に笑いに変えようとしていた。


半纏を見ると思い出す。







おかっぱ頭の穏やかな横顔を・・・。






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