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夕暮れハロウィン

日曜日の塾を終えて疲れていた僕は通りがかった公園のテラスに腰を下ろす。
日曜日だが夕暮れのためか、遊んでいる子は見当たらない。
僕はリュックに入っていた最後のおやつを食べて、ふーっと一息つく。
今日始めて呼吸したような気がする。
落ち着いた僕を静かな公園の雰囲気と疲れが眠気を誘う。
家にも帰りたくないしと僕はリュックを枕にして寝始めた。

「勉強しなさい。あなたのために言ってるんだから」母は口を尖らす。
「まだまだ足りないな。ちゃんと勉強しているのか?」父は新聞を見ながら僕の顔を見ずに言う。
うるさいうるさい。何遍も言うな。いつも同じ事ばかり。

はっと目が覚める。嫌な夢を見た。
憂鬱な思いを振り払うように立ち上がって辺りを見る。
辺りはすっかり真っ暗になっていた。
「ヤバイ!。こんなに寝るなんて、帰ったらなに言われるか。嫌、あいつらの事なんかいい」
現実から逃れるため僕はあてもなく歩き始める。

月光りだけが照らされる町はいつもの町とはまるで違って見える。
非日常的光景は嫌な日常からの解放を促す、そうだ今の僕は誰にも止められない。自由だ!
久しぶりにこんな楽しい気分になって嬉しくなってきた。

しかし、しばらく歩いて疑問が浮かぶ。
「んん?街灯ってこんな少なかったっけ?」
たしかに町はずれの公園の近くは街灯が少なった気がするが、
今のところ、歩いてきて街灯が一つも見かけていない。
おそらく月明かりがなければ完全な闇だっただろう。
そう思うと急に不安になり、辺りをキョロキョロと見回す。
町はまるで闇に溶けて消えたかよう思える静さ。
僕は慌ててスマホを取り出す。スマホの光は弱々しいが、ほんの少しだけ不安が和らいだ。
スマホの時刻は19:15を示し、マップの位置情報は僕が住む町を表示しているが、周りを見ても闇ばかりで一致しているようには思えなかった。
不安がどんどん大きくなっていき、さっきまでの楽しい気分は完全に消え失せた。
今の僕にあるのは闇への恐怖。
とりあえず誰かに助けを求めようとスマホの連絡先一覧を見る。
父、母、テンペスト塾、学校担任、一覧を見て、無言で110を押す。
だが電話は繋がらない、コール音すらもならず僕は困惑した。
仕方なく両親にLINEを送ろうとするが、こちらもメッセージを送信できない。
「なんで位置情報は分かるのに、こっちはダメなんだ?」
困惑と恐怖が入り混じってゆく、このままではいけない。
落ち着くためにリュックから水筒を取り出し、少し飲む。
冷たいお茶が体を巡って頭を落ち着かせる。
このまま、あてもなく歩いても疲れるだけだ、
現状を把握するために高い場所に行って、辺り一帯の状態を把握するとしよう。
目標が出来たことで幾分か気分がマシになった。

しばらく歩いて、高台に着いた。
高台から町全体を見てみるとポツポツと淡い明かりが見える。
闇だからの世界でようやく明かりが見れたことに喜んだ僕は
誰かいるのかもしれないと思い、明かりの方角へ向かい始めた。

一番近くの明かりまで歩き続けて着いた僕は、後悔をする
明かりの正体は燃えたカボチャだった。
ゴウゴウ燃えるカボチャから美味しそう匂いがするが状況が異常だ。
現在の状況に僕が困惑しているとカボチャがガタガタ震える。
そして
「トリックオアァァァァァトリートォォォォォォ」カボチャから絶叫が迸る。
「トリックオアァァァァァトリートォォォォォォ」カボチャが僕へ向かって動き出す。
「あああああああああああ」僕は思わず叫び、その場から逃げ出した。
逃げ出す後ろで先程の叫びが幾層にも重なって聞こえる。
逃げて、逃げて、逃げて、こけて顔から倒れ込んだ
「ほんとなんなんだよーーーーあああああ」
突っ伏しながら泣き叫けび狂った。
「あーあーあー」口からため息と気力が抜けてゆく
もうなんなの、疲れた、なにもしたくない、もうなにもしたくない。
僕は立ち上がる気力もなく突っ伏し、スッと意識を失った。


「坊ちゃん、そんなとこで寝たら風邪ひくわよ~」
声が聞こえる、ポワポワとした穏やかな声。
「あら、もしかしてお腹減ってるの?はい、どーぞ」
顔に冷たいものが触れ、思わずピクリ、口に甘味が広がっていく。
「美味しいでしょ~。うちで作ってるトマトォ」
眼を開けると目の前に自慢げなおばちゃんがいた。
「えっと、ありがとうございます」僕は状況が飲み込めないまま反射的に礼を言う。
いいのよ~と彼女はニコリと穏やかに笑う。
あまりにも穏やかな笑顔で、あの出来事は…夢?、たしかに僕は疲れていたけども。
「あら、リュックから和菓子が零れてるわよ。昨日のハロウィンでずいぶん貰ったのね~いいわねぇ私の子供の頃もあったらよかったのに」
「……ああ、そういえば昨日は10月31日でしたね」そんな行事があったなぁと思う。
ん、和菓子?なんで和菓子がリュックに?
僕は訝しげにリュックを開く。
すると中にはギッシリずっしりと隙間なく和菓子が詰められていた。
狂気的な執着を感じ、背筋に冷たいものが走る。
なんなんだよ、これ、まだ悪夢は終わってなかったのか……。
僕は不安になってスマホを確認すると両親の不在着信とラインのメッセージが溜まっていた。
すぐに両親に電話を掛ける。
「あんた、今どこにいるの!!!」「おい、今までなにをしていた」
両親の焦りと怒気が耳が痛くなるほど伝わる。
気が付けば、涙を流れていた。
ああ…悪夢は終わったのだと
僕は日常へ帰ってきたのだと。
「あら~大丈夫?坊ちゃん?」
「はい!大丈夫です!ありがとうございました」少し心配げなおばちゃんに笑みを返して言う。
帰ったら色々言われるだろうなぁ~
そんなことを思いながら、僕は遅くなった帰宅へ歩き始めた。
おわり


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