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【トライプ考察➀】



トライプの起源

誰が始めたかは分からなかったのですが、僕の調べだと、病気や老衰で食の細ったワンちゃんのために与え始めた説と、内臓の栄養学的優位性を知った方々が、ビタミン・ミネラル補給のために誰ともなく与え始めた説があります。
いずれにせよ、最初に与えた人がやたらと高い嗜好性に注目し、そこから火が付いた。と言う感じでは無いでしょうか?
この嗜好性と言う部分に注目してお話してみましょう。

野生の現場では

トライプは賛否両論ありますが、僕は嗜好性を上げるために使うのは賛成です。なぜなら、野生動物の内臓への執着を何度も見てきているからです。

狩りをしていると山の中で鹿の死体を見る機会は多いです。 

・ハンターが不法投棄した死体
・銃で撃たれたがすぐには死なず、ハンターからは逃げおおせたが間もなく息絶えた死体
・寿命で死んだであろう巨大な死体
・クマに襲われた死体(ヒグマは動物をめったに襲わないと言いますが、冬眠明けは鹿をバンバン襲います。)

様々な種類の死体がありますが、僕は獣医師としての興味から、大抵死体を観察しに行きます。
見る鹿の死体のほとんどは新しい死体も古い死体も骨、皮が最後まで残り、その他は完全に食われます。
ちなみに食っているのは大抵キツネとカラスです。
当然クマが食い荒らしていることもあるのでしょうが、見かけるのはこの二種だけです。

そこではどうも優先的に内臓が抜かれているようなのです。


山の中でクマに食べられた鹿の残骸


足跡はこの死骸に繋がっており、穴の方向へ引きずった痕跡もあった。



嗜好性ダービー

さて、前項目でお話した内臓の嗜好性の順位はどうなっているのでしょうか?
実験した訳では無いので、正確ではないことを前置きしつつ、僕なりの考えを述べましょう。

真っ先に結論から言うと、僕が見る限り食っている順番は

眼、舌→肝臓→心臓、肺→胃→その他 です。



順序考察


まず最初に確実に彼らがつつくのは目と舌です。
これはどういうことかと言うと、「最初に死体に気付いた動物が真っ先に獲得できる柔らかい組織だから」だと思います。
野生動物は食料獲得の熾烈な争いの中にいます。そんな彼らにとって、いかに素早く他者よりも多くモノを食うかが大事なのは言うまでもありません。
ちなみに、実は舌は栄養学的にも優れており、エネルギー源としてはこの上なく優秀です。

さて、次に大抵キツネが腹を破ります。これは臍あたりが最も皮膚が薄く破りやすいからです。
必然的に腹の内臓がまず出てきます。この時真っ先に出てくるのは第一胃(トライプ)と腸です。ただし、結構これを無視して腹の中に頭を突っ込み、肝臓を食うことが多いように見えます。もしかしたら血の濃厚な匂いに釣られているのかも知れません。

そしてそのまま、肝臓に隣接した横隔膜を破り心臓、肺を食っているようです。これはやはり血の匂いが野生動物を惹きつけている要因かと思います。
肺はほとんど栄養学的に特別なことは無いのですが、とても柔らかく、容易に食べられるというのが大きな原因ではないでしょうか。肺を生で食べたことがある方なら分ると思いますが、スムーズなスポンジの様です。


アフリカにて。民族料理として生肺等が振舞われました。他の臓器は美味しかったですが肺はそこまで美味しくありません。


ちなみに肺自体に血の香りはそこまでありません。ただし解剖学的に心臓、肝臓とは隣接しているので、イヌ科の動物からするとかぐわしい血の香りがするのかも知れませんね。


そして、最後に胃や腸、皮を剥いで露出した筋肉を食っているようです。

今日の総まとめ

まとめると、彼らの食事で最も優先されるのはアクセスのしやすさだと思います。
そして、ほぼ同じタイミングで出てくる食料に関しては、血の香りがする方を優先し、最後に胃や、取りにくい筋肉をむしって食べているようです。

それならトライプってあんま魅力ないのでは?
と思いでしょうが、ご安心ください。胃(特に第一胃)にはそれでも彼らを惹きつける理由があるのです。
そのあたりを次回お話します。

※今回の話は野生動物の話です。ワンコの食事事情とはわけが違う事をご承知おきください。



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