見出し画像

〔小説〕朝起きたらアザラシになっていた その5

アザラシ用の健康診断はないものかとサンシャイン水族館に電話問い合わせしてみた。

サンシャイン水族館01

「健康診断は動物病院で問い合わせてお願いします」

通話を切ってスマートフォンを置いてから姿見に映る俺を見る。

復元された_jpg_ファイル(30991)

アザラシなのでフッサフサだ。

桂歌丸

親父は落語家の桂歌丸みたいな頭だったので、遺伝でハゲる事を心配していた。

アザラシになった今の俺が毛の心配をしなくて良くなったのが数少ない救いである。

カフカの変身を読み返すと主人公に対する家族の反応が記事で読んだ引きこもりあるあると被る。

100分で名著

カフカの『変身』では引きこもった著者が親と格闘したのだろうと推測される個所や、その引きこもりに対して親も妹も息を殺してヒソヒソ会話する一幕。

それを部屋の中から聞き耳を立てる主人公。

ドキュメンタリーや知り合いを見てると必ずこの要素があった。

俺は一旦辞職して旅に出ようとしていた側なので勝手が違う。

カフカ返信では虫となった主人公がこれまでの食事が口に合わず妹が運ぶ腐った野菜を食ったりする場面がある。

ザ・フライ

俺はこのくだりを読むと映画『ザ・フライ』のワンシーンを思い浮かべたりもするが俺は15から家事も家計自分でやってきたので

「いい身分だな」

とルサンチマンな妬みを抱いてしまう。

カフカや世の引きこもりからすれば家族と葛藤が無い俺を妬むもだろう。

年末は何かと入用なので米と味噌を買い溜めするためにATMからお金を下ろそうとするが下ろせない。

画像7

俺のキャッシュカードは静脈認証型なのだがアザラシのヒレを認証してくれない。

復元された_jpg_ファイル(30998-01)

荘子の逸話で有名な胡蝶の夢ではチョウでも人でもどっちでも良くなってしまうのだが、いま俺はお金が下ろせないので人でいたいと切に願う。

つづく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?