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【創作夢日記】朝起きたらアザラシになっていた47〜猫旅館【一話完結】

※この話は夢日記風のフィクションです。実在する人物・団体名とは何ら関係ございません。100%作者の脳内妄想のみで構成されています。

朝起きたらアザラシになっていた俺は、
シーズンオフを見計らって国内旅行に出た。

SNSで募集した仲間と相談して安い宿に雑魚寝と決めた。

野生のアザラシこと野獣な俺としては個室にユニットバスとベッドがあれば充分なのでじゃらんで見つけた安い旅館に宿泊。

ドミトリーで雑魚寝も提案されたが、これまでの旅経験からセキュリティに不安があるので野獣な俺は却下した。

格安とはいえ店の看板が引っ掻き傷だらけなのが気になる。

旅館はお湯がぬるい。
夕食も味が薄い。
でも素材がいいから刺身は美味い。

廊下の猫たちに癒される。俺もつられて仮眠をとる。

食後の仮眠を済ませて起きると仲間が猫になっていた。

あれ?俺は変化ない。
「お気に召されましたか?」
女将のキルケーが挨拶に来た。

キルケーをかいつまんで説明すると、ギリシャ神話の中にある「オデュッセイア」という物語に登場する魔女だ。
物語では、この魔女が出した食事を食べた船乗りが家畜になってしまう。

しかし、俺だけ変化がないので女将に「俺だけ猫じゃねえ」と軽く問いただす。
すると、「己を知るのです」と返された。
今流行りの実存主義から取ってつけた哲学かよと愚痴ったらブリタニカ百科事典辞典を差し出された。

付箋のついたページをめくるとアザラシが書かれてある。そこに「ネコ目アザラシ科」とあった。

同じネコ目だから変わらないのかと納得。

そうと分かれば魔女相手に遠慮はいらない。
女将の静止を振り切って厨房に入っては醤油とマヨネーズと七味拝借。
味気ないので調味料で味づけして食す。
刺身が美味いが同じもの何度は飽きるからガスバーナーで刺身にマヨネーズやチーズをトッピングしてから炙り焼き。

網の上でバチバチ音を立てる刺身に女将と板前猫がブチ切れ…かと思ったら俺が作るそばからつまみ食いしていた。
客に飯作らしてるんじゃねーぞ。

つまみ食いされた腹いせに小麦粉、バター、パルメザンチーズ、塩コショウ、サーモン、アサリ、パセリ、ニンニク、バジル、玉ねぎ、長ネギ、ジャガイモ、ニンジンを寸胴鍋に放り込んだ。

こうしてスペインのごった煮シチュー「オラ・ポトリータ」っぽいものとその他を作ってやった。

オラ・ポトリータはデュマの『三銃士』にも登場する伝統的なメニューだ。
しかし、本場のスペイン、フランスでは廃れている。

元仲間と旅館の板前な猫たちが泥棒猫になって、おたまですくい取ろうとする。俺は、「これっ!」怒声あげながら前足でそのおたまを叩き落とす。

「玉ねぎ入ってるんだぞ!赤血球が壊死して死ぬぞ!!」
泥棒猫とはいえ、死なれては夢見が悪い。

猫には玉ねぎ、長ネギ以外にもニラ、ラッキョウ、ニンニクもアウト。

シチューには玉ねぎと長ネギにニンニクまで入れたからスリーアウトだ。

猫たちが物欲しそうな顔しているから「しゃあねえなあ」と呟きつつ魚の赤身を切り分けて皿に盛って床に置く。水を張った皿も添えるのも忘れない。

生の青魚を猫が食べるとビタミンB1欠乏症による嘔吐、痙攣のおそれがあるので、火を通すのも忘れない。

濃いめのシチューと土鍋で炊いた飯を食った。
満足した俺は猫になった元仲間を見やる。

病院連れて行ったら元に戻るだろうけど保険利くだろうか?

保険使えないと三割負担が十割になる。

無保険は金銭的にきつい。

21世紀のアザラシは海外旅行したいから、パスポート作成のためにも戸籍、印鑑証明、年金手帳はしっかりとってある。

職場から作成を義務付けされた関係から、マイナンバーカードと紐付けされた保険証も手元にある。

なのに無保険で医療費肩代わりをすると、帰りは新幹線を諦めるどころか、海流に流されて風まかせの帰途となるのも覚悟しないといけない。

あ、そうだ!猫にされたということはペット用ケージに入れて持ち込めばタダじゃないか。

ケージに入れて持ち帰ってから病院へ連れて行けばいい。なので女将にケージをお借りした。宿泊料は前もってじゃらんからPontaポイントで支払った。なので、お会計はない。

ケージのレンタル料も請求されたが、現金払いたくないから残ったPontaポイントで済ます。

野獣だから金は払わない。
野獣なので旅行支援の地域クーポン券もらってゆく。
野獣だから確定申告用の領収書も忘れない。

帰り際に女将から「次から廊下を歩くとき服をお召しください」とやんわり注意された。

アザラシという野獣はふだん服を着ない。

しかし、俺は記事で見た芸人さんよろしく、
「安心してください履いてますよ」
ドヤ顔で決めたのだが、体毛で下着が見えない!

下にちゃんと履いていることを口頭で説明すればするほど、女将がかわいそうなものを見る目と、引きつった笑顔でやさしく気遣いされるのだった。

豆腐メンタルな俺はいたたまれなくなってしまう。

太宰治と同じ青森県津軽地方出身の俺はメッセンジャーアプリに、

「恥の多い生涯を送ってきました。自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです」

そう書き残すと、ペット運送業者に犬猫病院へ搬送したのを見届けてから、鎌倉の海岸へ入水した。

波打つ世界に身を任せ、深い深い海の底へ沈んでいく。

しかし、アザラシなので泳いで戻ってきたのち、砂浜で日光浴して寝た。

後日、Instagramで俺の写真がことのほか世界各地に拡散され、信じられないくらいバズっていた。


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