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お客さんと喧嘩した話

三浦春馬さんの訃報はとても悲しかったです。と、同時に全くの他人なのにとてつもなく「悔しい」という感情が湧き上がってきました。


誰か気付いてあげられなかったのか、そして本人もなぜ助けを求めてくれなかったのかなあと、とにかく辛い気持ちになりました。



まだ若くて、才能もあって、将来もめちゃくちゃあって、なんでだろう?と何度も何度も思ってしまいます。



普通に考えりゃあそういう輝くであろう将来のこととか、今まで築き上げたものとかを思えば、なぜ自殺するんだと思っちゃうんですけど、よくよく考えたら「自殺」ということが普通じゃないわけで、彼にとってはそういう将来も過去も普通に見えなくなっていたんだろうと思うと、心が痛いですね。



彼の映画もドラマも好きだったので、尚更寂しいです。心よりご冥福をお祈りいたします。



こういうニュースが出ると必ず誹謗中傷があったかどうかというのが取り沙汰されますが、彼の場合はどうかわかりませんが、この誹謗中傷で心を痛めて、自ら命を絶つ人までいることを考えると、やっぱり重たい問題ですよね。



落語家の場合はどうかというと、誹謗中傷まではいかないにしても、批判的なことをネットで書かれることは良くあります。あとは単純にネタの批評みたいな感じで、この噺家のこのネタを聴いたけどダメだったみたいなのはたまに目にしますね。ただ、落語家とお客さんってかなりアットホームにお付き合いしていることが多いので、知っているお客さんはあんまりそういうことは書きません。噺家のエゴサーチに引っ掛かりますからねw



「人間関係なき批判は誹謗中傷になりうる」



この言葉は僕の尊敬する日本唐揚げ協会のやすひさてっぺいさんの言葉です。批判と誹謗中傷は違うけど、批判だと思っているものが受け手には誹謗中傷のような痛みを伴うことがあるということでしょう。知らない人からの批判だとそれが余計に誹謗中傷に変わってしまうことがあるという事です。



いじめだってそうですよね。いじめている方はそう思ってなくても、やられている方がいじめと思ったらもう「いじめ」なんですよね。



言う方と、受け取る方と、全然違うように捉えていることがあるわけです。



今でこそ少ないですけど、二つ目に成り立ての頃はお客さんから高座の後や打ち上げの席で、批判までは行かないにしてもちょっと嫌なことを言われたことがありました。



向こうは軽い気持ちで言ってても、こっちは後になっても引きずって、しばらく凹んでいることがありました。一人のお客さんに言われたことでも、それが一人じゃなくて、みんな思っていることなんじゃないかと思えてきたりして、自暴自棄になったことがありました。一人のお客さんの一言でこう思うわけですから、ネットで何百人にも言われたらそら凹みますよね。



それが段々年数が経つとわかってくるんです。「あれ?言ってくる人いつも同じ人だなあ。これこないだも言われたなあ。」って。こういう人って、誰かになんか言いたいタイプの人なんだってのがわかってくるわけです。



それで少しずつお客さんに何か言われても、重く受け止めず、受け流せる自分が構築されていきました。



だけど一度だけお客さんと喧嘩したことがありました。



師匠の悪口を言われたんです。



ウチの師匠は2005年に9代正蔵を襲名しました。以前はこぶ平という名前で、いわゆるテレビタレントとしての側面が強かったのが、襲名の前からは落語にウエートを置いて、襲名してからも古典落語を磨いて、今はテレビはほとんど減らして、高座に懸けている噺家です。



僕が入門したのが2007年なので、襲名して3年目、それはそれは稽古稽古の師匠でした。僕が見ている限りではずっと啓子しているのが師匠の印象です。こういう積み重ねが落語家には必要なんだと、僕はいつも思っています。



話は戻しますが、二つ目になって二年くらいの2013年頃でしたかね、お客さんと飲んでいる時に喧嘩になったことがあります。それまでもたまにあったんですが、師匠のことを馬鹿にする人がいるんです。やれこぶ平がどうだ、親の七光りだ、ああだこうだ。もう言いたい放題。ウチのOBにも言われたことありますからね。



僕はこういう時、何を言われても怒りません。上手いとか下手だとか、そういうことはその人の感じ方ですから。面白いかそうでないかはお客さんそれぞれあっていい。だけどその時怒ったのは、この一言があったからです。



「努力もしないで…」



これだけは許せませんでした。面白いかどうかは勝手に決めていいけど、努力してるかしていないかは、見てないんだから分からないだろうと。それを決めつけられたので、とても腹が立って言い返しました。



「努力してないって、なんでわかるの。」



特に自分は前座の頃に師匠の稽古してる姿をずっと見てますからね。とても許せなくて、その時だけは言い合いになりました。



お客さんと喧嘩したのはそれ一回です。後々分かったのが、この人はずーっと前の二つ目時代のこぶ平の高座しか聴いてなかった。最近の師匠を知らずに言ってたわけですね。



それを聴いて拍子抜けして、もうお客さんに言い返すのはやめようと思いました。喧嘩するだけ無駄ですからね。



今は喧嘩になる前、やんわりと自分の主張を伝えるようにしてます。

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