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高校生のための人権入門(5) 怒りはなぜ起きるか

人権侵害は怒りとともに行われることが多いものです。例えば、パワーハラスメントで相手を怒鳴りつけるとか、児童虐待で親が子どもをたたいたり、高齢者虐待で介護者が高齢者をカッとして殴ったりしてしまうことなどがその典型的な例です。

怒りは2次感情

怒りは心理学においては、2次感情と呼ばれます。正義感からくる継続的な怒りを除けば、多くの場合、怒りは突発的なもので、このような日常的に起きる怒りは必ず怒りの前に別の感情(1次感情)があるものです。具体的には、まず「心配、不安、焦り、恐れ」のような感情(1次感情)があり、それが相手の言動などをきっかけに一瞬で「怒り」(2次感情)に姿を変えます。ここで重要なことは、人は2次感情である怒りにとらえられた瞬間に、それまで自分が感じていたはずの1次感情をきれいさっぱり忘れてしまうことです。つまり、最初から自分はその人(そのもの・こと)に対して怒っていたかのように思い込んでしまうのです。

不安や焦りが一瞬で怒りに変わる

このようなことは、日常生活の中で頻繁に見られます。例えば、だれかとどこかに行くために駅で待ち合わせをします。しかし、約束の時間が近づいても全然、その人がやってくる気配はありません。だんだんわたしは、焦ってきます。もしかしたら、何かあったんじゃないか。困ったなあ。今日の待ち合わせ時間、相手の都合を考えてぎりぎりにしちゃったから、少しでも遅れるともう間に合わないかもしれない。スマホにも連絡がないのは、何か事故でもあったんだろうかとも思い、どんどん不安や焦りが高まります。そんなことろへ、約束の時間にちょっと遅れて、「ごめん、ごめん。」と相手が笑いながら走って来るのを見た瞬間、一気に怒りが爆発します。「何やってたんだよ。いいかげんにしろよ。」と怒鳴ってしまったりします。しかし、よく考えてみると、相手が来るまでの間、わたしの中にあった感情は、不安や焦りや恐れ(1次感情)であって、怒り(2次感情)ではありません。それが、相手の姿を見た瞬間、一瞬で怒りに変わってしまうのです。

子どもへの怒りや暴力

子どもに対する暴力も、実は同じようにして起きます。もともと親には子どもに対する愛情があり、そのために、多くの場合、親はこの子にはぜひこうであってほしい、こうあるべきだという思いも持っています。しかし、実際には子どもはなかなかその通りに振る舞わないので、親はそのような子どもの様子を見て、このままではどうなるんだろう、大丈夫かな、来年は受験なんだから少しは勉強しなきゃ不合格になってしまうぞ、というような心配や焦りや恐れを嫌でも感じています。そんな状態の中で、親が子どものためを思って言った言葉に対して、子どもが口答えしたり、無視したりした時に、抱えていた不安や焦りが一気に怒りに変わって、子どもを怒鳴りつけたり、場合によっては子どもをたたいてしまったりするのです。

怒りの前の「カチン」

繰り返しになりますが、1次感情(「心配、不安、焦り、恐れ」、場合によっては、「屈辱感やみじめさ」)は一瞬で2次感情(「怒り」)に変わってしまうので、人はほとんどの場合、一次感情を自分が抱いたことにさえ気づきません。1次感情はせいぜい、相手の態度に「カチンときた」くらいにしか意識されず、次の瞬間、わたしは怒りに支配されて怒鳴っているのです。自分の感じている怒りの強さは、自分の「正しさ」の証明になってしまいます。相手があまりにもひどいから、わたしはこんなにも腹が立つのだと思ってしまうのです。

パワーハラスメントで部下を怒鳴りつけてしまう上司は、部下を自分が思いどおりに動かせない「不安や焦りや恐れ」に支配されているので、部下のちょっとした言動に、突然、怒鳴ってしまうのです。

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