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高校生のための人権入門(6) 憎しみと人権侵害

人権侵害や差別をする人の心の中に強く巣くっている感情に、憎しみがあります。在留外国人に対するヘイト・スピーチ(ヘイトは「憎しみ・憎悪」という意味です)はその典型的な例です。

満たされない思いが憎しみを生む

人間関係における憎しみや恨みの感情は、自分自身が抱えている「満たされない思い」から生まれます。逆に言えば、満たされている人は、人をうらやんだり、ねたんだり、憎んだりしません。つまり、このような憎しみは自分自身に自信(「今のわたしはこれでいいんだ」という思い。自尊感情、自己肯定感)が持てない人が抱える感情です。

憎しみを抱える人は、あらゆる人(もの)に憎しみを感じます。ひと言で言えば、自分を含めて世界のありとあらゆるものがおもしろくないのです。しかし、実際の世の中では自分の憎しみの感情をぶちまけることができる対象は、自分より「弱い立場の人」に限られます。(自分より「強い立場の人」への憎しみをぶちまけてしまった場合は、やり返される可能性がきわめて高いからです。それはどんなことがあっても避けなければなりません。)ただし、たとえ自分より「弱い立場の人」に対してでも、憎しみを堂々と表出する、つまり、自信を持って相手に自分の憎しみをぶつけ、攻撃し、滅ぼすためには、自分を「正当化」する必要があります。単に、憎いから攻撃するのではなく、「相手が間違っていて、それを許しておいてはいけないから、みんなでやっつけるんだ」という理屈を作らなければ、周りの人に対しても自分に対しても都合が悪いのです。

ヘイトスピーチと部落差別

その時、使われる理屈が、「あの人(たち)は、こうやってみんなに迷惑をかけている。だから許せない。」という理屈です。「みんな苦労しているのに、あの人(たち)は苦労もせずに、他の人たちよりも良い目にあっている。だから、許せない。」という理屈を作り出します。このような理屈の典型が、「在日特権」です。「在日特権」なるものがほとんど中身のない、根拠のないものであること、言い換えれば「特権」などという言葉を使うのはまったくふさわしくないことが事実であることは、少し調べてみれば誰にも明らかなことです。しかし、ヘイト・スピーチを行う人にとっては、そんなことはどうでもいいことなのです。「在日特権」という言葉だけ作り上げれば、自分のたちの主張(攻撃)を「正しい」と思って、自分より「弱い立場の人」である在日コリアンなどの人たちを激しく攻撃するには充分なのです。「弱い立場の人」は、もともと「強い立場の人」である自分たちに反撃することは不可能ですから、もともと正しい理屈に基づいて「弱い立場の人」を説得したり、自分たちの主張を理解してもらったりする必要などないのです。

さらにこのような場合、自分たちが攻撃する「弱い立場の人」は、自分たちとはあきらかな外的な違い(将来、立場が替わる可能性がないような「違い」)によって区別できる人が選ばれます。自分は「日本人」だが、あの人たちは「在日」だとか、あの人たちは「被差別部落の出身」だが、自分はそうではないとか、自分は「異性愛者(ストレート)」だが、あの人たちはそうではないとかです。こういう「外的な違い」を持つ相手を攻撃対象として選ぶことによって、自分は反撃される可能性がない、まったく「安全な」場所から相手を攻撃して、自分の憎しみをぶちまけることができるのです。

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