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HUMAN TALK~人間の生活全般を建物で表現する《福永博氏》

事務所のある福岡赤坂にて

※この文章は、1993年ヒューマングループ40周年特別企画で、タウン誌「99view」に掲載されました。

住とは、”人”と”主”が組み合わされたもの。文字通り住まいとは人が主となるもの。
どんなに豪華な建物でも暮らす人が使いにくいものでは、本当の意味では住まいとは言えないのかも知れない。
今回登場する建築家の福永博氏は、建築とは住む人、使う人が主役という考えを持った人。それもただ建物だけでなく地域を大切に考える建築家である。

ヒューマングループとの付き合いは九年前に社屋の設計を依頼されてから。建築を人間生活の全般の中からとらえ表現する福永さんを尊敬し何事も相談するヒューマングループの内海さんが話を伺った。

地域に役立つ建築

内海 先生には我社の設計建築を頼んだだけでなく、その後も事業に関して様々なアドバイスをいただきお世話になっています。その一つにキャンピングカーがあります。今年、ロンドン・アメリカと回り、格好の車を見つけてきました。もうすぐ届くと思います。
先生の助言でこの事業は展開していくようなものです。ありがとうございます。今日は先生との出会いから振り返って、先生の建築感をお伺いしたいと思います。

福永 内海さんとは、ヒューマングループ本社設計からの付き合いですが、あなたの交際範囲の広さ、そして行動力には感心しています。あなたは人に好かれる要素をたくさん持っているし、また人との出会いが実にうまい。趣味かとも思うね(笑)。私は、なかなか頑固なところがあって、建築設計の依頼があっても、相手が私の建築コンセプトを理解できないようだと断ることが多いんです。実際半分以上は断っていますね。ところが、内海さんと会ったときには波長が合うというか、あなたの熱意に心打たれた。あなたの地域に対する思いが良かった。私の建築コンセプトの一つに地域に役立つことがありますが、それにマッチした。

内海 本社を建てなおそうと思ったのは、1985年のことです。母が身体を悪くしていたので、元気なうちに新社屋を見せたいと思っていました。父も私に新社屋の件は任せてくれていたので一生懸命でしたね。これからの自動車学校の建物はどうあればいいのかと考えて、九州各地の自動車学校を見て回りました。しかしどうもピンとくるものはなかった。なんか豪華すぎるんです。ところが、鳥栖の自動車学校を見に行ったら、感性に訴えるものがあるんです。実にシンプルで、それも周囲の風景にうまく溶け込んでいる。福永さんの設計だと分かり、それからはもう一直線。とにかく会いに行って設計を頼もうと思いました。

福永 熱意があったね。しかし、実際に着工にかかるまで、それから一年がかかった。あなたはその間、土地の問題、資金のやりくりをうまくクリアされた。建築を行うということは、第一に愛情を持つことだと思います。あなたは地域を発展させよう、地域から愛されようという思いがあった。私はおかげでその熱意と愛情に一年間付き合うことができたんです。以来、佐世保には何度も足を運び、あなたの友人たちとも会いました。そこで感心したのは、佐世保には原種みたいなものがあるということです。やさしさとか思いやりとか愛情、熱意がある。いい出会いがあった。

建物は住む人が主役

内海 最初、施工に当たった地元の業者は、何故、設計者は福岡の福永氏なのかと思ったようです。しかし、先生と組んだことで、随分勉強になったと後で喜んでくれました。

福永 それ以来こことは、長く他の工事を行うようになりました。これも内海さん一流の人と人とを結びつける能力かな。

内海 しかし、随分、我社は勉強させてもらいましたね。

福永 できるだけ見えない部分には手をかけないで、経済的に合理化しました。サッシも省略しコンクリートの打ちっぱなしにしました。そして、何よりも狭い敷地を広く見せるためにエントランスを庭のようにしてゆったりと奥行きが合うように演出し広がりを見せました。

内海 自動車学校という、ある種緊張する雰囲気を随分やわらげていると思います。学校に入りやすいですね。

福永 不安や不快感、緊張を取り除いていくんですね。建物というのは住む人が主役なんです。住という文字は文字通り人が主なんですね。

内海 私どものヒューマングループのコンセプトは「明・元・素」なんです。明るく、元気で、素直でという意味です。とてもそれがうまく表現されていると思います。ところで、今日お伺いした福永さんの事務所のある赤坂けやき通りの町並みにはいつも感心しています。清々しい風が体の中を通り抜けるような気分にさせてくれます。先生が設計された建物が地域に溶け込み、街の表情を作っています。おだやかでシックですね。

福永 建築というのは、人間の生活全般を建物で表現するものだと思います。文学や芸術は、それ自体で人を引き付けていきますが、建築というのは様々な立場に立って、そちらの方へ近づいていかねばならない。より現実的なんです。子供からお年寄りまで満足できるような建物でないといけない。制約があると思います。それだけに難しい表現の分野だと思います。
また、地域の風俗、伝統というものも考え、長い時間のスタンスで設計していくんです。ですから、依頼者との二人三脚がうまくいかないと失敗する。お互いの皮膚感覚、感性が重要です。微調整が必要なんです。しかし、建築コンセプトを理解して食える人と一緒に仕事ができるのは楽しいものですよ。

キャンピングカーは移動建築

内海 今、先生から勧められたキャンピングカーの事業を行っていこうとしていますが、これも先生によると建築の一種ですね。

福永 キャンピングカーは移動建築だと思うんです。あなたから学校の寮を建てようと聞いたとき、それだったらキャンピングカーがいいと提案した。これだと寮の代用もできるし、企業のイメージ、付加価値を高めていく。販売ができるし、またレンタルができる。今の時代はファミリーで自然の中に出ていくアウトドアーの時代。ニーズがあるんです。それも自然と格闘するのではなく自然と楽しむんです。それにはキャンピングカーは打ってつけですね。

内海 家ごと自然の中に身を置いて楽しむんですね。

福永 現代は何と言っても感性の時代ですよ。経営もキャンピングカーの事業のように感性が必要。建物も同じですよ。ただ住めればいいというものではない。

内海 地域に役立つ様な建物でないといけないんですね。ヒューマングループはこれからも地域と共に発展していこうと思います。今後とも良きご指導のほどよろしくお願いいたします。

■福永博さん
1945年、福岡生まれ。福岡亜医学工学部建築学科卒業。一級建築士、福永博建築研究所代表。街づくりプロデュースやインテリアコーディネートも行う。自然を愛し、釣りが好きな美食家でもある。

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