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葛藤することの大切さ(後編)

 “引き出し屋” に惹かれる親御さんたち

 ところが、近年問題になっていて訴訟が何件も起こされている “引き出し屋” と呼ばれる悪質支援業者の公式サイトには、ほぼ例外なく「就労達成率95%」とか「確かな方法があります」などと、確信に満ちたセールストークが並んでいます。あたかも「答えは私たちが知っている」と言わんばかり。そのうえ説明がわかりやすく情熱的です。
 しかし、これらの宣伝文句は嘘であることが次々と明らかになっています。
 
 私は「悪質支援業者のわかりやすさや熱血ぶりに惹かれないでほしい。不登校/ひきこもり状態はわかりにくいものだし、本人の多くは熱い支援者なんか求めていない」と言いたいです。ただ、不登校/ひきこもり状態の長期化に焦りを募らせたり暴力や束縛などの行動に疲弊したりして、そういった業者に救いを求める親御さんのお気持ちを否定することはできません。
 
 そうさせる要因は悪質支援業者の巧みな誘導だけではなく、ひきこもり支援が質量とも貧しいことや自治体の施策の不備や官民の相談機関のスキル不足によって「自分たちにできることがある」「救いを求めたら対応してくれる/受け入れてくれる」という希望をご家族に持たせることができていない、といった現状にもあるからです。
 わが子を悪質支援業者に預けた親御さんの「相談したなかでいちばん親身に話を聞いてくれたのがあの業者だった」という言葉を新聞で見たときの衝撃を、忘れることはないでしょう。

「ひきこもり人権宣言」に込められた願い

 さて2021年12月23日、私も作成に関わった「ひきこもり人権宣言」という文書が公開され、作成した当事者グループの一部メンバーと悪質支援業者の被害者親子、計5名が厚労省内で発表記者会見を行いました。
 
 宣言文には、前述した悪質支援業者の横行を念頭に「他者から目標を強制されない」など「決まった答え」を拒否する文言も入っています。こういうところにも、葛藤しながら理解しようとしたり接してくれたりする家族や第三者を求める本人の願いが表れています。
 
 親御さんにとって、決まった答えがあれば、あるいは決まった答えにもとづいてわが子を変えてくれる支援者がいたら、それは楽でしょう。反対に、葛藤しながら答えを探すことは苦しいでしょう。
 でも後者の道を歩む親御さんには「親子関係の改善」「わが子への深い理解」「自身の人生の掘り下げ」「人生観の進化」「社会的視野の拡大」など、数多くの果実を得られる可能性が開けているのです。
 
 関係者の方はもとより心の余裕がある親御さんは、ぜひ宣言文をご一読ください。本人たちの願いが人権の観点からまとめられています。
 
 ↓ 『ひきこもり人権宣言』<note「STOP! 暴力的「ひきこもり支援」」

初出:
本文=メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第256号(2021年12月27日)

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※新型コロナ禍2年目が過ぎるにあたり、当時の社会状況と「ひきこもり人権宣言」の発表という最新のトピックを背景に執筆した文章です。「ひきこもり人権宣言」の背景やポイントにつきましては、すでに転載順を替えて ↓ に転載しています。ご関心の方はご一読ください(冒頭にリンクした前編からどうぞ)。

※また、悪質支援業者に関しては、最近も拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』からの引用部分もある ↓ の書籍が出版されていますので、詳しいことを知りたい方はご一読ください。

※直前ですが、来たる12月11日(月)、逗子市の佛乗院にて「ひきこもりの8050(長期高年齢化)」をテーマに講演します。宗教イベントではなく逗子市社会福祉協議会が共催する講演と懇談のイベントですので、周辺地域の方はぜひご参加ください。

※ヒュースタでは、来たる23日(土)に家族会「ダべるの会」を開催いたします。不登校とひきこもり(おとな)合同の茶話会です(ご家族限定)。オンライン併用ですので全国どこにお住まいでもご参加いただけます。 ↓ の公式ブログ記事をご一読いただき、末尾にリンクした告知ページをご覧のうえ、よろしければお申し込みまたはご紹介をお願いいたします。

※毎冬恒例の全国研修会「全国若者・ひきこもり協同実践交流会」が今年度は来年1月6日(土)と7日(日)に岐阜市で開催されます。本編の6日はオンライン参加も可能ですので、全国どこにお住まいの方でもご参加いただけます。私は午後の「分科会7『当事者交流会』」をコーディネートします。大阪府・滋賀県・愛知県それぞれの当事者グループ代表が登壇します。
それを含む全体の詳細は ↓ の告知ページをご覧のうえ、ふるってご参加ください。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。