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葛藤することの大切さ(前編)

※2020年度と2021度の2年間、メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』のバックナンバーから厳選した100本の掲載文(コラム)を転載してきましたが、2022年度からは『ごかいの部屋』掲載文にかぎらず過去に書いた文章を毎月1~2本、時系列に転載することによって私の自称 “体験的不登校・ひきこもり論” の進展をたどりながら理解と対応の参考にしていただけるよう進めています(執筆時から年数が経っていることで修正する場合があります)。

※2022年度からは「原則として2年前までの文章を転載する」という方針で更新しており『ごかいの部屋』掲載文にかぎらず30年余り前の文章から選んで時系列に転載を進めてきました。そして現在は2年前の文章を掲載しています。そこで今月は、おととし12月に配信した『ごかいの部屋』の掲載文を転載します。同年を振り返り、前年から続く新型コロナ禍のなかで人々が生活と行動を葛藤しながら判断している状況を、不登校/ひきこもり状態にある人の周囲の人々になぞらえ、そういう態度の重要性を悪質支援業者の態度と対比させて訴えた論考です。

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オリパラに揺れた2021年

 今年も残りわずか。皆様にとってどんな年だったでしょうか。
 
 2年前の2021年を振り返ると、日本にとって重大ニュースのトップクラスと言えるのは、57(56)年ぶりに東京オリンピック・パラリンピック(オリパラ)が開催されたことでしょう。
 
 しかし、緊急事態宣言下での開催に対して世論は二分し、開催前のツイッターには賛否双方から「反対者は見るな」とか「選手は辞退して」といった確信に満ちた意見が飛び交いました。
 でも多くの方は「賛否どちらにも振り切れない」気持ちでオリパラを見ていたのではないでしょうか。私も素直に楽しめませんでしたが、躍動する選手たちを見て「良かったなあ」と思いましたから。
 
 これに限らず、翌年も続いた新型コロナ禍は私たちにさまざまな議論や対立をもたらしました。休業補償、現金給付、感染予防、ワクチン接種などなど。
 そういった論点を踏まえながら、私たちは自分の意見を持ったり行動を判断したりしている(答えを見つけている)わけですが、それらを一点の曇りもなく確信している人はどのくらいいるのでしょうか。
 
 むしろ「こういう問題/心配/マイナス面もあるけど、こうするしかないな」などと、多かれ少なかれ葛藤を感じながら答えを見つけていることが多いのではないでしょうか。そしてそれは苦しい過程ですが、答えを最初から確信しきって毛筋ほども疑わないことより、はるかに望ましい生き方ではないでしょうか。

葛藤しながら判断する

 不登校/ひきこもり状態も例外ではありません。
 
 「学校/社会復帰しなくても大丈夫」と肯定しても、社会の現状を見れば心配になるでしょうし「学校/社会復帰しなければ大変」と否定しても、本人がいじめられていたりうつ状態だったりしたら、無理して復帰させる対応は躊躇するでしょう。「そのような葛藤を通り抜けて確信できる答えを得られた親御さんがいる」というのがせいぜいです。
 
 なぜか。不登校/ひきこもり状態に「決まった答えはない」からです。
 
 そうしたなかで親御さんはじめご家族は、本人を理解するにも本人との接し方を考えるにも「これが正しい理解だ」「こうすれば必ず良くなる」などという確信が持てず「こう理解すればいいかな」「こういうふうに接したらいいかな」などと、葛藤しながら判断している(答えを見つけている)のではないでしょうか。
 
 このように考えますと、今の新型コロナ禍における生活上の課題への判断と政策への意見のありようは、そのまま不登校/ひきこもり状態への理解と対応のありようにイメージが重なります。そして、苦しく時間がかかりますが、そのように葛藤しながら本人とつきあっていくことが、本人の心理に迫り本人の望む接し方へと進展していくためには最も安全確実な道だと思うのです。

                         <後編に続きます>


 

不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。