見出し画像

教育家族から生活家族へ(後編)

教育意識が裏目に出るとき

 ただ、私がやっている相談や家族会では、不登校/ひきこもり状態にある人のご家族で「教育家族」に当てはまらないと感じるご家族はさらに少ない、というのが率直な印象でもあります。

 たとえば、本人が学校に行き渋り始めたとき、あるいは休み始めたとき、登校刺激を与えなかった親御さんはいらっしゃるでしょうか。不登校状態のわが子に「せめて勉強だけはしてほしい」と願ったことのない親御さんはいらっしゃるでしょうか。

 このような親御さんの意識は、まさに「教育家族」だからこその意識だと思うのです。私は、これを「教育意識」と呼んでいます。
 「教育意識」は “縦軸の意識” とも言えます。縦軸の意識とは、人を「善悪」「優劣」「強弱」などといった上下に分かれる価値基準に当てはめて評価し、上へ上へと上昇させようとする意識のことです。

 たとえば「通学/通勤をしないことは悪い」「この子は学力が劣っている」「仕事が続かないのは弱いから」というふうに、本人を一般の人と比較して評価し、人としての価値に上下の差をつけるわけです。

 このような「教育家族」で順調に育った人は、単純に言えば「高学歴で精神力が強い善人」になりやすいということになりますが、不登校/ひきこもり状態になったら、この価値観が仇になってしまいます。
 縦軸の意識で対応していては、本人が傷つき落ち込んでいくばかりだからです。そして、事件になることはまれだとしても “荒れ” すなわち暴言や暴力が二次症状として発現することも珍しくありません。

生活家族の価値観とは

 そこでお勧めしたいのが「教育家族」から「生活家族」に変わることです。

 「生活家族」というのは私の造語で「そもそも教育以前に、家族は生活を共にする仲間である」という認識にもとづいて考案したものです。
 定義としては「ひとりひとりが楽しく充実した生活を送りながら、全員で幸せを築いていくことを最上位の目的とした家族」ということになります。
  “縦軸” すなわちわが子を他人と比較して上下で評価するのではなく “横軸” すなわち「わが子がどのように動いても(向上しなくても)幸せならそれでOK」という「比較しない、評価しない意識」です。

 具体的には、生活スキルの伝達や健康づくりや思い出づくりなど、家族にしかできないことを積み重ねていきながら、不登校/ひきこもり状態の人がいる場合は、本人の生活の質(不登校/ひきこもりQOL)が向上するよう配慮していくことでしょう。
 このような家族になることで、本人は楽になり、生きていくモチベーションがよみがえり、エネルギーが回復していくのではないでしょうか。

 これからは、他人との比較と評価をやめ、今の本人をまっすぐフラットに見て、気持ちも新たに家族どうしとしてのつきあいをやっていきたいものです。

 と言うか、家族は本来そうあるものなのではないでしょうか。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第247号(2021年3月27日)

====================

※不登校・ひきこもりについての相談や家族会を通じて私は「不登校/ひきこもり状態になる人の親御さんには教育熱心な方が多い」という印象を持っていました。これがこの文章を執筆する契機のひとつだったのですが、ご覧のとおりその点にはふれませんでした。

※来月は、次の6月の『ごかいの部屋』に掲載した文章(コラム)を転載します。こちらは、今回言及した練馬事件の直前に起きたいわゆる「川崎バス停通り魔事件」(登戸事件)に関連して、自死した容疑者の家族に行われていたひきこもり相談の手法を批判し対案を明示したものです。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

※今回久しぶりに掲載文(コラム)を転載したメールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』。今月配信する第274号は同じような長文を掲載する順番です。前編の冒頭でお伝えしたとおり、noteに転載するのは2年先ですので、それまで待てない方は ↓ の案内ページから読者登録をお願いいたします。

※先月お知らせした不登校・ひきこもり連続講座「ヒュースタゼミナール」。本人の家族親族・知人を対象とした「家族コース」は定員に達し、お知らせしたとおり先月5月27日(土)夜にスタートしましたが、相談や家族会の従事者・志望者や市民・学生を対象とした「一般コース」(全8回)は最少催行人数に達しませんでした。そのため、日程を変更して6月22日(木)夜にスタートします。ご関心の方は ↓ の公式ブログ記事をご一読のうえ、末尾にリンクした申込フォーム付き告知ページで詳細ご確認ください。


この記事が参加している募集

これからの家族のかたち

不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。