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念願のスープヌードルを食しつつ、下位互換という便利ワードに思いを馳せる 【にほんご迷子17】

誰しも、いつかは買ってみたいものがあるだろう。それは憧れの高級車とか、贅沢なアクセサリーとは限らない。私にとって、いつかは買ってみたいものは

「日清 スープヌードル」だった。

スープヌードルとは、カップラーメン界の絶対王者「カップヌードル」の廉価版である。今時の言葉で言うなら、下位互換と言っていい。麺も少なめで、スープもあっさり目に仕立ててるとか。発売されたのは、結構昔で、下手したら20年とか経ってるかも知れない。

当時から気にはなっていた。
が、買わなかった。

買ったら負けだと思っていた。
カップヌードルは私にとって、人生最後に食べたい物ランキングTOP10圏内に入る程思い入れのある商品だ。そのカップヌードルの「ニセモノ」を食べるのは何かを裏切っているように思えた。

メーカー自身が売り出しているので偽物ではないのだが。

それにしても、メーカー自身が今で言う下位互換品を売り出すとはどういう事か。自らのブランドを貶める事につながりかねない。まあ、そのうち消えるだろう。
これまで現れては消え去ったカップヌードルシリーズは、数知れない。

で、全然消えない。

どこのスーパーに行っても大抵置いてある。ディスカウントスーパーになると、スープヌードルしか置いていない事さえある。つまりこれは、売れているという事。ユニクロからすっかりGUに鞍替えするような現象が、ここでも起きているのだろうか。

「買ったら負け」の気持ちは、いつしか「いつか買ってみたい」に変わってた。

そして、10数年の時が経つ。

で、とうとう買った。

特に大きなきっかけがあった訳ではない。
目の前に大量陳列されているスープヌードルをナチュラルに手に取った。昨今の値上がり傾向にも影響を受けたのかも知れないが、決断とはそんなものだ。

で、食べてみる。

まあ……予想通り。

麺が少なく、味も薄い。麺自体もなにか違うような。
あれだけ満を辞して買ったというのに、何の感動も湧いてこない。10数年来の思いはなんだったのか。

パッケージを見つめながらそんな事を考えてたら、ある事に気がついた。

日清食品 公式HPより


スープヌードルじゃない。



メーカーサイトによると「あっさりおいしいカップヌードル」は、2018年に発売されたらしい。正式な言及はないが「スープヌードル」の後継商品であり、事実上名前が変わったと言っていい。

6年も経つというのに、そのことに気づかず「スープヌードル」だと認識し続けてたという訳だ。

思い込みというのは恐ろしい。

それにしても日清食品は、何故「スープヌードル」という名称を変更したのだろうか?
この商品は食事のメインしては物足りない。「スープ」として食べる方がしっくり来るので「スープヌードル」でいいではないか。

当時から、スープヌードルには「カップヌードルが安くなったと思って買ったのに、騙された!」という批判があったとも聞いている。

今更「カップヌードル」を名乗るのは、誤認を助長するようなものだ。日清食品がそんなリスクをとるとは思えない。

なぜ自ら、カップヌードルの下位互換である事をことさら強調するのだろう?

…下位互換?

日清の思惑が分かりかけてきた。



下位互換という言葉は、つくづく便利だ。

それは、あらゆる物事の「ランクが程よく劣る」という微妙なニュアンスを、一言で言い表せるからだ。

この、程よく劣るというのがポイントだ。
本当の粗悪品や偽物に対して「下位互換」は相応しくない。それは、令和に生きる我々の共通認識だ。

「あっさりおいしいカップヌードル」を本家の「カップヌードル」と間違えて買った人がいるとしよう。
その人は確かに、肩透かしをくらうだろう。

しかし「下位互換の共通認識」が作用して、ネガティブな感情は起こらない。

『ああ〜。カップヌードルの下位互換か。なるほどね〜』

これくらいで済む。

これが「下位互換」の概念がない発売当初だとどうなるだろう。同じく、間違えて「あっさりおいしいカップヌードル」を買った人は

『おいおい…名前カップヌードルって。完全に騙そうとしてるだろ!!』

となり、ネガティブどころか怒りさえ覚えただろう。

これが「スープヌードル」だとどうなるだろう?
商品名が異なるので、間違えて買った人は「カップヌードルと似ている別物」と認識する。

結果として
『なんだ…カップヌードルのニセモノかよ』

ネガティブではあるが、そこまでの怒りは覚えない。
それは今でも同じだろう。


まとめると

■下位互換の概念がない発売当初
「あっさりおいしい」⇒怒られる
「スープヌードル」 ⇒がっかりされる

■下位互換の概念が浸透した現在
「あっさりおいしい」⇒納得してもらえる
「スープヌードル」 ⇒がっかりされる

日清食品の目論見がわかった。

時々の言語感覚にあわせて、リスクの少ない商品名称を都度採用しているのだ。

流石はトップメーカーだと感嘆せざるを得ない。


念願のスープヌードルは、食べる事なく終売を迎えてた。

後継商品である「あっさりおいしいカップヌードル」を食べたのだから良しとしたいところだが、定番商品ですらアグレッシブにリニューアルするのが日清食品だ。


もう、その味は想像するしかない。

カップヌードルの『下位互換』であるに違いないが。

つくづくと、本当に便利な言葉だ。


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