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【イベントレポート】EX DAY2022 今、人的資本経営へ

本イベントレポートの全文は、下記よりダウンロード可能です。
【イベントレポート】EX DAY2022 今、人的資本経営へ

学習院大学経済学部 教授の守島 基博 氏にご登壇いただいたセミナー「EX DAY 2022」をレポート化しました。
この講演では、人的資本経営が重要になってきた背景、何を意味するのかを中心に、戦略人事としての人的資本経営の進め方をお話しています。

プロフィール

守島 基博 氏
学習院大学経済学部教授・一橋大学 名誉教授
86年イリノイ大学産業労使関係研究所でPh.D.取得。サイモン・フレーザー大学(カナダ)経営学部Assistant Professor、慶應義塾大学総合政策学部助教授、慶應大学経営管理研究科教授、一橋大学商学研究科教授を経て、17年より現職。
厚労省労働政策審議会委員等を兼任。『人材マネジメント入門』、『人材の複雑方程式』、『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』などの著書がある。

「人的資本経営」とは

人的資本経営とは、「人材」を「資本」として捉えてその価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上や、経営目的の実現につなげる経営の在り方を指します。
つまり、人を大切にする経営のことです。
今や、人的資本経営は「人事が当然意識すべきこと」になりつつあります。この意識の高まりには、主に2つの背景が関連しています。1つ目は、企業経営における「人材」の重要性の高まり、2つ目は、従業員の意識変化です。

企業経営における人的資本の重要性
近年、労働人口の減少や、人材流動性の高まりにより、企業は人材確保に関して苦戦しています。「人材確保」とは、量的な側面だけではありません。重要なのは「どのような人材を確保するのか」という、質的な側面です。

たとえば最近では、業務の機械化・自動化に注目が集まっています。しかし、これらを推進していくためには、組織全体で「技術を使いこなせる人材」を増やしていく必要があります。
なぜなら、すでにデジタル技術は社会生活に広く浸透しており、一部のシステム担当者だけでカバーしきれるものではないからです。これからの時代は、あらゆるポジションにおいて、技術を使いこなし、活用できる人材が必要なのです。

また、企業変革やイノベーションは、企業価値の創造において欠かせない要素になりつつあります。そのため、「イノベーション人材」「変化に対応できる人材」など、質的な側面を満たす人材の確保は、組織の発展を目指すうえで非常に重要なポイントです。こうした、経営における人的資本の重要性の高まりや人材確保の難化は、人的資本経営への関心を高めたと言えるでしょう。

従業員の意識・価値観の変化
時代の流れとともに、従業員の価値観や意識も変化しています。そして、これも人的資本経営への関心を高めた要因の1つと言えるでしょう。
これまでは、安定的な雇用、定期的な昇給を約束していれば、従業員はそれに対応する形で労働力を提供してくれることが一般的でした。しかし最近では、雇用形態の多様化、副業解禁、ワークライフバランスの確保など、ひとりひとりがそれぞれの価値観に従って、仕事に就く傾向が強まっています。

特に、ワークライフバランス重視の傾向は顕著に見られ、職を探すときに、就職先を決定する際の重要な指標にもなっている状況です。働きやすい環境の整備は、今や社会的な期待にもなっており、企業が配慮せざるを得ない状況になっていると言えます。

また、従業員の意識変化を促した要因として、「新型コロナウイルスの流行」も挙げることができます。2020年に発生したパンデミックによって、働き方、組織の在り方は大きく変化しました。
その結果、新型コロナウイルスの流行を契機に、従業員の人生観やキャリアオーナーシップに変化が生まれ、それが人的資本経営に対する企業の姿勢にも影響を及ぼしたと言えます。

日本企業の人材育成(off-jt)投資額
「自社の人材を大切にする」と謳っている企業は多くあります。しかし、日本は諸外国よりもOff-Jtに対する投資額が低いというデータが出ています。しかも、1997年〜2007年の10年間より、2008年〜2018年の10年間における投資額の方が少ない状況です。
なかには人材育成への投資に力を入れている企業もありますが、企業全体としては、顧みるべき余地がかなりある状況だと言えます。

また、日本企業の場合は、人材育成投資額のほか、労働生産性が低いこと、つまり人材を効率的に活用していないことも指摘されています。事実、OECD38か国中の順位は28位となっています。これに対しては、従業員に適切なポジションを与えて活躍させる、将来を見据えた育成に力を入れるなど、経営・人事担当者は戦略的に人材マネジメントを行うことが重要です。

さらに、投資家や株主の視点を意識することも重要です。企業に財務的資源を提供する投資家や株主は、「人的資本を確保し、活用できているのか」という点を非常に意識しています。こうした投資家や株主の意識の高まりが、人的資本の情報開示要請にもつながっているということを企業側は認識しておくべきでしょう。

日々さまざまな「変化」が渦まく中で、企業には新しい戦略を打ち出すこと、それに対応する人材を確保すること、そしてそれに合わせて人材マネジメントの方法もアップデートするということが求められているのです。

人的資本経営の3つの側面

人的資本経営を推進するうえで、重要な要素は3つあります。
1つ目は、「人材マネジメントこそが経営」という認識を持つこと。2つ目は、「戦略人事」を行うこと。そして3つ目は、「人的資本の情報開示」を行うことです。
特に「戦略人事」に関しては、近年かなり注目が高まっているため、経営戦略と人事戦略をしっかり連動させていくことが重要だと言えるでしょう。

また、人的資本の情報開示に関しては、投資判断の重要な指標として関心が高まっています。アメリカでは、既にISO30414が制定され、日本も経済産業省が今夏に基準を公開する予定です。
つまり、今、企業は「本当の意味で人を大切にしている企業か」ということを問われているのです。
最も重要なのは戦略人事
戦略人事とは、人事戦略と経営戦略が連動した人的資本投資をすることで、人材価値の向上を図ることを指します。

人的資本経営では、人事戦略と経営戦略をリンクさせて考えることが求められます。人的資本のどこに、どのような投資をするのかは、各企業が抱える戦略課題によってさまざまです。自社の経営戦略を明確にし、何が必要なのかを洗い出すこと、そしてそれを人事戦略に落とし込んでいくことが重要です。

人と仕事のマッチングの改革
企業によって戦略人事の内容もさまざまですが、ひとつには、適所適材の人材配置を行うことは非常に重要です。
まずは、従業員ひとりひとりに期待する成果や役割を明確にすることから始めましょう。そして、「その仕事は本当にその人に合っているのか」といった視点を持つことも大切です。
従業員ひとりひとりのパフォーマンスをよく観察し、モチベーションやエンゲージメントが高まりやすくなるように整備することが重要です。

最近では、人材配置に活用できるHRテクノロジーも多く普及しています。テクノロジーを上手く活用することができれば、作業効率が上がり、企業全体の利益にもつながりやすくなるため、必要に応じて導入していくと良いでしょう。

また、日本では、これまでメンバーシップ型雇用が一般的でしたが、人と仕事のマッチングという点では、ジョブ型雇用の導入も有効です。ジョブ型雇用と言うと、「詳細な職務記述書を作る必要があり大変だ」という声もありますが、完璧に職務内容を固める必要はありません。ミッションや役割などの基本的なアウトラインは確立しつつ、具体的なプロセスは個々に任せるなど、余白を持たせたジョブ型制度でも、十分効果はあるでしょう。

パフォーマンス・マネジメント(PM)
パフォーマンスマネジメントの在り方を見直すことも重要です。
パフォーマンスマネジメントとは、従業員ひとりひとりの行動が、企業の戦略目的に向かうように導くマネジメントを指します。昨今では、ひとりひとりに課せられたミッションが異なるケースも多く、従来の成果主義の仕組みだけで従業員をマネジメントすることは難しくなっています。
そのため、1on1ミーティングのように「個々の強み・弱みを把握し、成果を出していくために必要なフィードバックを行う」といった、個別対応型のマネジメントが必要とされているのです。

しかし、従業員ひとりひとりを個別対応するとなると、当然上司の負荷も増えることになります。また、パフォーマンスマネジメントは、現場の統括者だからこそ出来る部分が多く、人事担当者がフォローすることも難しい領域です。そのため、上司へ負荷がかかりすぎないよう、HRテクノロジーなどを積極的に活用することも重要です。企業戦略や働き方の変化に合わせて、マネジメント方法についても変えていく必要があると言えます。

従業員エクスペリエンスの向上
適所適材の人材配置やパフォーマンスマネジメントのほか、従業員エクスペリエンスを高めることも重要です。従業員エクスペリエンスとは、職場の人間関係や仕事のやりがいなど、働くことで獲得するさまざまな経験を指し、近年、従業員のウェルビーイングやエンゲージメントに影響する要因として注目を集めています。

従業員エクスペリエンスについて考える際、重要なのは、安心感や幸福感だけでなく、働きがいや自己実現、成長率など、総合的な経験を高めていく必要があるということです。単に「従業員に楽をさせれば良い」ということではない点に注意が必要です。

日本は海外諸国と比較して、働きがいスコアが低い傾向にあります。そしてそれは、働き方改革で「働きやすさ」を重視しすぎたことも1つの原因だと言われています。制度・設備面の整備だけでなく、仕事にフルコミットし、成長できるような環境を整えることが重要だと言えるでしょう。それも人的資本経営の重要な要素です。

また、環境面のほか、従業員の意識自体を変えていく努力も必要です。
人的資本経営とは、人材価値を重視する経営です。そして、人材価値を高める責任は、企業と従業員の双方にあります。そのため企業は、成果責任の明確化や自己学習の推進、外部労働市場との比較といった、「従業員の自律」を促す対応が必要になります。
従業員エクスペリエンスを高めつつ、「自分は何がやりたいのか」「どのように仕事を進めるべきなのか」など、自分自身で考え、決定できるような人材、つまり「仕事自律」した人材に育てていくことが大切です。

労働人口の減少、価値観の多様化などにより、年々人材を確保することは難しくなっています。企業には、従業員目線で自社の企業価値について考え、ひとりひとりがやりがいをもって活躍できるように動いていくことが求められています。従業員エクスペリエンスを向上させることは、エンゲージメントの向上、人材の定着、企業価値の向上にもつながる人的資本経営なのです。

情報開示

昨今、人的資本の情報開示に対する関心は高まっていますが、単に開示するだけでは期待した結果が得られない可能性もあります。

投資家や株主は、企業戦略に沿った人材育成ができているのか、企業価値向上に寄与する組織文化の醸成ができているのかなど、「人的資本が本当に企業価値を高めているのか」という点に関心を持っています。
そのため経営や人事にとっては、戦略人事を実践し、情報公開できる状況を作り出せるかどうかがポイントになります。企業価値向上のビジョンが見えない情報公開や、ただ現状を公開するだけでは意味がありません。投資判断をするうえで有益な情報を公開することが求められているため、企業価値向上までのプロセスや成果などの情報を、しっかり準備し、公開することが重要だと言えるでしょう。

人的資本が経営を左右する時代にシフトしつつある今、各企業の人事部は、そのなかでリーダシップを発揮することが期待されています。企業価値創造には「人的資本のマネジメント」が不可欠要素という事実を認識し、戦略に基づいた人事戦略に落とし込んでいくこと、そして結果を含むそれらの情報を整備し、株主にアプローチしていくことが求められています。

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