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おまけ話3 広島大学医学部小児外科の講義  世界一楽しい授業!

みなさん、授業は好きですか?

僕は大好きです。
授業をするのが。

人間みんなそうだと思うのですが、好きなことを勉強するのは楽で、面白くない勉強をするのは苦痛でしかありません。
僕は確かに1浪して九州大学医学部に入学しましたが、その頃の勉強は今思うとぜんっぜん楽しくありませんでした。
だからこそ、今教える立場になって思うのです。
「楽しい授業をしたい」と。
僕は 授業=勉強を教えること とは思っていません。
もちろん必要な情報は伝えますが、1回聞いて全部理解して覚えるような人はそもそも授業なんてほとんど必要ないんです。
大多数の学生は、授業なんて聞いてもその内容は反復して叩き込まない限り、数週間もすれば完全に忘却します。
しかし!「気持ち」は消えません。
「ああ、あの先生の授業面白かったな」「そういえば、あの先生があんないいこと言ってたな…」と、心に響いてくれたり、インプレッションが強かったりすれば、その後もず~っと残ってくれるのです。
なので僕は、授業=モチベーションアップの機会 と思っています。

僕の専門は小児外科。
2020年に広島大学病院に講師として赴任して、学生への講義を始めました。
(実は最初の頃はコロナ禍でオンライン授業だったりして苦労がありましたが、それはまた別なお話で)
小児外科の授業は総論1コマ、各論2コマととても少ないのですが、少ないからこそ印象に残る授業をしなくては…!


燃えている…!

そんな中、広島大学医学部では全教員を集めて、あるお達しがありました。

「反転授業を推奨します」

……反転授業って何よ?


反転授業

どうも世界では「反転授業」がはやりとのこと。
最近の学生さんたちはデジタル世代。
スライドなどの資料をもらって「自己学習」をすることに慣れ切っているらしく、授業なんてほとんど聞かず、後でスライドだけもらってテスト前に見て学習する学生がほとんどなんですって。
なので授業では普通に教えたいことを言って聞かせるのではなく、前もって資料を配っておき、クイズ形式で授業をするとものすごく効果があがるということらしい。
それが反転授業。

おお!そうか…!
クイズかぁ…。
大変そうだけど頑張るか…。

頑張りましたよ!
実は小児外科って、他の科と比べても圧倒的に疾患数が多いんです。
子どもというだけで何でも手術しますから、全臓器を扱うのでね。
よく診る疾患だけでも優に100は超えます。
その中から医師国家試験によく出る20症例位をピックアップして…
なんかスライドの数が全部で400枚超えてるんですけど…。
作ったスライドの例がこんな感じ。ショッキングな画像は小さめです。


クイズ例(画像小さめ)

僕は凝り症なんでね。
右下にはパワーポイントのアニメーションを駆使し、5→4→3→2→1→0と回りながら減っていくカウンターを作りました。5秒以内に答えないと「判断が遅い!」と鱗〇さんに叱られます。

最初は学生に手を挙げてもらっていたんです。
でも、大学生って小学生みたいには手を挙げないんですよ。
挙げてもアザラシみたいな感じです(ぴょこ)。
うーん。面白くない。
そう思った僕は、近所の100均で大量の赤、青、黄の画用紙とマジックを購入し、画用紙を全て4つ切りにして、マジックでA,B,Cを書き、全学生120人分の回答札を作成しました。そして夜を徹して、360枚すべてを一人でラミネート加工してやりました。(狂気)


回答札

いやー。さすがに学生さんもきれいに色札を挙げてくれるので、壮観ですね。
写真が出せないのが残念なくらい。

でも、僕の遊び心はまだ止まらない!
夜中に黄色いCのカードをたくさん作っている時に、ふと思いついて、120枚のうち5枚だけ「C」をカープのロゴマークのCにしてやりました。
ここは広島ですからね!


カープのC

第1回の各論の授業。
カープのCのマークをとった学生は「ん?」という顔をしています。「俺のカード、なんかみんなと違う…?」とか思ってるんでしょうね。しめしめ。

数問進んで、正解が「C」のクイズの時!
意気揚々とカープのCをあげた学生さんに、
「カープのCをとった君!なんでそう思うの?」と質問!
その学生さんは「うわぁぁ~!ワナかぁぁ~!!」という顔を浮かべたのでした。
性格悪…。

でもでも、悪いことばかりじゃありません。
2回目の各論の授業の始まり。
今度はカープのCが売れ残ります(当たり前)。
そんな中、僕は宣言しました。

「今日の各論の授業の中で、28問クイズを出しています。今日は解答用紙もあるので、自己チェックしてください。
そして!26点以上(カープの新井監督の背番号越え)とった人は!
5年生の実習の時にそう言ってくれれば、焼き肉に連れて行ってあげます!(おおっ!)
とても難しいラインですね。でも安心してください!
カープのCで正解したら、ポイントが倍!2点です!不正解ならマイナス1点だけど!」

一気にカープのCに群がる学生たち…。
ゲンキンなやつら…。

とまあそんな感じで、楽しい授業をしているのでした。
他にもいろいろ工夫を凝らしてますけど、あんまり全部言っちゃうとマネされちゃうしー。秘密です。

そのような授業の甲斐あってか、今では5年生で実習にくる学生さんのほとんどが「小児外科の授業が楽しかった!」と言ってくれます。
あんまり内容は覚えてないけど…。

でもこの話、最後に盛大にオチがあります。
あまりにもたくさんの学生さんが「先生の授業、クイズで面白かったです!」と言ってくれるので、「ん?」と思って、
「でも、広島大学って反転授業が推奨されてるから、僕の他にも授業はクイズでしてるんでしょ?」と聞くと
「え?小児外科だけですよ…?」
「え?」
「え?」

はぁ…(ため息)

参考資料
<学会発表>
第85回日本臨床外科学会「学生教育・研究からはじめる小児外科医の育成」
<受賞>
2021年 広島大学医学部医学科教育活動インセンティブ(ベストティーチャー賞)
2022年 広島大学医学部医学科教育活動インセンティブ(ベストティーチャー賞)


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