深井根夢莉(ふかいねむり)

どうも、深井根夢莉(ふかいねむり)と申します。 投稿していく内容はショートショートや短…

深井根夢莉(ふかいねむり)

どうも、深井根夢莉(ふかいねむり)と申します。 投稿していく内容はショートショートや短編小説です。主に、ふとした時の感情等を文章や物語に組み込むことが好きです。 題材は死を連想させるものが多いかと思います。 宜しければお時間をいただいて読んでいただけたら幸いです。

最近の記事

正直者の彼、狂信者の娘3

 温かいお湯を被りながら、頭皮にこれまで感じたことのない、優しい指触りを感じる。 「あんた、どうしてここに?」  鼻歌混じりの軽い口調で彼女は唄う。どうもこうもない。ただ、生まれたところがここだったからだ。白い泡が流れていくように、私もまた転がりついて気づいたらここにいた。 「私はね」  聞いてもいないのに彼女は唄う。生まれた時に両親はいなかったこと。物心ついた頃には人ではなかったこと。そして今は、世界に噛み付くレジスタンスであること。 「それでね。私は思うんだ。」

    • 正直者の彼、狂信者の娘2

       カビの匂いと、薄暗い石畳。錆びた鉄格子のザラザラとした手触り。唯一見える、月と空。虚(うつろ)な目をした彼女は、半開きの口で呟く。 「だれ、何処か、遠く」  カツン、カツンと石を蹴る音。最低限の鎧を身につけた女は闊歩する。虚を見つめる少女に目を丸くして、タッと止まり跪く。 「お迎えにあがりました。お嬢様。」  牢の鍵を豆腐のように切り、近寄る女に彼女は怯えている。あの頃、私たちを統率していた強い目をした彼女は、剣である私を物のように使う彼女はいない。  怯える彼女

      • 正直者の彼、狂信者の娘

        プロローグ。  お婆さまは私によく聞かせてくれた。主人公を愛する女であれと。愛するとは、ただ、恋焦がれるのではなく、そばに寄り添い一生を遂げるという覚悟を持って強く生きる女であれと。  だから、私は傍の愛する人を捨てられない。体が言うことを聞かない。  彼女は目に涙を浮かべながら眼を開く。杖を片手に、輝く魔法を受けながらがら微笑む。 「私が守らなきゃ、貴方のこれからは誰が守っていくのよ」  もっと一緒に居たかった。もっと、貴方と未来を見たかった。  でも、私は貴方と

        • 竹林と筍(たけのこ)2 (短編小説)

           少女は当たり前のように玄関を開けて、ちらとこちらをみると、奥へと進んでいった。  玄関をくぐると、実家に帰ってきたような懐かしい匂いがした。昔ながらの土間は広く、使った形跡が無いほどに綺麗にしてある。靴を脱いで奥に入ると、十二畳ほどの畳部屋に少女は正座でちょこんと座っていた。 「あなた、どうしてここに?」  今まで声を聞いていなかったこともあって喋り出したことに驚いてしまった。少女にしては落ち着いた、暗い印象の声だった。 「この場所が興味深くてね。この辺りの地質を調査

        正直者の彼、狂信者の娘3

        マガジン

        • プロローグ
          1本

        記事

          竹林と筍(たけのこ)1 (短編小説)

           土と草の香りに包まれながら、ひんやりとした空気をかき分けていくと、いつしか竹林に彷徨い込んだ。 「はて、どうしたものかね」  はぁと一息つきながら、ポケットから磁石を取り出し確認するも、クルクルと回り続ける。  ふと、木漏れ日の先に目をやると、ポツンと黄色がかった空間で一本の竹に寄り添う少女が見えた。  その空間は、ほんのりと暖かく、甘酒のような匂いが肌に纏わりつくような、ねっとりとした空気が肌に触れた。  近づくと、少女の肌は絹のように白く、着物にワラジの時代錯

          竹林と筍(たけのこ)1 (短編小説)

          空に浮かぶ緑と白(短編小説)

          古い車内は、悪路に蹴躓きながらゴトゴトと音を鳴らしている。窓を開けると数時間ぶりに新鮮な空気が流れ込み、ぼやけた頭を現実に戻させた。 「いい景色だ」 空色のグラデーションにコントラストが利いているせいか青々とした緑に目を奪われる。少し不可解なことに気づいた。山の中腹から細い煙が上っている。いや、煙と言うよりかは真っ直ぐと天に向かってのびる蜘蛛の糸のようだ。よくよく目を凝らしてみると、細い糸は無数に絡まり、垂れているように見えた。 私はなぜだか気になり、その方へ走らせるこ

          空に浮かぶ緑と白(短編小説)

          朱色の夜へ溶ける彼(短編小説)

          1.切ない夜。 帰ってくると蛙がけたゝましく鳴いている。都会の空気感は薄れる。孤独だが心地よい気持ちになる。生活感の無い部屋なのに、自然に溶け込めていると思い込める。 「どうしようもなく、ひとりだ」 星空はポツポツと輝き、眼下には街の光が轟々と煌めいている。慣れた手つきでタバコに火をつけ、紫煙と暗闇が混じった恐ろしいような場面が見える。 慣れないタバコにむせながらも必死に毒を吸い込む。そうするうちに落ち着き、ただ、ほおを濡らす。 そして、飲みたくもない酒を

          朱色の夜へ溶ける彼(短編小説)