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【即興空想短編】僕たちの厨ニ小説(1)

「あぁ、あれね。もう書いてないよ、だっていま思うと、痛いじゃん。」

…衝撃が走った。中学卒業してから約半年、久方ぶりに再開した僕の相棒、"ゴートン・ノスタルジー"、つまり後藤は、こういいきって笑ってた。
「えっ、じゃあ、もう宝石の谷で魔族窃盗団と戦うところとか、天空神殿の迷宮の謎を解いて284年眠っていた神具を回収する話とかは、」
「まだそんなの覚えてるのかよ、相変わらず空想好きだなぁ、お前。」

…僕こと"グランド・フォカシ"、大森タカシはこの一連の話だけで、頭がまっしろになった。そんな、あの、おなじ小説つくってた日々は、いつの間にか終わっていただなんて…!!

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僕とゴートンは、中学の時に同じ小説好きだって理由で、すぐ仲良くなった。特に冒険物のファンタジーがお互いめちゃくちゃ好きで、いつもおすすめの本を紹介しあったり、設定や世界観で展開を空想したりして盛り上がれた。するといつしか、オリジナルで小説を書けるのではと自然と思えてきて、僕たちは2人で物語をつくるようになった。ついでにつくり方としては、まず僕が大まかなあらすじを考え、ゴートンがそれを元に世界観や設定をつめていって、最後は2人でひとつの話にまとめていった。ゴートンは本当に器用なやつで、僕のざっくりした話からキャラや世界観のイラスト(イメージボードってやつ??)を描いたり、行き詰まった展開もこうすれば解決できるんじゃない?と助言をくれたりで、「なんだか僕たち、2人で小説つくっていけそうだよね!」と、出版したらとかを妄想して、変に力のはいったペンネームまで考えた。そんなこんなで楽しい3年間だった。けど…、

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僕とゴートンは別々の高校へ進んだ。元々の学力に差があって、ゴートンは進学校、僕は近くの普通校。別にこういう別れは、よくある話だ。「だけどお互い友達でいような!」
卒業式に約束した。当然半年たったいまも友達だ。しかし、彼は変わってしまった。僕も、勉強なり文芸部なり、ゴートンとはタイミングがなかなかあわなくて、やっと会えたって感じになってしまった。まさか、3年間積み上げてきたあの世界は、こうも脆く崩れていってしまうなんて…!

「…何て言うか、ショックだった?」
さらりと問いかけるゴートン。ショックも何も、言葉がでてこないというか、
「まぁ確かにさ、中学ん時にタカシと小説つくってくの、楽しかったよな。なんか設定も何もかもめちゃくちゃだけど、自由で何でもできた的な。けど、今はやっぱり、キレイに整ってる話を読んでるだけでも、楽しいと思えて来ちゃって。」

…それ言ったら、もう何も書けないじゃん。
つまり、あのめちゃくちゃで自由な小説の続きは、もうつくれないってこと、なのかよ…!

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その後、適当なチェーンの喫茶店で話して、また会おうなと言って別れた。あっけない別れだった。

…別れ際、ゴートンは笑いながら手を振っていた。僕も笑って返した。心は穏やかに、ではなかったが。
確かに、あの物語が痛いと言われれば、それまでだ。空飛ぶ迷宮、宝石の谷、謎の技名を叫びながら剣を振り回す勇者に、適当な理由だけでコロッと恋に落ちる姫、政治が無能すぎる王様…。当時はこんな話を、いたって真剣に信じてつくってた。馬鹿じゃないかと思えてくるほど。

けど楽しかったんだよ、僕。
この話が好きなんだよ、いまでもさ!

こんな物語、くだらなすぎて、出版したら大赤字になりそうだ。
なのに、あの楽しかった妄想が忘れられなくて、実はひとりでコツコツ話をつくっていたんだ。もちろんあらすじしかできてないが。

魔族盗賊団は、勇者と仲間が苦戦しながら、助けたドラゴンの助太刀もあって追い返す、はず。
天空神殿の迷宮は、大昔に悪魔が神具を狙って襲って来たから、大天使が守るためにつくりだしたもの、のはず。

やっぱりこんなの、痛いだろ?
誰かが読むとは、思えないだろ?
でも僕だけは、読みたかった。
できれば、ゴートンと雑談しながら、設定を整えてきちんとまとめたかった。

だから僕は悩んだ。
ここで、この話を終らせるのか。
またゴートンを説得して、一緒につくるか。
ひとりで、書き続けるのか。


…答えはすぐ見つかりそうになかった。
いくら考えても、おなじ話をぐるぐると。
気づけば夜も遅くなっていた。とりあえず今日は寝るか…。
…。

(つづく)

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https://note.com/hukairi_11kaori/n/n7205a23e8519 

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