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【即興空想短編】僕たちの厨ニ小説(2)

「フォカシ、小説 書いてたんだ。」
駅まで歩いてる間、俺は久々に会った友人について、考えた。あいつに会うのは、中学の卒業式以来か。高校の文芸部でもあの話 書いてるらしいし、すげぇ、俺は何してるんだろ。

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フォカシ、って友人のあだ名は、大森タカシだから、フォレストタカシ、フォカシ"。あまりに馬鹿っぽいノリだから、そう呼んだら2人とも自然に笑えてくるあだ名だった。
そんなフォカシは今日、俺のことを"ゴートン"のまま、呼んでたな。俺の名前は"後藤"だから、読み方をアレンジした感じ。けど、こう呼んでくれる友人は、今はあいつだけ。

この俺らのあだ名は、元々、ペンネームのつもりで考えたんだ。だから今は、なるべく使いたくない。あの頃の小説書いてた思い出が、ちらついて少し辛くなる。

俺の中学3年間、積み上げてきたモノが一言で崩れてくのは、あまりに容易くて。

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俺が進んだ進学校は、意外とラフな印象の人が多かった。偏差値ってやつが高い学校になると 生徒の風紀は自由らしい。
制服や持ち物の検査なんてないし、本も漫画も持ち込んで何もいわれないのが俺には良かった。
入学してほどなく、俺には友達みたいなやつができた。主にゲームや動画や適当に好きなことの話をする、なんてことない関係だ。そいつは小説読まないらしいけど、俺が好きなことに理解は示せるやつではあった。ただ、
「…へぇ、中学の時から小説書いてるんだ。これは書き始めたの頃の作品?」

…聞いて背筋が凍った。その友人が読んでた小説は、卒業間近までフォカシと練り上げた最新作だ!それを無邪気に、素人同然みたいな評価をされてしまったんだ。

その場は笑ってごまかした。そうそう、初期の、へんてこな設定でふざけて書いた話でさ。って。

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ここから一気に、小説が書けなくなった。
確かに設定も話もめちゃくちゃだ、けどそれにさ、いかに説得力をだせるのかを、3年間やってきたのに、な。

…それからは小説書いてたのは隠すようになって、読むのだけ好きなんだというようになってた。気がする。うん、たぶんそうだな。

だからって、小説やめる理由になりうるのかってところが、妙に納得は、してない。

気づけば、目の前にバスのロータリーが見えてきた。もう駅まできたんだ。じゃあ、この話はここらでおわりだな。

…もしも、フォカシがまた2人で小説書こうとか、今日より本気で誘ってきたら、どうしよう。俺は誘いに乗るんかな。
…、…わかんね。
とりあえず、帰ろ。

(つづく)


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