個人事業主・フリーランスとしてのオランダ移住の魅力
数年住んだオランダについてまとめてみました。
この記事では個人事業主・フリーランスとしてのオランダ移住の魅力について触れ、ビザの申請ステップや移住後の具体的な情報はすべて有料記事「個人事業主・フリーランスのためのオランダ移住ガイド」にまとめました。
なぜオランダだったのか
オランダを選んだのは
ビザのハードルの低さ
英語が通じる
国として安心して住めそう
という3つの理由からです。
その中でも特に、いつなくなるかわからない条約上の特権(下で詳しくお話しします)があるうちに挑戦してみたいという気持ちが決め手となりました。
いくら住みやすい国でもビザが下りなければそこで生活することはできないので、まずビザを第一に考えます。筆者は個人事業主なので、ビザ上も個人事業主として今までやってきたことが継続できることが条件でした。
しかしこの条件、つまり起業をするとなるとどの国でも最低投資額が非常に高く、とても挑戦しやすいとは言えないのですが、その中で条件が緩く、インターネット上に情報が出回っているのがドイツとオランダでした。
特にオランダは、1912年に日本とオランダの間で結ばれた日蘭通商航海条約と1956年にアメリカとオランダの間で結ばれた友好条約を根拠として、日本国籍をもつ個人事業主・フリーランサーは他国に比べて圧倒的に緩い条件のもとオランダで起業できるという、いわば特権が2008年から存在します。
その条件は、
18歳以上で日本国籍を持っている
過去に犯罪歴がない
という2点のみ。拍子抜けされるかもしれませんが、本当にこれだけです。
申請そのものにかかる費用は約1,620ユーロ(約20.8万円)で、それに事業の最低資本金4,500ユーロ(約58万円)を足した約6,120ユーロ(約80万円)が用意できれば、世界有数の環境の良さを誇るオランダで個人事業主・フリーランサーとして働くことができます(パスポート申請費用や渡航費用、生活費などは除く)。
それに加え、これまでに個人事業主・フリーランサーとしてどれだけの収入を得てきたか、あるいはすでにオランダにクライアントがいるかどうかという点も審査対象とならず、資格や法令上の規制が関係するものを除いて事業内容は基本的に何でもOK(個人事業主やフリーランス、アーティストという区別もありません)であるところを見ると、ドイツよりも圧倒的にハードルが低いといえます。
2017年時点で日本人の個人事業主・フリーランサーにとってこれほどハードルが低く環境のよい国は他になく、ほぼオランダ一択といってよいでしょう。
ビザ取得までの具体的なステップや必要書類についてはオランダ移住ガイドをご覧ください。
日本人はビザなしで働ける?
もともと特権のあった日本人に、さらに2014年12月〜2017年1月の間のみ、日本人であれば企業に勤める場合でも労働許可が不要という特権(ここではボーナス特権と呼ぶことにします)が存在し、個人事業主・フリーランサーにも適用されていましたが、このボーナス特権は2017年1月1日をもって廃止されています。この特権は1875年にスイスとオランダの間で結ばれた条約を根拠としていました。
このニュースが誤解を生んでいるようなのですが、重要なのは、ここで廃止されたのはあくまでもボーナス特権だけであって、2008年から存在する個人事業主・フリーランサーの特権は2017年時点では今までどおり健在だということです。ただこの2008年からある特権も、今後の状況次第ではいつ廃止されてもおかしくはありません。
ビザの次に問題になるのは言葉ですが、オランダの英語力は世界でもトップクラスである上にとても聞き取りやすく、言語的な壁を感じることはありませんでした。
オランダについて
オランダ(英:the Netherlands、蘭:Nederland)は、立憲君主制のEU加盟国。人口は1650万人(東京都より少し多い)で、面積は九州より少し大きい程度です。現地にいると実感がありませんが、EUの中では最高の人口密度です。南はベルギー、東はドイツと陸続きで、北海を挟んで西側にはイギリスがあります。
12の州に分かれたオランダ本国のほか、カリブ海にはアルバ、キュラソー、シント・マールテンという3つの自治領(島)と、ボネール、サバ、シント・ユースタティウスという3つのオランダ領の島(海外領土)があります。これらカリブ海の自治領と海外領土、それにヨーロッパの本国を含めた総称が「オランダ王国(英:Kingdom of the Netherlands)」となります。
主要都市を人口の多い順に並べると、以下のとおりです。
アムステルダム(Amsterdam)85万人:憲法上の首都にして最大の都市であり、ヨーロッパ屈指の世界都市。くもの巣状に広がる運河が特徴。
ロッテルダム(Rotterdam)63万人:ヨーロッパ最大の港であるロッテルダム港を持つ近代都市。遊び心のある現代建築が数多く見られる。
デン・ハーグ(Den Haag)53万人:北海に面し、事実上のオランダの首都として王宮や国会、各省庁や大使館、国際機関が置かれる行政都市。
ユトレヒト(Utrecht)34万人:古くからキリスト教の中心地として、17世紀にアムステルダムに代わられるまで最も重要な都市とされてきた古都。ミッフィーの生まれ故郷。
アイントホーフェン(Eindhoven)22万人:オランダ南部を代表する工業都市。フィリップスやASMLなどの世界企業が本社を置き、デザインやものづくりの大規模な祭典も催される。
総人口の4割以上はアムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグ、ユトレヒトなどの首都圏(蘭:randstad)に住んでいます。
2016年現在オランダに在留届を出して暮らしている日本人はおよそ8,100人で、そのうちおよそ半数がアムステルダム都市圏に住んでいます。特にアムステルダムのすぐ南側に面したアムステルフェーンは特に日本人が多く暮らしていることで有名で、日本人経営の日本食レストランや日本食材店、日本語で対応可能な店舗やサービスなども充実しています。
タイムゾーンはフランスやドイツなどと同じ中央ヨーロッパ時間(CET)を基準としており、日本との時差は8時間です。ただし他のヨーロッパ諸国と同様、3月の最終日曜日から10月の最終日曜日までは夏時間(DST)となり、この期間だけは時計が1時間進められ、日本との時差は7時間になります。なお、このDSTは2021年に廃止される予定です。
オランダでは同性婚、ソフトドラッグの販売・所持・使用、積極的安楽死、人工妊娠中絶、管理売春はすべて合法とされています。
2015年は450人、2016年は695人、2017年は2,265人の難民を受け入れ、その大半の方がシリア出身とのことです(IND, 2017)。
オランダを表す数字
数値では測れないものもありますが、ひとつの指標として、様々な統計によればオランダは世界の中でも環境がよい国とされています。
幸福度
国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークが、ビジネス・経済、社会的支援、コミュニケーション・テクノロジー、多様性、教育・家庭、幸福、環境・エネルギー、食料・住居、政治、法律・秩序、医療・健康、宗教・倫理、交通、仕事という14のカテゴリーから世界の国の幸福度を算出したWorld Hapiness Report(世界幸福度報告)の2018年版では、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、スイスに続いて6位(日本は54位)。
子どもの幸福度
UNICEFが2013年に先進31ヶ国の物質的豊かさ、健康と安全、教育、日常生活上のリスク、住居と環境から算出した子どもの幸福度でオランダは1位(日本は6位)。
民主主義の完成度
英エコノミスト誌傘下の研究所EIU(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)が世界各国の複数性、国民の自由、政治文化を調査したDemocracy Index(民主主義指数)の2017年版では11位(日本は23位)。
報道の自由度
国境なき記者団が世界各国の複数性、報道の独立性、自己検閲などを調査したPress Freedom Index(世界報道自由度ランキング)の2018年版ではノルウェー、スウェーデンに次いで3位(日本は67位)。
汚職の少なさ
国際的な非政府組織Transparency International(TI・国際透明性機構)が世界各国の公務員と政治家による汚職の少なさを調査したCorruption Perceptions Index(腐敗認識指数)の2017年版ではカナダ、ルクセンブルグなどと同列8位(日本は20位)。
オランダと日本
オランダは日本の鎖国時代にヨーロッパで唯一貿易を行っていた国であり、日本語の「おてんば」「かばん」「コップ」「ゴム」「半ドン」「リュックサック」などはオランダ語が由来だとする説があるなど、日本との関わりの深い国です。
世界の国と同様、(健康食としての)日本食やアニメ・漫画、日本語などが注目されていて、日本文化に関係したイベントも盛んに行われています。書店に行っても日本についてオランダ語で書かれた本をよく見かけます。
オランダ最古の大学であるライデン大学には世界で初めて日本学科が設置され、現在でもたくさんの学生がここで日本について学んでいます。
言語
オランダの言語はオランダ語(北部の一部地域ではフリジア語、カリブ海ではパピアメント語)ですが、オランダ人は世界でもトップクラスの英語力を持っています(今年の英語力ランキングEF英語能力指数(EF EPI)では世界1位という結果が出ています)。
実際、体感でも95%の方々は英語で問題なくコミュニケーションがとれるため、英語だけで生活することもできてしまいます。店や電話で「英語でも大丈夫?」と聞くと「下手だけど許してね」とか「ちょっとなら喋れるよ」と言いますが、実際はスムーズに英語でコミュニケーションが取れてしまいます。
片言のオランダ語で話しかけると、すぐに流暢な英語に切り替えてくれるのでなかなかオランダ語が上達しない、というのはよく聞く話です。また英語ネイティブ独特の言い回しなどが少なく、アクセント的にも日本人にとって聞き取りやすい英語を話してくれる人が多く、コミュニケーションが取りやすいです。
オランダ国内でも英語でのイベントも活発に行われています。テレビでは英語放送のチャンネルも多く、オランダ語放送であっても英語字幕を出すことができる番組をよく見かけます。
ただし駅のアナウンス、道路標識、看板、手紙などは基本的にオランダ語だけで、商品のパッケージはオランダ語に加えてフランス語、ドイツ語などヨーロッパ本土の言語で書いてあることが多く、英語はあまり見かけません。
オランダ語にはドイツ語に近い単語が多く見られますが、英語に近い単語もたくさんあり、学び始めのハードルの高さはあまり感じません。ただし最初は、英語にも日本語にもない母音の発音に苦労するでしょう。
オランダ語の効率のよい学習方法にについてはオランダ移住ガイドをご覧ください。
経済
オランダは古くから貿易や農業、金融の盛んな国で、小さい国でありながら国内総生産(GDP)は世界で18位、国民一人あたりの額は世界で12位とされています(国際通貨基金, 2017)。
食品・家庭用品ではユニリーバやハイネケン、石油ではロイヤル・ダッチ・シェル、電器ではフィリップスやASML、化学ではDSMやAKZO、金融ではINGやABN AMROなどが大企業として知られています。
1950年代に発見された膨大な量の天然ガスの輸出国でもあります。
文化
ヨハネス・フェルメール(画家)、フィンセント・ファン・ゴッホ(画家)、ピート・モンドリアン(画家)、ディック・ブルーナ(グラフィックデザイナー/絵本作家)、マウリッツ・エッシャー(画家)、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団などが世界的に有名で、美術館やコンサートホールなどの文化施設も数多く存在します。
全国の美術館が対象の年間パスポートもあり、64.90ユーロ(18歳以下は32.45ユーロ)で1年間、オランダじゅうの美術館に行き放題になります(一部対象外あり)。
スポーツはスピードスケート、ホッケー、サッカーなどが人気です。
オランダの主な国民行事・祝祭日
オランダの国をあげての行事・祝祭日は4〜6月と年末年始に集中しています。
1月1日:元日
イースターの直前の金曜日:聖金曜日
春分の日の後の最初の満月の次の日曜日:イースター(復活祭)。オランダでは家族親戚一同で集まって食事をし、卵に絵を描きます。たまご型やうさぎ型のチョコレートも贈り合います。
イースターの次の月曜日
4月27日:国王誕生日(キングスデー)。国じゅうがオレンジ色に染まり、路上でフリーマーケットが開かれます。
5月5日:解放記念日(1945年、ドイツ軍から解放された記念日)
イースターの40日後:昇天祭
イースターの50日後:聖霊降臨
イースター後の7回目の月曜日
12月5日:シンタクラース(祝日ではない)。こどもにはプレゼントを、大人同士では相手のファーストネームのイニシャルの形のチョコレートやクラウドノーテン(小さくて丸いクッキー)を贈り合います。
12月25・26日:クリスマス。家族親戚一同で集まって食事をします。
12月31日:大晦日(祝日ではない)。伝統的にはこの日にオリボーレン(砂糖をまぶした揚げドーナツ)を食べます。各地でカウントダウンのイベントがあり、オランダじゅうの家から花火が打ち上げられます。
食べ物・水
フランス料理などと比べると確実にマイナーですが、伝統的な料理やお菓子は数多くあり、日本人の口にも合う印象です。オランダの名物としては次のようなものが有名です。
チーズ(ゴーダ、エダムはともにオランダの地名)
ビール(ハイネケン、グロールシュ、ヘルトグ・ヤンなど大手のほか、ローカルな醸造所も多数)
スタンポット(じゃがいもと野菜のマッシュにソーセージを添えた家庭料理)
エルテンスープ(スプーンが立つほど濃厚な豆と野菜のスープ)
ストロープワッフル(キャラメルシロップを挟んだ薄いワッフル)
アップルタルト(ホイップクリームと一緒に)
フレッシュミントティー(ミントの葉を入れたお湯にはちみつをかけて)
トンプッシュ(ピンクのアイシングが乗ったカスタードクリームパイ)
オリボーレン(大晦日に砂糖をまぶして食べる揚げドーナツ玉)
ハーリング(ニシンの塩漬け)
キベリング(タラのフライ)
フリット/パタット(厚めに揚げて色々なソースで楽しむポテトフライ)
クロケット/ビタバーレン(コロッケ。自販機で買うものが有名です)
パンネクック/ポファチェス(クレープのようなパンケーキ)
ドロッピェ(ほとんどの外国人が「まずい」というキャンディー)
オランダ料理専門のレストランというのはあまりないので、普通のレストランやスーパー、マーケットの屋台で探すとよいでしょう。
ベルギーやフランス、ドイツなどのビール、ワインなどもスーパーやリカーショップに行けば豊富に揃っています。アムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグ、ユトレヒトなどある程度の都市には日本人経営の日本食レストランがあり、いつでも日本的な日本食にありつけます。他にもインドネシアやトルコ、イタリア、中国、韓国など世界中の料理を楽しめるレストランは数多くあり、グルメのバリエーションでは日本に引けを取りません。
大手のオランダ系、他ヨーロッパ系のスーパーは小さな町にも必ずと言ってよいほどあり、毎週のマーケットも盛んに行われています。日本食材は日系・アジア系のスーパーでひととおり手に入ります。ネギはリーク、料理酒は白ワインなど、代用品を見つけると節約できます。
オランダの水道水は硬水ですが問題なく飲むことができ、変な臭みはなく飲みやすいです。硬度は自治体によって差があるようです。
オーガニック(有機)の食材もたいへん充実していて、大手のスーパーでも他の食材とそれほど変わらない値段で手に入れることができます。オーガニック専門のスーパーも全国展開しています。
スーパーでは壁一面が埋まるほどカット野菜が充実していて、イタリア風、中華風、オランダ風などのミックスのほか玉ねぎ、にんじん、リーク、ケールなど単体のパッケージまで一通り揃っているうえ値段もお手頃で、自炊がとても楽です。
食べるものにもよりますが、うまく節約すると一人分の食費は月100ユーロ(13,000円)前後まで抑えることができます。
日本料理店、スーパー、路上マーケット、日本食材店、オーガニック食材店の一覧はオランダ移住ガイドをご覧ください。
地理・風景
風車とチューリップはもちろん、伝統的な建築と運河の調和した旧市街や遊び心のある現代建築、そして立派な森林がすぐそこにあります。
起伏がなく非常に平坦で、自転車を生活の足とするには最適の土地です。国土の1/4は海面下にあり、オランダと聞いて思い浮かべる風車には、干拓地の排水のために建てられたものも多くあります。
街中は清掃車がこまめに走り回っていて、道端でゴミが気になることはありません。ゴミ捨て場もすべて地中に埋まっているかコンテナ化されており、綺麗な景観が保たれています。
オランダの世界遺産
文化遺産:スホラントとその周辺(フレヴォラント州)
文化遺産:アムステルダムの防塞線
文化遺産:キンデルダイク・エルスハウトの風車網(ロッテルダムの南東)
文化遺産:ウィレムスタット歴史地区(キュラソー)
文化遺産:Ir.D.F.ヴァウダヘマール(フリースラント州)
文化遺産:ベームスター干拓地(アムステルダムの北)
文化遺産:リートフェルト・シュレーダー邸(ユトレヒト)
文化遺産:アムステルダムの運河
文化遺産:ファン・ネレ工場(ロッテルダム)
自然遺産:ワッデン海(オランダ北部)
人・社会
フレンドリーで寛容、そしてゆるい社会の雰囲気があります。
オランダ語の喋れない外国人に対しても、他と変わらない笑顔で接してくれる気さくな人がとても多いです。ユーモアにあふれる人も多く、ただ日常生活を送るだけで明るい気持ちになります。
特にアムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグなど主要都市では様々なバックグラウンドの人を見かけるため、アジア人だからといって珍しがられることはありません。
「運転士が来ていないので発車できません」という電車のアナウンスで笑いが起こったり、家の修理業者が「今日は寒いのでまた今度」と言ってひと月来なかったりと、日本ではまず感じることのできない「ゆるさ」があります。日本のようなサービスに慣れていると「いい加減だ」と感じるかもしれません。
しかし見方を変えればこれは人間らしさが大切にされた社会で、店も客も対等であり、遠慮せず素の自分を出しています。日本にあるようなプレッシャーや閉塞感とは程遠い雰囲気です。
自分のスキルを通貨として使えるコワーキングスペース、持ってきたペットボトルを砕いて3Dプリンター用の材料にする施設を作り方ごと公開しているプロジェクトなど、実験的な考え方の人たちも多くいます。
安全面
比較的治安が良くないとされているエリアがあったり、自転車の盗難こそ多いものの、ヨーロッパの中ではかなり安全な印象です。個人的には今まで身の危険を感じるようなことはなく、ほとんど差別にもあったことはありません。
近くにオランダと政治的に対立する国はないため安心感があります。
地震や津波の危険はありませんが、強風や洪水には注意が必要です。
オランダ国内に2ヶ所ある原発の片方は廃炉済み、もう片方はゼーラント州(南西部のベルギー国境近く)で現在も運転中です。
支払いと物価
オランダの通貨は周囲のドイツ、ベルギー、フランスなどと同じユーロ(€)であるため、国境をまたぐ時にも両替の必要はありません。
日本の消費税にあたるオランダのVAT(付加価値税)は通常21%ですが、特定の製品やサービスには9%や免税のものもあります。
オランダは銀行口座から即時引き落としをするデビットカードがたいへん普及していて、最近では現金の使えない店やスーパーのカード専用レーンもあります。ところがVisaやMastercardであっても日本で発行されたカードは使えないことがほとんどで、オランダの銀行口座を作るまでは現金生活になります。
オンラインの支払いではiDEALという決済システムが標準で、これも同じく銀行口座から即時引き落としされるものです。
店舗ではデビットカード、オンラインではiDEALで済んでしまうため、他の国から商品を買ったりしない限りは、基本的にクレジットカードを使うことはありません。
2018年はだいたい1ユーロ=125〜135円の間で行ったり来たりしています。
その他、オランダで発生する税金や物価についてはオランダ移住ガイドをご覧ください。
個人事業主・フリーランサーの作業環境
コワーキングスペースはもちろん、基本的にどの図書館にも快適な椅子と机、電源と、高速で安定したWifiが整備されています。
自分のスキルや知識を提供すれば無料で使うことのできる非通貨交換のコワーキングスペースが全国展開しています。
交通・アクセス
ヨーロッパのハブ空港のひとつ、アムステルダム・スキポール国際空港があります。成田空港と関西国際空港からアムステルダムへ直行便があり、飛行時間は日本→オランダが約11時間40分、オランダ→日本は約11時間です。
オランダ全土に電車とバス、都市部にはメトロ(地下鉄)やトラム(路面電車)が張り巡らされていて、よほどの僻地でない限り公共交通機関でアクセスすることができます。フランス方面へはThalys(タリス)、ドイツ方面へはICE(アイシーイー)という新幹線のような高速鉄道も走っています。
旅費を抑えたい場合は、少し余分に時間をかければ特急料金のかからないインターシティ(快速列車)や高速バスでも移動ができます。
ちなみにオランダは路上でよく馬を見かけます。オランダ警察も馬に乗って街中を巡回していたり、郊外では車道や自転車道でホースライディングをしていることがあります。
また、ヨーロッパに住むことの大きな魅力のひとつに、国境をまたいでも入国手続きやビザなど何も必要がない「シェンゲン圏(シェンゲン協定)」というものがあります。オランダもこのシェンゲン協定に加盟しているため、電車でも車でもバスでも歩きでも、同じくシェンゲン圏内のフランス、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツなど近隣の国へ、県境をまたぐような感覚で気軽にアクセスできます。このシェンゲン圏は北はノルウェー、西はポルトガル、南は地中海の島国マルタ、東はギリシャまで続いています。
2019年現在のシェンゲン協定加盟国は以下のとおりです。
オーストリア
ベルギー
チェコ
デンマーク(グリーンランドとフェロー諸島を除く)
エストニア
フィンランド
フランス(海外領土を除く)
ドイツ
ギリシャ
ハンガリー
アイスランド
イタリア
ラトビア
リヒテンシュタイン
リトアニア
ルクセンブルク
マルタ
オランダ(海外領土とアルバ、キュラソー、シントマールテンを除く)
ノルウェー(スバールバル諸島を除く)
ポーランド
ポルトガル
スロバキア
スロベニア
スペイン
スウェーデン
スイス
加盟国ではないものの国境を解放している国(事実上の加盟国)は以下のとおりです。
モナコ
サンマリノ
バチカン市国
自転車環境
オランダは山どころか坂が珍しいほど平坦な国で、なおかつ全国的に自転車道が非常によく整備されていて、国民の数よりも自転車の方が多いという自転車大国でもあります。
自転車道のほとんどは車道から分離されているため車を気にせず安全に走ることができ、車道と間違えてしまうほど広くて立派な自転車道もよく見かけます。
自転車用の信号機はもちろん自転車専用の左折レーン・橋・トンネル、市内の駐輪場の空き状況が路上で確認できる電光掲示板など、自転車生活を送る上でこれほど快適な国は他にないでしょう。
寝た状態で漕ぐタイプや大きな箱を取り付けて大荷物や子どもたちを運べるようにしたタイプなど、いろいろな自転車を見かけます。
オランダの電車には自転車を載せることができ、車内には自転車優先の広いスペースが設けられています。折り畳み自転車はいつでも無料ですが、折り畳めない自転車はラッシュ時以外であれば一日数ユーロで載せることができます。
運転・道路
全体的に道路の状態はとても良く、日本ほど狭い道もあまりないため運転のしやすい国です。
ただし右側通行・左ハンドルな上にほとんどがマニュアル(MT)車ですが、日本のような坂道がないのでMT車の運転も決して難しくありません。
日本の運転免許証を持っていると、試験なしでオランダの運転免許証も取得でき、日本の免許証も手元に残ります。
国内にある有料道路は2本の短いトンネルだけであり、その他の国内の道路は高速道路なども含めてすべて無料です。
全国的にカーシェアリングが普及しているため、車を所有せずに普段は自転車を足としておいて、必要なときに15分単位で借りるということも可能です。
住宅
オランダの家賃相場はとても高く、都市部では家の契約にこぎつけるために激しい競争が繰り広げられています。特にアムステルダム・ユトレヒトエリアで家探しをするには相当な時間とストレスを覚悟した方がよいでしょう。
私見では安い物件や相場の低いエリアでは治安・騒音・悪臭・衛生・老朽化・人間関係などの問題があるため、家賃は一定水準より上を選ぶことをおすすめします。
各都市の家賃相場や、具体的に住宅を探す方法についてはオランダ移住ガイドをご覧ください。
天候
本州中部(東京〜大阪)の気候と比べると夏が涼しく冬が長いですが、春の花々や夏の緑、秋の紅葉、冬の雪などはっきりと四季を感じることができます。
高緯度で、さらにサマータイム(3〜10月は時計を1時間進める)を導入しているため、夕食後もまだしばらく明るいという時期が一年の半分を占めます。6月末のピーク時には朝5時に日の出、日の入りは22時台で、真っ暗になるのは23時ごろです。
秋から春にかけては曇り・雨が多く、12月末のピーク時には朝9時ごろにようやく明るくなり、暗くなるのは16時ごろです。
真夏の平均最高気温は22℃ほどで、エアコンがなくとも快適に過ごせます。それでも暑い日は窓を開けたり扇風機を使うことで大抵はしのげます。ただし寒暖の差が激しく、たまに熱波が来ると40℃近くまで上がったり、夏でも明け方には冷え込むことがあるので注意が必要です。
真冬の平均最低気温は0℃ほどで、ひと冬には何回か雪が数センチ程度積もりますが、数日で溶けます。通常、部屋にはそれぞれ据え付けのパネルヒーターがあるため、建物自体の断熱がしっかりしていれば冬でも快適に過ごせます。
デン・ハーグなど海に近い街では風も強く、向かい風ではまれに自転車を降りて押したほうが速いほど風が強いこともあります。
夏場の湿気は日本ほど高くなく、しかも気温が低いので不快感を感じることはありません。冬場は日本よりも多湿のようです。
教育
無償の義務教育
オランダでは5〜16歳の全ての子どもに義務教育、16〜18歳には部分的に義務教育が課せられています。基本的にこの義務教育期間中は公立・私立どちらでもほとんど無償で教育を受けることができます(インターナショナルスクールなど例外はあり)。学校にバリエーションがある
学区制はなく、教育のしかたは学校が自由に決められるため認可も無認可もなく、自分たちの教育方針や子どもに合った学校を選ぶことができます。イエナプラン、モンテッソーリ、シュタイナーなどいわゆるオルタナティブ教育を実践する学校は初等教育で10校に1校あると言われています。教科書にもバリエーションがある
教科書には日本のような検定がなく、民間の企業がそれぞれ自由に教科書を作って販売しています。宿題なし、飛び級あり
4〜12歳の子どもたちには、日本でいう幼稚園と小学校を合わせたようなbasisschoolという初等教育があります。basisschoolには宿題がなく、飛び級ができる一方で留年となる可能性もあります。
必修科目はオランダ語、英語、算数、社会(地理、歴史、生物、公民、交通安全、政治)、創造(音楽、絵画、手工芸)、体育。
12歳からは大学進学を目指すVWO、高等職業教育への進学を目指すHAVO、一般教育と職業教育をあわせて行うVMBOという3つの進路に分かれ、それぞれがそのまま大学、高等職業教育(HBO)、中等職業教育(MBO)へと続いています。VWO、HAVO、VMBOではいずれも最初の3年間に必修科目としてオランダ語、英語、ドイツ語またはフランス語、数学、物理、化学、生物、地理、歴史、政治、経済、工学、芸術(音楽・美術・ダンス・演劇の中から2科目選択)、生活技能、体育を学びます。
高等職業教育(HBO)は4〜6年制で、教育、芸術、農学、技術、社会・文化、医学、経済という7つの分野に分かれています。
医療
オランダの医療水準は非常に高く、スウェーデンのシンクタンクHealth Consumer Powerhouseがヨーロッパ37ヶ国の医療を比較するEuro Health Consumer Index(EHCI)でオランダは2005年から必ず上位3位に入っており、2011年からはスイスやノルウェーなどをおさえて6年連続で1位と評価されています。
オランダの居住者は健康保険への加入義務がありますが、これは自動車保険のように民間の保険会社が提供するパッケージから好きなものを選んで加入します。補償内容や免責額によって月の保険料は変わりますが、2018年現在は最も安いもので75ユーロ程度です。
EU加盟国の間では緊急医療サービスへ健康保険が相互に適用できるようになっているため、オランダで加入した健康保険は、緊急時には他のEU加盟国内でも使うことができます。
具体的に健康保険パッケージを選ぶ方法についてはオランダ移住ガイドをご覧ください。
宗教
2015年の統計[1]によると、オランダでは18歳以上の半分が無宗教、43.8%がキリスト教、4.9%がイスラム教、残り1.1%がヒンドゥー教・仏教・ユダヤ教などとされていますが、近年では若者の宗教離れが進んでいると言われています。教会が図書館やイベントスペースとしてリノベーションされる例も増えてきています。
筆者は特定の信仰を持ちませんが、宗教の違いによる摩擦や苦労の経験はありません。むしろ日本の宗教観について興味深く聞いてくれる印象があります。
オランダ移住ガイドの内容
以上、簡単ですがオランダのご紹介でした。ビザの申請ステップや移住後の具体的な情報はすべて有料記事「個人事業主・フリーランスのためのオランダ移住ガイド」にまとめましたので、ご検討いただけると幸いです。
記事の内容はこのとおりです。
第1章:ビザ(居住許可)を取得する
出国前
オランダ到着後(1)書類の準備
オランダ到着後(2)INDへ書類送付
オランダ到着後(3)仮の滞在許可証
オランダ到着後(4)BSNの取得・口座開設
オランダ到着後(5)事業登録
オランダ到着後(6)資本金の準備
オランダ到着後(7)INDへ書類送付
オランダ到着後(8)居住許可証の受け取り
オランダ到着後(9)健康保険への加入
オランダ到着後(10)DigiDの取得(オプション)
その後
第2章:充電・通信する
電源の準備をする
SIMカードとは
オランダの通信事情
電話番号の表記
事業用の電話番号
第3章:支払う
支払い事情
デビットカードの扱い方
銀行口座の扱い方
現金について
チップの支払い方
物価の目安
第4章:移動する
街の歩き方
電車・メトロの乗り方
電車・メトロの乗り方:電車の種別
電車・メトロの乗り方:車内の設備
電車・メトロの乗り方:チェックイン・チェックアウト
電車・メトロの乗り方:国際列車の乗り方
電車・メトロの乗り方:遅延・運休のときは
バスの乗り方
トラムの乗り方
各種割引プラン
第5章:自転車に乗る
自転車の交通ルール
中古の自転車の買い方
駐輪のしかた
第6章:家を探す・借りる
オランダの住宅事情
おすすめできないエリア
物件の探し方
家賃の最低ライン
設備
ごみの出し方
その他
第7章:外食する・自炊する
日本食レストラン
スーパー
スーパー:ボトルの払い戻し
スーパー:通常(有人)のレジの通り方
スーパー:セルフレジの使い方
スーパー:セルフスキャンで買い物
日本食材店
宅配サービス
オーガニック食材店
第8章:健康保険に入る・病院に行く
救急の場合
居住許可取得までの健康保険について
健康保険の選び方
自己負担額
カバーされる医療機関
海外での医療サービス
歯科治療
理学療法
その他
ホームドクターの選び方
受診のしかた
薬局・ドラッグストア
日本語での医療サービス
第9章:会計・税務申告をする
請求書の書き方
VAT(付加価値税)の申告
確定申告
第10章:オランダ語を学ぶ
オランダ語の学習に役立つサイト
オランダ語の教材
オランダ語教室
第11章:外で作業をする
Seats2meetの使い方
第12章:車を運転する
オランダの運転免許証の取得方法
左ハンドル・MT車
日本で見かけないもの
駐車のしかた
給油のしかた
車を借りる
注意したい交通ルール
国境をまたぐときは
その他運転事情
第13章:その他
個人事業主・フリーランスの組合
挨拶のしかた
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