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1. 映画『Soul』

Spoiler alert!

今日、たまたま見た映画、『Soul』。トレイラーでは見ていたので、人生の生きがい探しのような映画なのだろうと思っていた。間違ってはいなかったのだが、思っていたものとは違った。それは良い意味でだ。

ニューヨークの懐かしい映像がいっぱい出てくる、それだけでも心が締め付けられるような思いで見ていたのだが、それだけではなかった。コロナの感染拡大により、世界中がこの1年で変わってしまった。私の生活も例外ではなく、2年半前に始めたベーキングビジネスもちょうど1年前、店舗を持つかと言う話が出ていたのが嘘のようだが、夏にクローズしていた。10年以上、ベーカリーやレストランで働いてきて、それがパタっとなくなってしまった。馴染みのレストランも、数年前に働いていたポートランドでは人気のレストランもクローズとなった。そんな中で、自分の人生の目的、私は一体、これからどうして行けば良いんだろうか。何を目標に生きて行けば良いんだろうかと落ち込むことも少なくない。前にも書いたことがあったが、本当に行き当たりばったりで生きてきた人生。映画の主人公のように、生きる目的がジャズだ、それだけを目指して人生の全てを捧げてきたと言うようなパッションがあったわけでもなかった。けれど、長年続けてきた仕事は、技術はもちろんだが、自分に自信を持たせてくれていたし、達成感を与えてくれていた。それがなくなってしまった今、自信を無くし、大きな夢のある人々を羨ましくさえも思った。40歳手前で、新しいキャリアを始めなくてはいけないのか。果たしてそれは可能なのか。大学3−4回生のころに苦戦していた就職活動を思い出しながら、履歴書を送ってみたり。そんな日々を送っている中で、たまたま見たこの映画は私の胸を軽くしてくれた。

ニューヨークは私にとって特別な場所である。ブルックリンの最寄りの駅からマンハッタンに向かう地下鉄は地上に出る。そこから見る夕日は格別だった。どんなに仕事に疲れていても、仕事帰りに見る景色に癒されていた。休みの日に歩くプロスペクトパーク、雪が降った最初の朝、混み合った地下鉄、街のいろんなところから聞こえてくる音楽たち、この映画はあらゆる日常の風景を思い出させてくれた。そして今住むオレゴンコーストでもニューヨークでの賑やかさはないし、ポートランドのようなヒップさもない。しかしアストリアへ向かう橋を渡るときの景色、夜に聞こえてくる汽笛の音、雨の中遭遇するエルクたち、シトシトと振り続ける雨の音を聞きながら目覚める朝、そんな日常の風景に胸が少し暖かくなる気持ちを大事にしなければいけないと思い出させてくれた。

人生が行き詰まってしまった時、過去に違う選択肢を選んでいたらどうなっていただろうかとか、がむしゃらに頑張っていた若い頃の思い出とか、今の不満に焦点を当てすぎて、無い物ねだりをしてみたり。今持っているもの、経験したことを忘れてしまいがちである。そんな状況で何気なく見たこの映画は、思いがけず、30分近く泣かせられた映画であった。アメリカには、夢を叶える映画、スーパーヒーローになる映画、ハッピーエンドの映画、そんな刺激いっぱいの映画に溢れている。そんな中で、日常のありがたさを、特別なことがなくても良いんだと言うことを思い出させてくれる映画は実は珍しい。このタイミングでそんな映画に巡り合えて心底良かったと思う。

これから世の中はどうなってしまうのか、私は半年後、1年後、何をしているのか、そんなことはわからないが、とりあえず、今できることをする。そして今あるものに感謝する。落ち込んでいても良い、それでも日々のちょっとした心温まる風景をエンジョイする。言葉にするのは簡単だが、意外に実行に移すには忍耐がいるのだが、そうして日々を過ごしていきたいと思った雨の日曜日であった。


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