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すまんな、星野源

星野源が好きだった。
好きだった時期があった。

星野源のことは、自慢じゃないがそれなりに前から知っているつもりだ。
初めて彼を知ったのは、「未来講師めぐる」というドラマだ。脚本は宮藤官九郎、主演は深田恭子という豪華な面子で放送された。

このドラマの中で登場する塾講師を星野源は演じていた。ただし普通の塾講師ではない。
変態塾講師、通称「エロビデオ」というキャラクターである。

そして、中学生くらいになると星野源の曲も聞き始めた。ぱっと思い出せる曲といえば、『夢の外へ』。この曲は日焼け止めのCMにも使われていて聞き馴染みがある人も多いと思う。

(ちなみに一緒に踊っているダンサーはヘパリーゼのCMに出ていたことで有名)

今はどうかわからないが、この時期の星野源のMVは曲の中盤で告知動画みたいなのが挟まる。そして、MVの最後には星野源の台詞付きの宣伝動画が流れるのだが、毎回ふざけていた。

また、この当時を思い返してみると命とか生き方みたいな内容の曲が多かった気がする。(もちろん、この頃にくも膜下出血で倒れたこともその要因だとは思う)

なので私の星野源の印象は、コメディアンに近いものがあった。笑いを大切にしていて、人間の内面に対しての自分なりの答えみたいなことを音楽を通して表現してる根っこがしっかりしている面白おじさん、みたいな。

そんな彼が好きだった。
だが、一時期気持ちが離れてしまった。
理由は単純。
逃げ恥による、星野源スター化である。

このドラマの大ヒットから、星野源がメジャーに知れ渡ったと思う。しかも、イケメン塩顔俳優として。
エロビデオだったあいつが、である。
主題歌である『恋』を聞けばみなが踊りだす。気づけば星野源はスターだった。


「もう私の知ってる星野源はいない。
いつのまにかイケメンみたいな振る舞いしてる。キャッチーなラブソングとか歌ってる。
なんだよ、あのときの高尚な感じの、知る人ぞ知るみたいな星野源はどこにいったんだよ。
エロビデオはどこいったんだよ!」


そんなこんなで星野源から離れてしまった。が、大学生のある時になんとなく聞いた曲。
それがもう一度星野源の魅力を感じさせてくれた。『Pop Virus』である。


曲を聴いていくと、「君」という言葉がよく出てくる。けれど、なんだかラブソング感は感じない。じゃあ「君」ってなんなんだ。歌詞を読み込んでみると気付いた。

なんとこの曲は「音楽への想い」についての曲。ラブソングなんかじゃなかったのだ。
(これは星野源自身がラジオでも触れている。どんな曲なのか詳しくは下の記事へ。)

もうこの曲を聴いた瞬間に心打たれた。
まだあの時の星野源はいる。
いや、私が気付いていないだけだった。
星野源は変わっていなかった。
エロビデオは健在だったのだ。

そんなこんなでまた星野源に魅了されている。
しかも最近はよりブーストがかかっている。

どこらへんがブーストかかっているかというと、ラブソングである。
お前さっき、
「ラブソング歌うとかないわー。」みたいなこと書いてただろ。
と思ったあなた。
少し待ってほしい。
私はキャッチーなラブソングが苦手なのだ。
苦手というかハマらない。カラオケとかで皆で歌うのは好きだけど普段繰り返し聴いたりはしない。あと、正直『恋』の歌詞はよくわからなかったのもある。

ただ、最近の星野源。恋というか愛に関して饒舌すぎる歌詞を書くのだ。
ここで紹介したいのは、まず『不思議』

この曲のサビがすごい。

“好き”を持った日々を ありのままで
文字にできるなら 気が済むのにな
まだ やだ 遠く 脆い
愛に足る想い
瞳にいま 宿りだす

不思議/星野源

「言葉にならないくらい好き!」なんてよく聞くフレーズをこんな洒落た歌詞に落とし込んでる。

そして、最近アニメ『スパイファミリー』のEDにもなった『喜劇』

さぁうちに帰ろうか
今日は何食べようか
「こんなことがあった」って
君と話したかったんだ
いつの日も
君となら喜劇よ
踊る軋むベッドで
笑い転げたままで
ふざけた生活は続くさ

喜劇/星野源

いや、天才か。家族築きたてで、なんでこんな家族愛に関する歌詞かけるのよ。ほんとはガッキーと随分前から結婚してただろ、と疑いたくなる。

この曲に関してはほんとに語りたいことが多すぎる。信じられないくらい良い。
まず曲名「喜劇」て。
アニメ『スパイファミリー』は、実際にはなんの関係性もない3人のキャラクターが偽りの家族を演じるコメディ物語。
かつ、この「喜劇」って言葉。この言葉を聞いたら多くの人はこの名言を思い出すのでは。

人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ。

チャップリン

歌詞全体がチャップリンの映画『モダン・タイムス』を彷彿させるように思うのは私だけでしょうか。

そして、個人的に大好きな歌詞がこれ。

ありがとうでは
足りないから
手を繋ぎ

ここがとても良い。何が良いって先ほどの『不思議』と同様で、
言葉じゃ表現できないこと(=愛)を精一杯の言葉(歌詞)で表現して、普通に言葉にするよりも愛をダイレクトに伝えているところ。
星野源は、まじでこれがうまい。

わかりにくいと思うので具体的に例を出していうと、「私(僕)のこと、どれくらい好きー?」って聞いてくるウザイ恋人を想像してほしい。あなたは何と答えるだろう。
安易に「これぐらーい♥️」と腕を広げてしまえば、「は?そんだけ?」と怒られてしまうだろう。

ただ、星野源はこうである。


「んー、言葉じゃちょっと表せないかなー。だからさ、とりあえず手つなご?」


こんなことがさらりと言えてしまう男なのだ。


ということで、私はまたもや星野源という男にハマってしまった。
ここまで書いていて思ったのは、これまでの星野源はどちらかというと人の内面について捉えた曲が多かったが最近は人との関わりについての曲が増えた気がする。
これは、おそらく仕事が増え、色々な人と関わる機会が増えたことや結婚など様々な要因があったからだろうと思う。
そして、おそらく私が星野源倦怠期に入ったのは、
①面白おじさんの側面が見えなくなってきていたから
②私が人との繋がりを大切にしてこなかったから
(中学高校時代、本気で1人で生きていけると思っていた)
だろうと考察する。

今や①に関してはもう仕方ないと割り切ることにした。星野源はもうエロビデオなんかじゃない。今や塩顔イケメン俳優だ。主演の器だ。これはもう割り切らざるをえない。
②に関しても大学生活や社会人生活を通して、遅ればせながら人間はかかわり合いながら生きていることに気付いた。
そんなわけで倦怠期を抜けた今の私に星野源は染みる。

今まで悪かった、星野源。これからも応援している。ただ、たまにはエロビデオの部分を見せてくれてもいいんだぜ。



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