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表現はアーティストだけのものではない。「よりどころ」としてのアート。

「アート」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?

私はというと、つい最近までは、あまりアートには縁がないなあと思っている系の人でした。というのも、アートと聞くとどうも、どこか「高尚なもの」というイメージが先行してしまい、自分の普段の生活ではあまり身近に感じないものだと思っていたんです。

でも今回、本来なら全く別の切り口で話を聞こうと思っていたインタビューで、「アート」や「表現すること」、またそこに至るまでのプロセスについて自分の考えを変えるきっかけに出会ったので記事として形にしようとおもいました。

CIVILSESSIONという試み

CIVILSESSIONというアートセッションがあります。
このセッションはCIVILTOKYOというクリエイティブチームによって開催されているもので、これまでに様々な場所でvol.30まで開催されてきました。そのうちの3回はここ、Impact HUB Tokyo (IHT)で開催されました。

CIVILSESSIOはクリエイティブチームCIVILTOKYOのメンバーが様々な分野の方と行うアートセッションです。決められたキーワードを元に、発表者たちが一週間で作品を制作します。キーワード発表から一週間後にそれぞれの作品のプレゼンを行い、参加者の投票でグランプリを決定します。(出典:CIVILSESSIONのnoteより)


なぜこのようなアートセッションが、IHTのようなコワーキングスペースで開催されているのでしょうか?IHTのコミュニティ・ビルダーとしてこの企画の共催を担った、高橋真美さんにお話を伺いました。


大事なのはクオリティではない、クリエーションのプロセスで何を考えたのか

ーー真美さん自身も一度、発表者としてこのイベントに参加したことがあるのですよね。制作のプロセスや観客の前での発表を通して、印象的だったことはなんでしたか?

思い切って参加を決意したものの、やはり仕事をしながら制作ができるのかというのを不安に思っていたので、CIVILTOKYOのメンバーに「作品のクオリティを担保しないといけないのか?」というのを聞きました。

そしたら、

「みなさんそういったイメージを持たれるが、それは私たちが意図しているものと違う。作品が完成していなくてもいい。大事なのはテーマに関して何を考えたのか?それに対して自分は何を想像して、どう表現してみようと思ったのか?そして、そのプロセスで何を考え、悩み、どういう発見をしたのか?というのを制作と発表を通して楽しんでもらいたい」

という答えが返ってきたんです。

なるほど、と思いましたね。私は、大学の専攻はグラフィックデザインなので、制作と発表という組み合わせはある程度こなしてきた経験がありました。

しかし、その後、職業としてデザイナーにはならなかったので、まさに作品プレゼンなんてほぼその時以来。かつ、当時は成果物のクオリティを問われることも多く、今回も完成度の高い作品を作ってこなければ、と早とちりしていたところがあったんですよね。

ーーそもそもの、クオリティというものは求められていなかったと。

そうなんですよ。実はCIVILSESSIONへの挑むべき姿勢は、私が持っていたイメージや思い込みと全く異なっていたんです。

今振り返ってみると、作品制作をしている時よりも、当日発表している最中が一番気分が高揚していました。

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くじびきで発表の順番が1番目になってしまい緊張もしたんですが、一方的なプレゼンテーションとは程遠く、観客と発表者が混ざり合いジャズバンドのセッションのように会場のヴォルテージが上がっていったんです。これがCIVILSESSIONの醍醐味のひとつだと感じました。


プロのアーティストではない人がクリエイションする意義

ーー様々な業種の起業家が多く集まるコミュニティでの開催ということで、普段からデザインや作品制作に関わっている人ではない人がほとんだと思いますが、どんな面白さがあるのでしょうか?

私ごとになってしまうのですが、大学を卒業後はプロとしてアートやデザインに関わるということはなかったのですが、だからといってそれらとは無縁になってしまったのかというと、そうではありません。


アートとは、人間がもつ差異やジャンルを超え、新たな契機や思考のきっかけ、発見を与えてくれるもの。時には無意識での可能性をも引き出してくれるものだと思っています。


だからこそ、CIVILSESSIONのような「あらゆるジャンルの発表者が、ひとつのテーマと対峙する」そして「それを受け取る観客」というのが入り混じるセッションという場は、IHTの起業家にとっても非常に意味深い存在なのです。


表現はアーティストだけのものではない

ーー私自身は、アートに親近感というか、アートに対して「自分のもの」という印象をもったことがないんですよね。。。

本当にそうでしょうか?見方を少し変えてみるだけで、私たちの周りにはたくさんのアートがあるということに気がつけるかもしれませんよ?

ーーたしかに!うーんと、例えば私のこのラップトップに有象無象に貼られたステッカーもアートの一つかも。しかも、結構、政治的メッセージが強い子たちを貼っているので(笑)、私なりの表現ということになりますね。


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そうなんです。「アート」や「表現」と聞くとどこか敷居が高い印象を受ける人もいると思います。しかし、現実が辛く、耐えられなくなった時にアートというものはある種の救いになると思っているんですよ。

アートというものは「よりどころ」として万人に存在しているものであり、万人のものだと考えています。


「よりどころ」としてのアート

ーー「よりどころ」ですか?

私も過去に、引きこもりがちになり、自分の殻の内にこもってしまったことがあったんです。でも、そんなときに外の世界との繋がりになり、救ってくれたのが音楽の存在だったんです。

ーー音楽も私たちに身近な「アート」ですね。

そう。それらに刺激を受け、私自身も少しづつ表現をしていくことが好きになりました。先ほど、アートは敷居が高いと感じる人もいるかもしれないと言いましたが、アートというものは実はすでに私たちの中にあるものなのかもしれません。

自分が何を感じて、どう表現しているのか。それはどんな形であってもいいと思うんです。言葉でも、音でも、文字でも、もちろん視覚情報が伴うような絵やデザインでも。

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自分の世界観を知ること、自己表現を見つめ直すこと。アートに心動かされた時、そして自分で表現をしようとしてみる時には、必ず自分を主語にして見つめ直すというプロセスが起きているはずなんです。そういう意味でアートは「よりどころ」だと思います。

ーー自分を主語にして考えてみた時に、現れるもの、それがアート。なんだか自分のことが少し認められるような気持ちになってきました。

なので、このセッションのようにアートを通して表現することを体験してもらうことで、その人ならでの表現方法や世界観を知るきっかけになればいいと思っています。

ーー日常の仕事が、必ずしも作品を作ったり、何かをデザインしたり、というものでない人にとって、このCIVILSESSIONのような自己表現の場が非日常的に舞い込むのはおもしろい仕掛けになるかもしれませんね。

「起業は自己表現である」とすると、起業家にもなにかを表現するということを体感してもらいたいと思っています。


だからこそセッションという形が面白い

CIVILSESSIONの面白さはまさにそこにあると思っていて。プロじゃなくていい、むしろ普段別の業界で活躍している人たちが、非日常的な機会でアートに向き合ったらどのような表現になるのか?

そしてテーマに向き合いながら、制作のプロセスを楽しみ、発表の場では観客とセッションを繰り広げる。それをIHTの起業家の皆さんに体験してもらいたいと思いました。

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コミュニティとしても、ひとりの発表者の体験を発表の場で追体験することで気づきや刺激を循環させていきたいという狙いもありましたね。

IHTとしても、こういう催しを重ねていくことで「文化」を作っていきたいという想いがあるので、今思い返してもとてもおもしろい試みだったと思います。


"VINTAGE"というキーワードをテーマにIHTで行われたセッションの様子

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マイクロ ヴィンテージという概念をゼミの形式で提案する片桐奏羽さん


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時間は楽しいや辛いなどの感情に比例して相対的に進むという感覚に目をつけ、その感覚通りに動く時計を作製した並河進さん


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未来から見たヴィンテージを想像してみた三塩佑子さん


Vol.30の詳しい当日の様子やグランプリに選ばれた作品については以下のnoteよりご覧いただけます。


まとめ


自分とは何か?
何を考えたのか?
そして、どう表現したいのか?

とあるテーマに沿って自分を見つめ直し、問いを投げる。いわゆる「クリエイターではない人」たちがそんな非日常をアートを通して体験し、共有することで、新たな気づきや刺激が連鎖的に生まれ、コミュニティに循環されていく。

そしてやがて、それらは文化になる。

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起業家が集まるコミュニティで行われたアートセッションには「自分を主語にして問いに向き合う」という秘めた想いがありました。


そして、そんなインタビューを行なった私にとっても、それまでなんとなく非日常的と感じていたアートと自分の関係を振り返るきっかけになりました。

たとえ、アーティストでなくても、プロでなくても、そしてアートが大好きだと公言していなくても。

自分の中にも無数のアートの「よりどころ」というものは既に存在していて、それが知らず知らずの内でも積み重なっていって自己表現が確立されており、自分のおもしろさでもあるんだ。ということに改めて気が付くことができたインタビューとなりました。

また、おもしろいインタビューができたらこのように綴ってみたいと思います。


ちなみに、最近、書いているのはコミュニティ・ビルディング理論というシリーズ記事です。

私が入社からの3年間でコミュニティ・ビルダーとして起業家のコミュニティに関わり、たくさんの失敗や挑戦、そしてチームとの議論を通して蓄積してきた暗黙知を言語化してみるプロセスを公開しています。


現在、第2話まで連載中。

もし興味があればご一読いただけるとうれしいです!



取材・執筆:Kody (Impact HUB Tokyo)


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