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チャンスをぶち壊さないために。【前編】 – 中川典彌 × 佐藤かつあきトークイベント −

「なんか、雨は雨で、いいなって思ってて。」

小雨の降る初春の日曜日。
熊本に住む人々の憩いの場・江津湖のほとり。
水と光と緑と風に包まれたON THE PARKに、
いそいそとテントが立ち並びました。

ふわりと立ち昇る、ハンドドリップコーヒーの香り。
沁み渡る、ウクレレとギターの音色。

「天気が悪くても、こうやって外でトークイベントをできるっていうのが、僕はなんか、嬉しいんですよね。」

そこには、キャンピングチェアにゆったり腰掛ける
クリエイティブディレクターの佐藤かつあきさん、
そして、映像作家の中川典彌ふみやさんの姿がありました。

そう、この日はアーティストスポット熊本にご登録いただいている
アーティストのみなさんとの交流会。

熊本を拠点に、全国へと活躍の幅を広げるお2人から、
「チャンスを“ぶち壊さない”ために」をテーマに
熊本のアーティストの皆さまと一緒に、お話をうかがいました。

これは、アーティストやクリエイターだけへ向けたメッセージではありません。
自分の地域を盛り上げ、仕事をしていきたい全ての方への
お2人からのアツい激励のメッセージ。

自分の仕事のこれからに悩む全国のみなさまへ、
熊本からお届けしてまいります!


まだ何者でもなかった自分が
「映像クリエイター」としてチャンスを掴むために

映像作家・中川典彌さん

●システムエンジニアから映像クリエイターへ

佐藤かつあきさん(以下、かつあき) 中川典彌ふみやくんが、映像クリエイターとして独立したのは2019年。その翌年には世の中はコロナ禍となり、その当時は僕らでさえ、本当に毎日「大変だ」って言いながら仕事をしていた時代でした。

 しかし、そんな状況下にも関わらず、中川くんはたった4年という月日で、あっという間に熊本の映像業界のトップランナーへと駆け上がった。このストーリーがすごくおもしろいなと思って。

 この4年間で作った映像作品は、合わせるともう150本を超えるとか。でも、全く違う業界からの転職だったわけですよね。最初はどうやってお仕事をもらってきたんですか?

中川典彌さん(以下、中川) 前職はシステムエンジニアをやっていました。映像をずっと学んでいたわけでもなかったので、知識も技術も人脈も全くのゼロ。そんな時、知人が「1週間後に、熊本のトップレベルのクリエイターが集まる飲み会があるから、中川くんもおいでよ」と声をかけてくれたんです。

 そんな人たちにお会いできるチャンスだというのに、当然ながらその時には、作品のひとつも持っていなくて。「これはやばい、『映像クリエイター』として覚えてもらうためには、名刺代わりの作品がないとダメだよな」と思い、その1週間で1本作品を作ることにしました。

 その時ちょうど、兄が店長を務める熊本の人気美容室「AOZORA HAIR」さんから「うちのPVを作ってみない?」と声をかけてもらっていたところだったんです。「よし、これを作品として仕上げよう」と、頼み込んで急遽撮影もさせてもらい、そこからはもう徹夜。「とにかく間に合わせなければ」と思って一気に仕上げて、その作品を飲み会へと持っていきました。

中川典彌さん(左)と佐藤かつあきさん(右)

●相手の関心を引き寄せる

中川 でももちろん最初から、こんな無名のわけわからないやつに「作品見せてよ」と言ってくれる人はいません。そこで、前職で培った飲み会でのコミュニケーションスキルをフル活用して、まずは周りの人からいろいろなクリエイティブのお話をとにかく聞くことから始めました。すると人が集まってきたので「ここだ!」とばかり、「実は僕、映像作ってきたんです」と言ったんです。すると、みなさんが興味を持ってくれました。

 でもそこで僕は、その場で一度に全員には見せず、iPhoneとAirPodsを渡して、「1人ずつ見てください」とお願いしたんです。飲み会でガヤガヤしている中、小さい画面で見せられても、相手を感動なんてさせられないじゃないですか。そういうのってすごく大事だと思ったので。

かつあき それって、Web制作会社の社長さんとか、僕も知っているようなすごく勢いのある人たちが集まっている会で、若手の中川くんが、その人たちに「1人ずつ見てください」って言ったっていうことだよね。

中川 そうです。ありがたいことに、1人目に見てくださった方がすごくいい反応をしてくださって。そこから周りの人たちも、「なになに?」って興味を持って見にきてくれました。さらに飲み会のテンションもあって、その場で仕事の依頼をくれた方もいたんです。

かつあき 本当にそういうのってありますよね。

ON THE PARKにて。会場では素敵な音楽の演奏も。

●自らチャンスを掴みにいく

中川 その飲み会には、Web制作会社の方やマーケティング関係の方、タレントさんなども来ていました。そういった、映像は作っていないけど、映像に対して感度の高い人が集まっている場っていうのは、絶好のプレゼンの機会なんです。そして僕はそのチャンスを見逃さず、ちゃんと自分から掴みにいった

 さらにここで、「映像クリエイター」として印象に残すために「作品」を持って参加したことも重要です。ここで作品を作っていなかったら、ただの“何者でもない若い人”になっちゃいますから。

 もちろん、そこで大コケする可能性もあります。でもそこで「まだ映像始めて1週間なんですよ」と言うと、その頑張りを応援してくれる人も現れます。1番最初につくる作品って、そういうチャレンジが許される時でもありますよね。

 そして、AirPodsを使って1人ずつ見せる、という「見せ方」にもこだわりました。そうでなければ、映像を始めて1週間の僕の作品では「いい感じの映像だね」で終わってしまっていたかもしれません。イヤホンをつける、というその動作ひとつで、空気感が変わります。そういう「空気感を味方につける」というやり方は、僕がこれまでの4年間、変わらずやり続けていることです


空気感すらも味方につけて、
最後の最後まで丁寧に届ける

雨と土の香りのする会場でトークをするかつあきさんと中川さん

●作品は最初の「見せ方」が重要

かつあき この「空気感を味方につける」というのは、表現者としてすごく重要なことなのに、できている人ってあんまりいないんですよね。作ったら、それをただ見せればいい、聞かせればいい、と思っている人が本当に多い。

 そうじゃなくて、どう届けたら一番相手に感動させられるのか。その届け方までこだわる。先ほどの中川くんのように「1人ずつイヤホンして見てください」なんて、ちょっと図々しくも聞こえるけど、でもそういう行動ひとつで、相手がどんどん引き込まれる。逆に「へぇ、おもしろいな」って思っちゃいますからね。

中川 作品を世に届けたいと思った時、自分自身の発信よりも、熱量を持ってシェアしてくれたファンの方の発信の方が強いと思うんですよ。作品自体のメッセージに加えて、その最初に届けた人たちの熱量も一緒に乗ってきますから。

 だからとにかく、作品は最初の見せ方が重要いかに最初に届けた人に感動してもらえるか。だから僕は、自分の作品を届けたい人に120%良く見てもらえるようにと、自分で音響設備もある映画館すら作ってしまいましたから。

かつあき 文化遺産としても登録されている、早野ビルに作ったバー併設の映画館のことですよね。

中川 そうです。雰囲気も抜群、でっかいスクリーンで、超いい音響設備も整っていて。もう、なんなら映像が微妙でも感動しちゃうくらいの空間になっています。

桜舞い散るON THE PARK

●大切な作品は、最後の最後まで大切に届ける

かつあき わかるなー。自分でつくったものは、我が子のようなものだと思うんですけども、それをなんか、裸のままで無造作に置いちゃっている感じですよね。

中川 まさにそれです。せっかく我が子のようにつくった作品をみんなに紹介するという、最後の最後の瞬間がなぜかみんな雑なんですよね

 作った作品を、SNSにアップするだけで本当にいいのかとか。まずは身内で、映画館で試写会をしてからの方がいいんじゃないかとか。

 やっぱり大切なものは大切に。空気感も味方につけながら届けるということは、ずっと意識しておきたいですね。


YouTubeの10万再生よりも、
目の前の人を喜ばせることの方が
次のチャンスに繋がる

雨の中、お集まりいただいたみなさまと。

●その作品で喜ばせたい人は誰なのか

中川 今はインターネットやSNSなど、いろいろな発信ツールがとてつもなく普及している時代です。だからみんな、最初自分が「仕事をもらうために」とか、「何者かになるために」と、まずSNSでの発信を頑張る人が多い。でも僕は、そこが落とし穴なんじゃないかと思っています。

 やっぱり大事なことは、ちゃんとターゲティングをすること。誰を喜ばせるために映像を作るのかを間違えたら、いい作品はつくれません。

 例えば、映像をつくる人であれば、結婚する友人に「ウェディングムービーつくってくれない?」って言われることは多いと思います。これって、超大チャンスですよね。でもその時に、動画クリエイターを始めたばかりの子が何を頑張ってしまうかというと、YouTubeでバズった動画を参考に、同じような演出をやってしまうということなんです。しかも、それがバズらない。

 これは最初の時点で、ターゲティングを間違ってしまっているからなんじゃないかと思うんです。このウェディングムービーで1番喜ばせるべきなのは誰かと言うと、新郎新婦さんと、そしてそこに列席する50人、100人、またはそれ以上の人たちですよね。YouTubeの先にいる、全く知らない誰かではない。

 この人たちが涙するくらい喜んでくれる映像を作ることができたら、列席してくれていた方たちから、次の仕事へとチャンスがつながっていくものです。

 でもSNSのような、広く周知できるツールができたことで、そっちを狙いに行ってしまって仕事が1件も来ない、みたいな相談をよく受けます。そういう落とし穴にはまってしまっている若い子が多い印象がありますね。

みなさんからの質問に真剣に答える中川さん

●次の仕事への本当の近道は、「目の前の人を喜ばせること」

かつあき なるほどね。これはなかなか伝わっていない部分かもしれないですね。みんな、すぐに結果を出したくて、ショートカットしたくなっちゃうんでしょうね。

中川 YouTubeで10万再生の動画を作るのは、もちろん簡単ではありません。でもそれでどれだけ広告収入を得られるかというと、何ヶ月もかけてたった2万円とか、そのくらいのものです。

 でもウェディングムービーは、1回で3本の映像を作るとしたら相場が30万円とかなんですよね。たった2人と、そこに列席している人たちのために作った映像で、目の前の人たちにめちゃくちゃ喜んでもらえて、さらにちゃんとした収入にもつながる

 仕事をもらうには、YouTubeで10万再生を目指すのではなくて、目の前の人を喜ばせることが1番の近道なんだと思います。


●気になるトークイベントの続きはこちらから


【登壇者プロフィール】

●中川典彌 Nakagawa Fumiya / 映像作家

株式会社CREIT取締役
株式会社映gent Ro.man 代表取締役
映像作家 / 空間演出家
IT企業で執行役員として医療システムの開発を行ったのち独立。2019年に、独学で習得した知識・技術をもとに、プログラマーから動画クリエイターへ転身し、株式会社映gent Ro.manを設立。企画から制作までの全工程を自身で行い、地域の公式PV、企業PV、テレビCMなど4年間で制作した作品は150本を超える。

●佐藤かつあき Sato Katsuaki / クリエイティブディレクター

さとう かつあき。1978年生まれ。佐世保市出身。福岡、東京の広告代理店やデザイン事務所でアシスタントをしながらデザインを学び、2010年に熊本県上天草市へ移住。2013年「株式会社かつあき」設立。熊本を中心にクリエイティブディレクターとして活動。2016年の熊本地震をきっかけに立ち上げたソーシャルデザインを軸にした社会活動団体『一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO』の代表も務める。ACC CM FESTIVAL 入賞、グッドデザイン賞BEST100+特別賞/NEW YORK ADC MERIT賞など受賞多数



トークゲスト:中川典彌、佐藤かつあき
イベント主催:熊本市、アーティストスポット熊本
写真:野田和樹
文・構成:谷本 明夢
企画:Hub.craft

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