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ドラマ『琅琊榜』で習いたかった中国語~第二十九集②

「榛子の菓子」の続き。
今回はまだお菓子の話にならないが、少し長い私のお気に入りのセリフを一つ紹介したい。


臣倒听不懂了 按照殿下的说法
以往丰年的时候 这位岳州知府从没有往京城送过礼
今年乃大灾之年 整个岳州几乎颗粒不收
怎么这位知府大人倒想起做这种事了

梅長蘇率いる江左盟により、災害が一番深刻な岳州の長官から誉王に金品を送っていた事が明るみになった。しかもそれは救済金が朝廷から支給される前だった。民衆からも官吏からも誉王に対する非難の声が上がり、皇帝の知るところとなる。

民衆を思いやって、というよりは自分が恥をかいたという理由で怒る皇帝。こんな事は今年初めてだと言う誉王に刑部尚書の蔡荃が痛烈な皮肉を言った。

臣倒听不懂了 按照殿下的说法
以往丰年的时候 这位岳州知府从没有往京城送过礼
今年乃大灾之年 整个岳州几乎颗粒不收
怎么这位知府大人倒想起做这种事了

ーつまり殿下の言い分によれば
 知府は豊作の年は礼を贈っておらず
 凶作の今年思い立ったわけですな

琅琊榜~麒麟の才子、風雲起こす~第29話
蔡荃

▼臣倒听不懂了(chén dào tīngbudǒng le)
「臣」は君主に対する官吏の自称で「私」。「倒」は意外である気持ちを表しており、「听不懂」は可能補語で「听(聞く)」+「不」+「懂(分かる)」という構成で「(聞いて)分からない」と言う意味になる。「了」は文末助詞で状況の変化や新しい事態の発生を表している。

「臣听不懂(私は分からない)」に「倒」と「了」のニュアンスを加えると「私にはどうも分からなかっです」となる。この部分は字幕に訳されていないが、この後のセリフだけでも皮肉になる。

▼按照殿下的说法(ànzhào diànxià de shuōfa)
「按照」は「~によって」「~に照らして」、「殿下」はそのまま「殿下」で誉王のこと。「的」は連体修飾語で「~の」、「说法」は「言い方」「意見」などの意味である。

全体で直訳調にすると「殿下の言い方に照らすと」となるが、字幕の方が自然な言葉遣いになっている。

▼以往丰年的时候(yǐwǎng fēngnián de shíhou)
「以往」は「以前」、「丰年」は「豊作の年」、「的」は「~の」、「时候」は「時」なので、「以前豊作の年の時」となる。

▼这位岳州知府从没有往京城送过礼
(zhè wèi yuèzhōu zhīfǔ cóng méiyǒu wǎng jīngchéng sòngguo lǐ)
「这」は「この」、「位」は敬意をもって人を数える時の量詞で、「这位」+人物を表す名詞「岳州知府」で「この岳州の長官」という中国語独特の特定の人物を指す表現になる。「从」はおそらく「かつて」「これまで」と言う意味で、否定文でのみ使える文語的表現と思われる。

「没有」は「~したことがない」という動作の完成の否定で、「往」は「~の方へ」、「京城」は「(誉王がいる)都」、「送礼」で「贈り物をする」という意味だが、動詞「送」と目的語「礼(贈り物)」の間に経験を表す動態助詞「过」があり、「~したことがある」というニュアンスが加わる。

「この岳州の長官は、これまで都(誉王の所)に贈り物を贈ったことがない」という意味になる。

▼今年乃大灾之年(jīnnián nǎi dà zāi zhī nián)
「今年」はそのまま「今年(ことし)」、「乃」は文語的表現で「~である」「すなわち~である」で「是」と同様の使い方をしていると思われる。そのため「大灾之年」が述語だが、「大」は「大きい」、「灾」は「災害」、「之」は修飾する時の「の」、「年」はそのまま「年(とし)」という意味である。

全体で「今年すなわち大きな災害の年である」と直訳できる。

▼整个岳州几乎颗粒不收(zhěnggè yuèzhōu jīhū kēlì bù shōu)
「整个」は「全体」とで、「整个岳州」で「岳州全体」という意味である。その後の「几乎」は「ほとんど」、「颗粒」は「(穀物の)一粒」、否定の「不」+「収穫する」という動詞「收」で、「ほとんど一粒も収穫できなかった」となる。

▼怎么这位知府大人倒想起做这种事了
(zěnme zhè wèi zhīfǔ dàren dào xiǎngqǐ zuò zhè zhǒng shì le)
「怎么」は「なぜ」「どうして」、「大人」は地位の高い官吏への敬称。「倒」はこの文章冒頭と同じで意外な気持ちを表している。「想起」は「思いつく」だが、「想(思う、考える)」+下から上へ向かうイメージの方向補語「起」の構成で、事態の出現と持続のニュアンスがある。「做」は「する」、「这」+抽象的事柄の量詞「种」で「このような」と特定の事物を指しており、直後の「事」つまり「誉王に礼品を贈るような事」の事を指している。最後に文末助詞の「了」で、新しい事態の発生を表している。

この部分は文章冒頭と同様「倒」と「了」のニュアンスが加わると「なぜこの長官殿はこのような事をしようと思いついたんでしょう」になりそうだ。

長かった文章だが、全体を直訳調にして文を接続してみる。日本語的には文章が分割されるところが、中国語では複数つなげて一文になる場合もある。

「私にはどうも分からなかったです。殿下の言い方に照らすと以前豊作の年の時にこの岳州の長官は、これまで都に贈り物を贈ったことがないのに、今年すなわち大きな災害の年で岳州全体でほとんど一粒も収穫できなかったにもかかわらず、なぜこの長官殿はこのような事をしようと思いついたんでしょう。」

蔡荃の指摘はもっともである。岳州の長官の行動が解せないという言い方で、皇子である誉王を遠回しに非難している。皇帝に面と向かって皇子を非難できないとはいえ、言いたい事は明らかなため、ちょっとヒヤヒヤするが小気味いい。

こうして誉王は救済の任を解かれ、靖王がすることになった。

第29集はもう1回やります。



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