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最期が見事な悪役~ケン・クレイマー(CSI:マイアミ)

私は子どもの頃から本やアニメーション、映画、ドラマなどいろいろな物語における「悪役」に惹かれるほうだった。

ディズニーの『白雪姫』の女王が魔女に変身するシーン、『ライオン・キング』でスカーが己の野心を高らかに歌う場面などに、遅くとも小学校低学年の頃には悪い意味ではなく印象的に感じていた。でも当時の私としては、悪いやつが好きなんて普通あり得ないことだと思っていた。

でも10代で自覚してからは、ちゃんと私の印象に残った悪役たちを「好きだ」と感じて、それを口に出せるようにもなった。そして悪役というジャンルを好きな人たちは世の中にちゃんといて、特にディズニーの悪役たちは「ディズニーヴィランズ」というジャンルにまでなる。もちろん、彼らのグッズを持つようになった。以下記事で出てきたエコバッグのビッグ・バッド・ウルフはディズニーヴィランズだ。

ヒーローの中に「ダークヒーロー」がいるように、悪役にもいろいろある。だからディズニーヴィランズが好きと言いつつも好きなヴィランと嫌いなヴィランがいたりする。ディズニーヴィランズの魅力についてしゃべりだすと止まらなくなる。それだけ思い入れも強いので、書こうとすると、思いがとっ散らかってなぜかうまくまとまらない。なかなか書けない。

では、ここまでディズニーヴィランズについて書いておきながら、何を書くかというと、一旦ディズニー以外のジャンルの悪役である。ディズニーヴィランズを好きな自分を自覚した後は、やっぱり他のコンテンツで出てきた悪役にも自然と注目するようになる。その中で非常に印象的な一人を紹介したい。

ケン・クレイマー

CSI:マイアミ 
シーズン3 第23話 殺人鬼養成講座
最高裁から、犯人の死刑が確定されていた強姦殺人事件の鑑定を一からやり直しするよう命が下った。CSIは裁判所の命令どおりDNA以外の証拠を再捜査するが、限られた時間は流れてゆく。

huluのあらすじ解説

CSI:マイアミは科学捜査を行う部署「CSI」による事件モノの人気シリーズの一つだった。このCSIに所属しているメンバーで、日本で言うところの鑑識と刑事両方の役割を持った人たちがメインで、アメリカのリゾート地であるマイアミが舞台。

海外ドラマにも忘れられない悪役が色々いるが、15年くらい前に観たこのドラマシリーズで1話のみの登場だったにも関わらず強烈なキャラクターだった。上記解説の死刑が確定していた犯人というのがケン・クレイマーである。

ケン・クレイマーは会計士で残虐な斧での殺人で服役しており、既に死刑が確定していたが、この回より前の話で、あるミスを犯したCSIのDNA分析官がクレイマーの事件も担当していたことにより、死刑となった証拠のDNA関係の証拠能力が疑われ死刑が延期になった。

事件の内容は、カップルの女性を強姦した後に斧を17回振り下ろし、男性の方も斧を数回振るった後、絞殺というもの。そのカップルとクレイマーに面識はなく、殺すためだけに無作為に選ばれた被害者だった(とされた)。

死刑が延期になった後、CSIは証拠を再度調べていくうちに実は共犯者が存在した可能性にたどり着く。CSI:マイアミの主役でCSIチームを率いるホレーショ・ケイン警部補が弁護士と共にクレイマーを訪ねた。クレイマーはもちろん共犯者については語らない。弁護士が無実になれる可能性について伝えるも犯人は自分であり、さっさと処刑しろとまで言うふてぶてしさ。

この時クレイマー本人からは何も聞き出せなかったが、捜査を続けていくとクレイマーに届いていた郵便物の中身から何の変哲もない新聞の記事や広告が実は共犯者と思しき人物からだと判明する(詳しくはぜひその回をご覧ください)。

ホレーショはクレイマーに指摘する。その共犯者だった人物は、クレイマーに褒められたくて事件を既に3件起こし、どんどん犯行内容がエスカレートしていること。そしてクレイマーにほめてもらうために郵便で報告をしていること。この人物が誰なのか言えば、釈放の可能性を餌としてチラつかせながら(でも逃す気はない)。

クレイマーは「(釈放の可能性に魅力がないことを)わかってない」「ゲイリー・ギルモアの気分※」と言って拒否する。
※殺人を犯し死刑が確定していたが、当時のアメリカで死刑廃止の動きがあり、執行停止になっていたが、「死刑にされる権利」を主張した実在した人物。

カリスマ的サイコパス性

このケン・クレイマーの悪役としての魅力の一つが、ホレーショに「ゲイリー・ギルモアの気分」と言ってのけた後に、人を殺す理由を語るシーンがあり、そこによく出ている。

要は殺さずにはいられない、殺さないと生きていけないということなのだが、恐ろしいことを平然と口元に笑みを浮かべつつ普通に語る。しかもウインクまでして。そんなケン・クレイマーをエリック・ロバーツさんが中年の甘いマスクで演じている。恐ろしい人物なのにイケオジすぎるのだ。

エリック・ロバーツさんは、あのジュリア・ロバーツさんの実兄で、若い頃の画像を見ると、ジュリア・ロバーツさんと似たすごく綺麗な顔立ちである。若い頃は激甘の美青年、年を取るとまた違った色気が出てくるという感じ。アラン・ドロンさんやマーク・ハーモンさん同様のタイプと私は認識している。

そしてケン・クレイマーは会計士なのに見事な上腕二頭筋のついたアメリカ的「タフガイ」感のある体形である。そんな外見にも恵まれたサイコパス性の非常に高い人物にカリスマ性を感じて惹かれてしまった愚か者がいるらしく、そいつをホレーショたちは見つけなくてはならないが、やはりクレーマーは教えない。クレイマーのあまりに人を食った態度に正常な神経をもった正義のホレーショは嫌気がして立ち去ろうとする。

↓以下はネタバレ要素が強くなるので注意↓







主役に「負けない」最期

事件の全容は、クレイマーが共犯者である従兄弟を結果的に殺人鬼にしていた。クレイマーが死刑になった事件で従兄弟はその場にいて殺すことができず、その後どんな殺人ができるようになったかクレイマーに報告していた。殺人鬼として成長したことを認められたかったのだ。

結局またクレイマーは死刑の日程が決まる。クレイマーはホレーショに「まだ何があるかわからない」と強がったようなことを言い、ホレーショは「何があっても驚かない」と動じない。確実に凶悪犯が死刑になる確信があるからだ。死刑は翌日の0時と告げられる。

死刑執行前にクレイマーはピーナッツアレルギーのアナフィラキシーショックで死んだ。死刑前の食事にわざわざ自分でピーナッツバターサンドイッチを頼んで。

ここであっさり死刑にならなかったことに、悪役好きとしては見事と思った。自分で自分の死ぬタイミングを決めたことにクレイマーなりの矜持が見られるからだ。どうせ死刑になるのに自殺するなど通常の神経では理解不能だし、理解したくもないが、常軌を逸したサイコパスとして冷静に見れば最期まで人を食っていったというところかと。

警察や検察にとって事件のゴールは、ケン・クレイマーの場合は死刑だったはず。ホレーショとしては「やりやがったな」というところだろう。勧善懲悪の物語にするなら、きちんと死刑にならなくてはいけない。

そういえば、韓国ドラマ『宮廷女官・チャングムの誓い』でも主人公の敵の一人であるチェ尚宮の最期も同じようにお見事と思った。彼女の場合は完全に自殺とは言い切れないが、裁かれて然るべき状況で裁かれる前に決したことがである。彼女はクレイマーほどサイコパスではないし、かわいそうな側面もあるので、あのくらいでいいような。

でもケン・クレイマーに息子を殺された母親はたまらないだろう。被害者遺族の側に立てばあんまりである。でもあくまで「物語」としてこのドラマを観た時、ケン・クレイマーは悪役として完成度が高いキャラクターだと私は思う。以下の特徴のバランスが良い(あくまで悪役として)。

・職業が会計士=頭が良い
・サイコパス性の強さ
・外見が良い
・プライドが高い
・自身をよく理解している
・残虐性

勧善懲悪が好きな方にはすごく消化不良になるが、サイコパスという存在について興味のある方にはおすすめである。ちなみに私は日常に潜むサイコパスを避けて生きる対策をするためサイコパスに興味があるタイプである。いままで色々ありまして。

また、この回はドラマそのものとしても非常に面白い。冒頭から意味の分からないシーンが時々紛れ込み、その伏線がストーリーの深みを醸している。

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