黄酒ペアリングで心がけていること。
干杯!
今お手伝いしている店の酒担当として、飲食業の専門誌「専門料理」に掲載していただきました。
テーマは黄酒ペアリング。酒を僕が選ばせていただき、料理はお店で出してきた今までのメニューから絞った上で最終的にシェフと2人で話し合って決めさせてもらいました。
黄酒という文字が誌面に掲載されているという現実がなんだか嬉しい
黄酒って何?という方はこちらの記事をご参考ください!
「黄酒ペアリング」というテーマは、産地でもある中国を含めた業界全体で見てもまだまだ未成熟な部分で、僕自身も勉強中の身です。
今回専門料理にご掲載いただいたのも、僕自身がペアリング能力に優れているというわけではなく、中華業界で他に誰も黄酒ペアリングをやっている人がいないからということと、完全にお店の七光りによるものです(笑)
ただこれをきっかけに、何かしらの刺激を受けてくれて黄酒を深堀してみたい!という同志が現れたらいいなと思うのと同時に、僕自身もっと深堀していこう!という意欲がブワっブワに湧いてきているので、もう既にいい機会になったなと思っています。
まだスタート地点に立ったばかりである今、一旦ここで専門料理に掲載していただいた部分も含めてどういう点に注意してペアリングしているかをまとめてみます。
そして、これからの黄酒ペアリング引いては黄酒の展望・未来について、自分なりに思うことを綴ってみます。
まず前提として。
以前、飲食業で活躍されている大先輩に「本来ペアリングは、酒に対してどのような料理を合わせたいかを考えるもの」と教えていただいたことがあります。
ただ、僕たちは今、料理に合わせて黄酒を提供しています。なぜなら、お店の料理は月替わりのコース1本でお出ししており、先に料理の内容が決まるからです。
月初の営業日、開店前にコース料理全てを実際に食べます。その際、1品4〜5種ほどの銘柄をピックアップしながら全ての料理と合わせていきます。結果的に1品で2〜3酒厳選していく、という流れで各料理に対してのペアリング銘柄を決めていきます。
お酒は、どの風味を強く感じ取るのかで印象が変わります。人それぞれ。同じ酒なのに「この黄酒、甘くて優しい」という人もいれば「ちゃんと酸味があって飲みやすいですね!」という人もいます。酒自体の味だけでなく、直前に何を食べたのか、その日の体調など影響する部分は多々あります。
だから、100%全員にバッチリ合うペアリングは難しい。でも、実際に自分たちで料理と酒を合わせることで、より多くの方のストライクゾーンに入っていくようなペアリングを実現できる可能性が高まると信じています。
営業前にコースを作る作業も大変なんですよね。そこまで対応していただけるシェフには感謝、感謝です。
では、以上を踏まえて黄酒ペアリングで心がけていることをまとめていきます。
その1 黄酒は万能ではない。
心がけというより、頭に入れておきたいことといいましょうか。まず、黄酒は万能ではないという事実を認識しておくことです。
黄酒は何度もお伝えしている通り、個性溢れる銘柄が多いです。飲みくらべすると一目瞭然!しかし、銘柄の数自体が多くありません。日本にあまり流通していないのです。(この問題はちょくちょく触れます)
黄酒の中で最も多く流通している紹興酒でさえもスーパーやコンビニ、酒屋ですらあまり置かれていません。
銘柄数が少なければ、当然味のバリエーションも限られますね。
日本酒やワインは追いきれないほどの銘柄数があります。多すぎるのも大変そうだなと思うのですが、似た系統の味はあっても全く同じ酒なんてありえないので、細かい部分まで突き詰めてペアリングを考えることができるし、対応ができます。現状、黄酒ではそれが困難です。
1、2、3、4はあっても2.3や4.9や6.8はない(個性的すぎて逆かもしれない)。それが黄酒の現状。
決して他の酒に対して僻んでいるわけではなくてですね(笑)そもそも銘柄数が限られているからこそできることもあります。それは最後に改めてまとめます。
その2 固定概念から脱却すること。
セオリーを意識しつつも固定概念に縛られないこと。これは黄酒を活かすために大切な観点です。
魚には白ワインを、肉には赤ワインを、といった定石は黄酒ではあまりみられませんが、考え方自体は用いることができます。他の酒においての常識を黄酒に置き換えながらも、たまにわざとハズしていく。
実際に料理を食べたとき、どんなペアリングがいいのか、頭の中である程度銘柄を絞ります。その中で、敢えてそのイメージの枠内にないものを必ずチョイスしてみるのです。
いろいろな料理に合わせやすい万能な黄酒って、いるんです。すると、その銘柄の登場回数が自然と増えてしまいます。それは、選ばれずに埃をかぶってしまう黄酒が出てきてしまうということも意味します。
流通している数が少ないからこそ、今あるメンバーを全て活用しきるようにしていった方が黄酒の可能性は広がるし、お客さんにもいろんな味わいの黄酒を体感して楽しんでいただけます。
実際に想定外の黄酒を合わせてみると、たまーーーーーーーに今までにありえなかったマリアージュが生まれることがあります(想像の通り失敗に終わることが多いですが笑)。これがとっても大事!黄酒の可能性を広げていくことに繋がるのです。
銘柄数が少ないとはいえ、黄酒はまだまだ深堀拡大できる余地がたくさんあります。まだまだこれからだ!
その3 各酒の特徴を全種把握。
黄酒は味の由来になるような前提情報があまりありません。
例えば、ワインであればテロワール・ブドウの品種・製法などなど、日本酒であれば精米歩合・使用酵母・アルコール添加の有無など味の由来になる前提情報は多く開示されています。
黄酒も原料はわかりますがそれらを具体的にどのように用いて造られているのかは謎な部分が多いです。また製法についても大まかな情報はありますが、各銘柄において、発酵期間や着色のためのカラメル添加など具体的な情報はあまり開示されていません。
この状況下でできることは、純粋に各銘柄の味を身体に叩き込んでおくこと。これができていれば、料理を食べたときにパッと「あの黄酒の風味が合いそうだな」と想定ができます。
今ではなんとなくですが、濃厚な肉料理だったら朱鷺黒米(陝西省産)か白塔(紹興酒)、塩味系の野菜料理なら石庫門(上海老酒)か即墨老酒清爽型(青島産)などなどパッと頭に思い浮かぶようになりました。
銘柄が少ない分、どの銘柄も飲む機会が増えるため特徴を覚えやすいというのはひとつのメリットですね。
その4 アタック・膨らみ・余韻のバランス
実際に黄酒と料理を合わせるときに注意して見ているのはこの3点です。
①アタック
口に含んだときの最初のインパクト。混ざり合った瞬間の印象。
②膨らみ
口の中に酒と料理が入ってから数秒後の変化。どのように混じり合っていくかの様子
③余韻
飲み込む直前・直後・やや時間が経過した後という終盤の一連の流れ。
前編・中編・後編、といった感じでしょうか。
例えばアタックが良くても、膨らみでいびつさを感じ、余韻で口内に心地よさがなければ、そのペアリングはボツ。
逆に、アタックはそれほど良くなかったけど、噛んでいる内に合わさっていき、余韻がとても心地よい!そんなときは採用したりします。
終わりよければ全てよし。いや、全てとまではいいませんが、余韻はとても大事だなと個人的には感じています。ただ、余韻で合わさるときは説明も重要です。お客さんの中にはアタックの段階でそのペアリングの良し悪しを判断する人がいるかもしれないからです。
「ん?なんだこの違和感は?」と最初で思って「合わない」という烙印を早々に押されてしまうと、このペアリングは失敗となってしまいます。この辺りは飲んでもらう前に、ペアリングの意図について説明できたらベストなのかなと思います。
その5 黄酒への親しみレベルや好み
酒は、なんやかんや、やっぱり好みが大事です。なので、ペアリングをいくら考えたとしてもその酒の味が嫌いであれば、あまり良い結果は生まれないかもしれない。僕はそう思っています。
例えば「紹興酒は苦手」という人に、昔ながらの味わいが全面に感じられる紹興酒を出すようなことはしません。
敢えてお出しすることで、見事なペアリングによって紹興酒が好きになった!なんて流れもありだし理想的なのですが、経験上あまりうまくいきません(苦笑)
この場合は、紹興酒が苦手な人にこそおすすめしたい黄酒の中から改めてペアリングを考え、提案していくようにしています。必ずしも、最初に決めたペアリング銘柄の中から選ぶわけではないということです。
何よりも一番大切なことは、お客さんにその場を楽しんでもらうこと。それを忘れないように気をつけています。
<まとめ>黄酒をより楽しむためには。
ペアリングは、料理やお酒をよりよく楽しむための手段です。今まであまり注目されてこなかった黄酒ペアリングが定着していけば、新しい道が切り開けるのかもしれません。
ただ、それだけではまだまだ足りません。
黄酒にしろ(白酒もそうですが)大きな壁があります。それはやはり、日本に流通している銘柄数に限りがあるということです。
銘柄が少ないとどうなるか。きっとすぐに飽きてしまって深堀するまで辿り着かない、もしくは辿り着いてもすぐに飽きてしまう。そんな問題が想像できます。
流通量の問題はすぐには解決しません。いきなり銘柄がグッと増えることは考えづらいでしょう。現在黄酒を専門としている仕入れ業者は1社のみ(それが僕が前にいた会社)。増えるとしても年に1銘柄。増えた分減ったりもします。
まぁ、この問題を言い訳にしても何も始まらないということです。
なので、いまできることをやっていくことが大切です。その中のひとつが流通している銘柄を深堀していくことなんじゃないかと思っています。
黄酒の各銘柄がどのようにして造られているのか?
どんな人たちが造っているのか?
それらの情報やストーリーをしっかりと発信していくこと。
そして、科学的な分析をしていくこと。
さまざまな飲み方を実験してみること。
(温度を変えたり果物など入れてみたり割ってみたり。少ないからこそ各銘柄で工夫をして楽しみ方を増やすことが大事。)
各銘柄にどんな料理が合うのかを導き出していくこと。
・・・etc
そう、現状でもやれることはたくさんあるのです。
黄酒は必ず多くの方が楽しめる酒だと信じています。僕は在籍してきたお店で多くの人が楽しんでいる姿を目の当たりにしてきました。だから、絶対にできることだと信じています。
少し長くなりましたが・・・そろそろ紹興酒入門セミナーへいかなければならないのでこの辺で〆ます。お読み頂いたみなさん、干杯!
↓月一で開催されておりますのでご興味のある方は気軽にご参加ください。スマホからzoom参加も可能です。でも現地の方が無料で試飲できるのでお得だと思います(笑)
主に中国酒にまつわる活動に充てさせていただきます。具体的には中国酒関連のイベント開催費や中国酒の研究費、現地への旅費、YouTubeの制作費用などです。お力添えを頂けたら嬉しいです!干杯!