符亀の「喰べたもの」 20210425~20210501

今週インプットしたものをまとめるnote、第三十二回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

呪術廻戦」(14~15巻) 芥見下々

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14巻が全然入荷せず、連休前に無理矢理取り寄せてようやく読めました。15巻は2月末に手に入れてたんですけどね。

全体的な話は一気読みした第十九回でやりましたので、ここではこの2巻に的をしぼって論じます。この2巻の特徴の一つが、主人公と読者の心を折りにくるような展開がこれでもかと続くことでしょう。ある意味今のジャンプらしいですが、とはいえ少年誌でこんな酷いことをやっていいのかという気にもなります。しかしそんな辛いシーンが続いても、本作は憂鬱なムードに飲まれることなく、少年マンガらしい熱気に満ちています。ここがこの作品の面白さであり、「ジャンプしている」ところではないでしょうか。

これを実現しているのが、絶望すべき場面を一瞬で終わらせている点なのではないか。私はそう考えています。誰かが死んだとき、主人公が絶望したとき、ページを1つか2つめくればもう次の展開が始まっています。走馬灯にあたるシーンもありますが、キャラが死ぬのか死なないのかわからない状況でタメとして用いており、死んだ(っぽい)後にはすぐ次の脅威か希望が押し寄せてきます。これは漫画というメディアの特長が上手く活かされていて、読むのを止めて喪に服するのも、振り切れなくとも次へと進んでいくのも、読者次第になっています。進むことを選んだ読者を悲しみで立ち止まらせずに、それならばすぐ次を用意する。だからこそ熱が冷めずに読み進められ、変に少年誌の範囲に配慮して鬱展開を手加減する必要もなくなっている。これが、「呪術廻戦」、さらには今のジャンプが少年誌らしくないと言われながらも「ジャンプできている」理由なのではないでしょうか。


アンデッドアンラック」(6巻) 戸塚慶文

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第十四回以来の登場。作品詳細も、そちらかタイトルのリンク先で。

相変わらず展開の密度が半端なく、それでいて振り落とされるところがないのが本当に凄まじい作品です。この巻の詳細についてはネタバレになるので触れませんが、とにかく面白かったですし泣きました。どうなってんねんジャンプ。

このように高速で話を展開させられている理由は、「兼ねる」で説明できると思います。5巻から6巻にかけての過去編が主人公の強化を兼ねているのが、一番わかりやすい例ですね。それ以外にも、倒したはずの敵キャラが姿を変えて復活した理由とその姿を戻すのとそのキャラの強化と他キャラの退場とを一気にやるシーンなど、これでもかというぐらいに描写が兼ねられています。しかし、ここまでトリッキーな話の運びをすると意味が分からなくなりそうなものですが、本作はかなりストレスフリーに読める作品です。

その理由として、兼ねられている展開のうち少なくとも一つが、王道展開なことを挙げたいと思います。展開のメインはよくある流れのため、読者は「まあここで過去編来るよね~」という風に、何が起きているのかを瞬時に把握できます。その上でさらに他の要素も載せられているため、オマケ部分の内容も一緒に頭に叩き込まれる。ゆえに、読者が感じる負担の2倍3倍の情報量が載せられ、結果濃くて面白い作品になっているのではないでしょうか。

あとこれは本当に比べるのもおこがましいのですが、拙作「アマロン」も、似た構造になっていたのかもしれないなと感じています。本作を遊ぶプレイヤーは、将棋に似た盤面から、まず「王将を取る」という方針でゲームを始めるでしょう。しかし、実はこのゲームで最も危険視すべきなのは、「行動回数を増やすためのマーカーを相手に渡されてバーストする(制限個数を超えてしまう)」ことです。では初心者にバーストの危険性を十分説いてからやってもらうべきなのかというと、そうではないと思います。あくまで王道展開は「王将を取る」ことであり、バーストがサブであるからこそ、初めての人でもとりあえず何をするか決められる。本作の元ネタの一つはこれとは違う漫画であり、なのでこういう目線では見ていなかったのですが、ゲムマまでに気づけていたらインストや宣伝でさらに強みを活かしてあげられたかなと思います。悔やまれますね。


マッシュル-MASHLE-」(6巻) 甲本一

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ハリー〇ッターの世界でムキムキのマグルが下剋上する話。

第二回で書いた「主人公関係ない戦闘に話使ったりすると普通の魔法バトルになる」問題ですが、この巻ではそこを主人公について他のキャラがどう思っているかを語らせる話にして解決させていた印象です。まあもうここまで巻を重ねたら、作品の世界ができて「普通になる」心配はしなくてもいい気もしてきましたが。むしろフラグだけ溜まっている状態の彼が早く覚醒してほしい。


ギャル医者あやっぺ」(1巻) 長イキアキヒコ

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2巻が発売されたということで1巻ごと注文して手に入れたんですが、面白すぎて1巻で満足したので2巻は1月ぐらい寝かせます。

面白さ分析ですか?もう「ギャル医者」っていう単語だけで十分でしょう。でもよりバカな先輩を出すことで馬鹿すぎるボケはそっちに任せ、あやっぺには医者ネタができるだけの知性を残してネタの枠を広げたのは普通に上手いですね。


ダンダダン」(1~4話) 龍幸伸

幽霊を信じないオカルトマニアの少年(ターボババアに呪われる)と宇宙人を信じない少女(宇宙人にさらわれる)の話。

1話がバズったときに読んで、面白さよりも読みにくさが強かった印象だったのでそこから読んでいなかったのですが、3話の更新に合わせて久々に読んでみたました。そしたらだいぶ読みやすくなっていて純粋に美味しいところを摂取できる、オススメしやすい作品になっていたので紹介します。

目的が決まって描くべきことがハッキリしたからか、それともバズって編集さんが力を入れるようになったのかはわかりませんが、2話後半ぐらいから余計な描写が減って一気に読みやすくなっています。3話以降まで無料で読める今のうちに読むことをオススメします。なお私は単行本派かつ紙派なので、たぶん単行本が出るまでもう読みません。


4分間の終わりに」 平浜矢陸

1日に4分間だけ働く死神と、そのターゲットになった殺し屋の少女との交流を描いた読み切り。読んだのは先週なのですが、紹介するのを忘れていたので今週取り上げます。

題材はオーソドックスですが、死神が動物とたわむれる様子を挟むことで独特の味わいを持たせているのが上手いですね。高い画力や読みにくさの無さも相まってストレスなく読めるので、中盤とラストの山場まで読者が脱落しにくく、しっかり魅せたいところまで離さない点もよくできています。


ハチウエは機械の父」 ネズクマ

争いによって人口が減り、機械と人が共存できるようになった未来で暮らす、人間の娘と機械の父を描いた読み切り。これも先週読んだやつです。

父親がロボットである設定を見せるための描写が、中盤別の意味を持ってくるのがいいですね。このあたりで展開が察せられる分、起承転結の転部分によりせつなさを感じさせてくれるのも、いいポイントだと思います。


疑心暗鬼を生ず」 紺野アキラ

寝る前に幽霊がいないことを確かめないと寝られない大学生と、霊感があるらしい同級生とを描いた読み切り、のtwitter掲載版です。

ネタバレになるので詳細は伏せますが、4/5の2ページ目が好きです。というか4/5はそれ以外のページもいい味出してます。もちろん他の投稿にあたるのも好きです。じゃあもう全部好きやん。


異世界に行ったけど速攻戻ってくる話」(その1~その4) まんが牧

異世界転生した女子高生とサラリーマンとの話。ただしその異世界は2018年発売のアクションRPGの世界であり、サラリーマンはそのRTA(最速クリアを目指す競技)の世界記録保持者であった。

twitter上で隔週連載されている作品なのですが、ほぼ毎回1ページの1コマ目に状況を表すセリフが入れられており、タイトルと合わせて途中からでも何をやっているのかわかりやすいのがいいです。こういう配慮をしてくれている作品は、1話以外もリツイートしやすくて助かります。


【漫画】発進!ガウディオス

その3ページ目はずるいっしょ。


単行本も読み切りも、ジャンプ率が異様に高い週になってしまいました。これもジャンプが面白いのが悪い。僕は悪くない。積んでる本たちはごめん。



一般書籍

美食のサピエンス史」 ジョン・アレン、成広あき(訳)

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認知神経科学イメージング研究所に所属する人類学者の筆者が、脳科学や進化学、文化史など様々な観点から「食」に関する研究をまとめた書籍です。

まず苦言から入らせていただきますが、結構この本は読みにくいです。その理由は、2つあると考えています。1つ目は、筆者が(特に脳科学系の)用語を説明なしに用いたり、説明しても初出から少し後だったりするため、そこで思考が止まりやすいからです。もう一つは、研究事例の紹介的要素が強く、それらを並べる論理的な流れが見えにくいので、結局その章で何が言いたかったのかが掴めないためです。いくら忙しかったとはいえ、これを読破するのに約2ヶ月かかったうえ思考リソースも持っていかれたので、申し訳ないですがまず文句からスタートいたしました。

その上で、記述されている内容は確かに面白かったです。仮説にすぎず証拠が不十分なものも取り上げられているのには注意しなくてはいけませんが、そういうものにはその旨がきっちり記載されており、科学者としての丁寧な態度が伝わってきます。また、科学的な検証を経たものも十分あるため、地に足の着いた本になっている点も評価できます。私は専門外なので見ていませんが、その気になれば注から原著論文にあたれるのもポイントでしょう。

筆者さんの専門的に脳科学的な内容が多めで、そこに興味がない人にとっては読破しづらい本になっているとは思います。ですが、そこを踏まえたうえで研究事例を真摯に紹介した本として読めば、かなり面白い本だったと思います。少なくとも、これを買ったことを後悔はしていません。羊土社セールで安かったし。



Web記事

マンガって読むの難しくないですか?

マンガの読み方がわからない筆者が、解説書を踏まえながらどこに難しさを感じるのか言語化したnote。

漫画はモノを伝える手段として最もわかりやすいメディアとして扱われることもあり、私もそういう認識だったので、新たな価値観を知れて大変助かりました。しかもその難しさを非常にわかりやすく言語化されており、ありがたい限りです。

おそらくこの筆者さんは読み飛ばしてもいいところまで全部読み取ろうとしてパンクしてしまっている状態なのではないかと思うのですが、じゃあなんでそこは読み飛ばしていいところなのか、どうそれを判断しているのかと聞かれると確かに答えに困るところがあります。さんざん「無駄な情報が書かれ過ぎている」「情報の取捨選択が上手く読みやすい」とか書いておきながらそこに答えられないのはマズい気もするので、どこかで自分なりの回答を出しておきたいところです。


【体験レポ】『ポケモンスナップ』に20年囚われた男が『New ポケモンスナップ』を先行プレイしたら何も信じられなくなった話

ねとらぼさんの、「New ポケモンスナップ」の体験レポートです。

序盤のポケモンスナップ愛を語る部分が最高で、本当に好きな人にしけ書けない角度から愛を語る記者が「ファンが望む新作として理想的すぎた」とまで言う新作への期待を煽るところが無茶苦茶上手いです。やっぱ好きなモノについて解像度高くしゃべらせた記事が一番面白いですよ。

New ポケモンスナップ」については、撮った写真を最後に微調整できる機能に驚かされました。任天堂は本当にこういう割り切りがすごいです。


「ヒャッハー!チュートリアル山賊団のお出ましだぁ―!!」

TRPGにおいて、チュートリアルとして現れて倒されてレベルアップさせる「チュートリアル山賊団」という手法について語られた、一連のツイートのtogetterまとめです。

チュートリアルについては私も結構考えている方だと思っていたのですが、戦闘後にレベルアップさせるのは盲点でした。次回作以降の課題としたいです。


という訳で、気がついたら5000字を超えていました。たぶん最初を除いて最長なんじゃないでしょうか。と思ったら最初の記事も3700字だったのでたぶん最長です。書きすぎたわね。

そして恐ろしいことに、金曜日を休みにしなかった私にとっては今日がゴールデンウィーク初日であり、つまり明日から本格的な積読崩しが始まるということです。次回は10000字超えちゃうかも?

とか言って2000字ちょいで更新したら笑ってください。


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