符亀の「喰べたもの」 20210124~20210130
今週インプットしたものをまとめるnote、第十九回です。
漫画
「呪術廻戦」(1~13巻) 芥見下々
呪いを祓う呪術師たちの物語。出版社品切れでなかなか読めませんでしたが、最近どっと入荷したのであるだけ買って読みました。
流石2500万部突破とかジャンプの次の看板とか言われてるだけあって、面白いですね。初連載(正確には下で紹介する0巻収録の月間連載が初ですが)にも関わらず、1話から面白いのも高評価です。
この作品、特にその序盤における特長は、設定の説明がおそらく意図的に排されているところかと思います。例えば普通の作品でこの1話を書く場合、「主人公がなぜ人間離れした怪力を持っているのか」「呪物を探しに来た男の所属している『呪術高専』とはなんなのか」「その男の能力はどんなものか」「両面宿儺とは何者か」あたりは大ゴマで説明が入りそうなものですが、本作では一切ありません。しかし設定が全く描かれてていない不親切な漫画かというとそんなことはなく、特に主人公が戦う理由に関する部分は、上記内容を削って浮いたスペースにしっかりと描かれています。その傾向は1話以降も続いており、能力の説明は手の内を曝す縛りで能力を底上げする(この設定も上手い)以外は基本的に名前と描写のみで行われ、文で説明する場合もたいてい1コマ~1ページなのでとにかくテンポがいいです。連載が進んで設定を羅列しても読者が振り落とされなくなってくる、むしろ設定を知りたくなってくる10巻ぐらいからやや文での説明が増えてくるのも素晴らしく、読者の読みたいものがちゃんと把握できているように感じます。
ちなみに似た長所を持つジャンプ作品に「マッシュル-MASHLE-」があり、時代が近いので同じ編集者さんが担当なのかと思いましたが違うようです。(呪術廻戦の立ち上げ担当は鬼滅の刃と同じ片山氏、マッシュルの担当は鬼滅の担当でもあった浅井氏であり、むしろ鬼滅との関連が強い。)マッシュルの分析はこちらをご覧ください。
このレベルの舵取りができる編集者が複数いるあたり、ジャンプは強いですね。
「呪術廻戦 東京都立呪術高等専門学校」(0巻) 芥見下々
上記少年ジャンプ版「呪術廻戦」のプロトタイプ兼前日譚であり、月間連載4回分をまとめたものです。
呪術の前身だけあって面白いのですが、設定を開示するかの判断や描写すべき内容の取捨選択にはまだ粗があるのは否めないかと思います。また構図の問題でカタルシスに欠けるシーンが見られるのもマイナス点ではあります。
しかし呪いのデザインやワクワク感など連載版に繋がる長所も多数見られ、比較することで非常に勉強になる点でもいい作品だと思います。
「天地創造デザイン部」(6巻) 蛇蔵&鈴木ツタ(原作)、たら子(作画)
Q、なぜへんな生体や見た目の動物がいるのですか?
A、神様に無茶ぶりされたデザイナーが無理矢理デザインしたからです。
という設定の作品。アニメ化決定おめでとうございます。
この設定の斬新さや動物図鑑としても使えるレベルの知識の深さについては既にあらゆる媒体で称賛されているかと思いますので、ここではその設定の上手さを別の観点から考察します。「神」という存在をおき「天地創造」をタイトルに冠していながら、この漫画の時系列は太古であると明示されていません。地味にこのあやふやさが利いていて、現在生息している生物も絶滅した生物も扱えてネタ切れの防止につながっています。またツッコミの語彙に時系列的な縛りがないので、「失敗したパノラマ写真」のような読者目線に立ったコメントができ内容への共感をさせやすいです。
連載が進むにつれ虫や植物にも手を広げ、さらに多様な生物の紹介がなされている点もオススメです。題材のとっつきやすさのおかげで幅広い人に勧められるのもいいですね。
「ニジとクロ」(3巻) 武梨えり
白黒はっきりさせないと気が済まない性格の女子大生クロと、彼女が拾った謎の生物ニジとの交流を描いた作品の最終巻です。ちなみに作者は「かんなぎ」と同じ人です。
タイトルや説明の通り1人と1匹の交流を描いた作品ですが、漫画的な役割分担がきっちりとなされているのが特長といえるかと思います。1話を見ていただくとわかりやすいように、ニジは1話では「かわいくおかしな行動をして読者の目を惹きつける直感的な魅力」を発揮し、回を重ねるにつれ「謎の生物の生態が明らかになっていく理知的な面白さ」を提供します。一方女子高生のクロは、1話冒頭や最終ページで「固い性格の女子高生が成長していくというストーリーの軸的存在(長期的面白さの指針)」を担い、その過程で「見た目の可愛さと感情表現による萌え的なかわいさ(短期的な魅力)」で読者の心をつかんでいます。このタイムスケールの異なる面白さの提供は私が何度も挙げている点ではありますが、それがメインキャラ2体にそれぞれ割り振られており、かつ連載が進むともう片方も担当するようになるというのは初めて気づいた面白さであり、こういう見せ方もあるのかと勉強になりました。
大人気作品の一気読み、これからさらに跳ねるであろう作品の最新刊、確固たる面白さを持った作品の完結巻と、バランスよくいいインプットができた週だったかと思います。
一般書籍
漫画20冊弱読んだので許してください。
Web記事
ゲームシナリオにおける「テーマ」と「動機」の差を、「欠損」を軸に論じたnoteです。それとの関係が変わることで多様な関係性とプレイヤーの感情を演出し、その欠損が解決しても話が続けられるのがテーマ。関係性が固定されておりそれが戻ると話もゴールしてしまうのが動機。非常に簡潔にまとめられており、学びも多いnoteでした。
「ルールブックに載せられない、ボードゲーム『ウリカイ』のすてきな体験デザイン」
「ウリカイ」をリメイク出版するにあたり、そのゲーム体験のどこがいいのかをリメイク者のミヤザキユウ氏がまとめたnoteです。
「ウリカイ」の面白さをロールプレイングとストーリーが自然発生することにあるとし、その理由を多すぎる場のカードから選ぶルールによる「自分が選んだ」自覚にあるという分析が見事であり、元ゲームのデザインおよびリメイクの上手さを感じるnoteでした。
アナログゲームフェスタが来週となり、その準備や新作制作や本職の錬金術やらでてんやわんやな感じですが、なんとか生きています。予約も受付中ですが、やはり試遊してこそのイベントかと思います。感染対策に気を付けて出展いたしますので、是非遊びに来てください。チケットは事前購入(2/2まで)のみなのでお早めに。
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