符亀の「喰べたもの」 20210221~20210227

今週インプットしたものをまとめるnote、第二十三回です。
(昨日寝落ちしたため日曜日に更新しています)


漫画

メダリスト」(2巻) つるまいかだ

青年と少女、2つの人生を賭けて1つの夢に挑む物語。紹介は第十三回以来。

本作の特徴として、非常に情報量が多いことが挙げられます。特に文章量が凄まじく、1つのフキダシの中に4行以上あることが大半なうえに地の文の説明も多めです。ですが、それなのに読みやすく、没入感がそがれにくい。

その理由はいくつか挙げられると思いますが、まず技法面と異なる部分を。この作品の主人公の1人である少女は思考がオーバーフローしがちなタイプであり、その分紙面が大量の文字に覆われていても「らしさ」があります。作品の内容のために、読者の文章量に対するキャパが拡張されているといえるでしょう。

次に技術面の話ですが、本作ではそのページに描かれている内容が何なのかつかみやすくなるよう、非常に丁寧な配慮がなされています。まず1ページに含まれる内容が1つに制限されており、例えば2人以上のキャラが初登場するような、情報が渋滞しているページが(わざとやっているであろうものを除き)ほぼありません。各ページの内容は単純な1文で要約可能であり、「Aがあの技を失敗した」と「Aとそのコーチが失敗をどう受け止めたか」すら別ページになっているぐらいです。

その上で、各ページの1コマ目がほぼそのページの要約になっています。上では「要約可能」と書きましたが、そもそも自分で要約する必要さえなく、内容の理解に要する労力がこれでもかと下げられています。漫画の基本テクニックである「左側ページの最終コマで次にめくるページの内容を期待させる」ことも行っているのですが、これも期待という予想を持たせてから実際の内容を見せるわけで、無意識のうちに基準を作ってから読む分認知負荷を下げる働きがあります。

ここまでして情報量を増しているおかげで、作品の密度が濃くなり、面白く感じやすくなっています。さらに、普段の文章量が多い分文字の無い見開きがより効果的に働いており、表情への高い画力も相まってより感動的な画に仕上がっています。こうしたギャップの利用は他の作品でも見られるものではありますが、「メダリスト」の白眉な部分は、文字部分がただのフリではなく有効に働くようしっかりと配慮がなされているところかと思います。


この他今週は、「姫様"拷問"の時間です」(6巻)、「SPY×FAMILY」(6巻)、「九龍ジェネリックロマンス」(4巻)などを拝読しました。ですがこれらの面白さについての精読(「SPY×FAMILY」以外は、既に挙げた以上の考察)ができなかったので、紹介に留めさせていただきます。

てかギャグ漫画を月単位で積んでるのはヤバいぞお前。



一般書籍

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?

今週の自由時間とエネルギーをほぼ奪っていった犯人。

ノーベル経済学賞を受賞した著者が、人間の認知パターンについてまとめた本の上巻です。人間の思考が直感を担うものと熟慮を担うものとの2つから成ることの解説から始まり、いかに人間が非合理な存在なのかが系統的にまとめられています。

この連載はあくまで私的な備忘録的側面が強く、「『何を読んだか』の記録をメインにするつもり」と最初に断っておりますので、以下私が思い出す用のメモとしてキーワードを羅列します。各単語の解説は、本書をお読みください。数ヶ月後の私のため、全て目次に載っている表記を使っています。

プライミング効果、見たものがすべて(WYSIATI)、メンタル・ショットガン、ヒューリスティック質問、感情ヒューリスティック、利用可能性ヒューリスティック、少数の法則、アンカー、連言錯誤、平均回帰、後知恵バイアス、スキルの錯覚、妥当性の錯覚、骨折の法則

なお、人の認知を操る方法を得ようとしてこの本を読むのはオススメしません。「暑い日にふと冷風が吹き込んで気持ちよくなるだけで、(中略)そのとき評価していたものに対して好意的になり、楽観的になる」(第21章)人間の脳に、絶望するだけかと思います。そうではなく、いかに自分がバカなのかを知りたい人に、この本をオススメいたします。



Web記事

ネットワーク科学がデータをもとに突き止めた、『成功』の正体。

「実力があれば成功しやすいが……」の部分が、完全に「ファスト&スローで見たやつや」状態で笑いました。

結論部分には生存バイアスがかかっている気もしますが、作り続けることが成功に関連するというのはうなづけます。がんばります。


日本語がもっともっと好きになる文書表現の技法(レトリック)集

表現法の勉強に。

日本語のレトリック」巻末付録からの引用ということで正確さは担保されていそうですが、じゃあそれを勝手にこれだけ引用していいのかは微妙(引用の要件からは外れるはず)なので紹介していいものか悩みましたが、インプットしたのは事実なので挙げます。


アラサー腐女子だけどいつの間にかツイフェミになってたから絶望した

自己防衛が転じて、自分が嫌いなだけと認められずフェミニズム的問題へと置換してしまっていたことへの独白文。

釣りかもしれませんが、読まされてしまうものがあったのでご紹介。


『頼み事断られたこと、ないんです(笑)』オリラジ藤森の“人たらし力”に隠された気遣いと打算

オリエンタルラジオ藤森氏が、自らの処世術を語った記事。

最後に「僕が今言ってることをすべて鵜呑みにするのは、それはそれで本当にいけませんからね。」と言って配慮と賢明さを見せるあたり、本当に頭のいい方なのだと思います。


名古屋大学 ACS 論文撤回 その2

バカヤロウ



ファスト&スロー(上)」にエネルギーを吸い取られたおかげで、その他のインプットや仕事がおざなりになってしまった週だった気がします。

その分得た知識にはしっかり働いてもらいつつ、下巻は塩漬けにしつつで他の積読と仕事を片付けていきたいところです。

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