符亀の「喰べたもの」 20201213~20201219

今週インプットしたものをまとめるnote、第十三回です。


漫画

メダリスト」(1巻) つるまいかだ

幼少期からスケートが始められず、アイスダンスに転向しつつなんとか全日本選手権には出たもののプロとしての仕事が得られていない青年。彼が発達障害気味ながらその分スケートをやりたいという思いは人一倍強い少女と出会い、二人三脚で少女の夢を叶えようとするストーリー。漫画好きの中では有名な作品かと思いましたが、おかげで出版社品切れ状態でやっと入手できました。

評判にたがわず、非常に面白かったです。主人公の少女の表情がころころ変わるのがよく、特にメンタルがボロボロな時の顔がもう本当にボロボロで、ギャグとして火力があります。それと成功したときや目標を見つけたときのキラキラした瞳の対比がハッキリしているので、どんな感情で読めばいいのかわかりやすく、読者がのめりこみやすいのもいいですね。

構成としても、1話で業界の辛い現実や挫折をしっかりと描いたうえで、2話以降は「がんばる理由」としてしかそれを出してこないのも上手いと思います。ぶっちゃけ子供の頃から人生をかけようが一握りの人間以外はそれで食うことすらできないのはハイリスクにもほどがありますが、読んでいる間は少女たちの頑張りに感情移入して応援100%で楽しめる。ですが1話でその残酷さは頭に入っているので、読み終わったときあふとしたシーンでそれが脳内をかすめる。それがただの夢物語にはならない一種のリアリティというか描くべきことを描いていない作品と違う読後感を与えてくれ、この作品の独自性に繋がっている気がします。


その着せ替え人形は恋をする」(6巻) 福田晋一

コスプレが趣味のギャルと、ひな人形作者見習いである男子高校生とのラブコメ。気づけば相手のことがだいしゅきになっていたギャルと純情すぎる男子とのラブコメ要素と、しっかりと取材されて入門書レベルに詳しいコスプレパートとが両立されながら、「好きなことを胸を張ってやっていい」という主題が描かれている濃い作品です。

こういう複数の軸がある作品にありがちなこととして、片方メインで読んでいる読者にはもう片方がそんなに刺さらないことが多い問題がありまして。本作では、ラブコメパートを「オタクに優しいギャル」という嫌いな人いんの的なキャラ視点をメインにして間口を広げる役、コスプレパートを「まんがでわかる〇〇」クラスの知識量を提示しながら主題を深堀りする役と分担をはっきりさせていて、結果「何かを知るのが好きで、コスプレは知っている~興味はあるけどやったことはないオタク」というメインターゲットへのアプローチに成功している感じがあります。ただ結構巻毎にどっちかが8割もう片方2割みたいな極端なバランスになっている印象はあるので、1つの巻に入るエピソードの中にそれぞれメインの話を両方入れてくれればなあと思うのも事実です。


ザ・テクノロジー ~ワクワク技術研究日誌~」(1~2話) 春夏アキト(著)、クロウバー(共同原案)

未来テクノロジー研究部の3人が最新技術を扱う会社に見学に行く、という形式で市場に出る直前の最新技術を紹介する漫画。

第1話がパワードスーツ、第2話が培養肉についてと、もうその2テーマの時点で勝ちでしょう。しかも実際の会社に取材までできている。勝ちです。

というか内容が面白すぎて技術面の分析が全然できていないので、それはまた今度とさせてください。こういうのは鮮度が命なので、分析待ちで紹介が遅れたら面白くないですからね。あとはこの前シーズンにあたる作品が書籍化しているらしいので、その辺はそっちでレビューするかもしれません。


今週はなぜか書店にほぼ作品が入荷せず、いつも読んでいる作品の最新刊は発売日が遅めで読めず、と単純に漫画が手に入りませんでした。積読と入荷遅れの「メダリスト」が無ければ、この連載終わりでしたね。



一般書籍

読んでません。

漫画が読めてないならこっち読めって?その通りですね。すみません。


Web記事

FGOのシステムがパクられるのは開発する側から見たら実は優れているから?

FGOの強みはシナリオとIPでシステムやUIはそうでもないはずなのになぜかそれっぽいゲームが乱立する理由を、自身の作品のソシャゲ化がFGO風になってしまった作家さんが開発者目線から解説したツイートのまとめです。

簡単に言うと「防御力の概念が実質無いので計算が楽」「その分スキルでキャラの個性を出す」「なので新キャラを強くしても数字的なインフレは抑えられて、過去のキャラも置いていかれにくい」という内容です。ゲームの拡張のしやすさやインフレを抑える工夫は、TCGなどに応用が利きそうな内容ですね。


『同じ目線』で描けるか(cakesホームレス記事の炎上について)

noteと同じ運営会社のcakesの炎上(先週~今週燃えた方じゃなく、先月燃えた方)について、燃えた記事のどこに問題があるのかと、なぜそんな燃える記事が編集がいるはずのcakesで出てしまったのかについて書かれたnote。

こちらも簡単にまとめてしまうと、「読者からどう読まれるかが考えられていない」「取材とはその対象と同じ目線に立とうとすべきものであるがそれがなされていない」「それ気づいて止めてやれよ編集」という内容で、ここはあまり詳しく突っ込みません。

個人的に上手いなとおもったのが、とりあげた記事の最後のまとめ方です。このnoteの筆者は炎上した記事を書いた方やcakesの編集部に取材していないので、悪意ある読み方をすれば「取材するってこういうことなのにやってないのはクソ。仕事してない編集もクソ。とにかくリスペクトが足らん。まあこれは取材すらせず想像で書いてるけど。」というnoteだとも読めます。最後にこれで金もらえることへの嫉妬が一番イライラしたポイントですと書くことで、あくまで感情的なnoteですというイクスキューズと読者の留飲下げ、および逆説的にnoteの論理性を保つ(自己矛盾してる感を減らす)手腕がうまく、勉強になりました。


『衣装もネタの一部』。漫才師・和牛がスタイルを確立するまで

漫才コンビ和牛のお二人が、どういう経緯で今の衣装を着るに至ったのかをまとめたインタビュー記事。

単純に漫才好きとしても面白く、お客様に作品を見ていただく人間の端くれとして勉強にもなりました。丁度(売れる売れないではなく、お客様にお金を出して買っていただく際の礼儀として)もう少し見た目部分に気を遣うべきなのか考えていたところであり、その点でも読めてよかったと思います。


『鬼滅の刃』の謎 あるいは超越論的炭治郎

今週一番面白かったWeb記事。「メダリスト」とどっちが一位だったかなというレベル。長いですが是非読んでください。

個人的に、これを読んだ際は非常に悔しく感じました。以前鬼滅の刃」について「少年ジャンプのバトル系漫画の中ではかなり静かな漫画」だが22巻(最終巻の1つ前)では「ラストバトルの盛り上げのためか、珍しく熱い演出が多用されている印象を受けました」と書いたものの、なんで静かさや熱さを感じたのかへの分析は不十分でした。最終巻について書いた際も、技術の巧みさには言及したもののそこには触れずに公開しています。その答え(のヒント)が、このnoteに書かれているんですよね。いやあ自分で答えにたどり着きたかった。

このnoteでは「鬼滅の刃」が精神科医の立場から分析されており、主人公である炭治郎の異質性についても言及されています。

鬼殺隊の中で、ほぼ炭治郎だけが、鬼の虚しさ、悲しさを理解している。彼が鬼退治に勤しむ理由の第一は「禰豆子を人間に戻すため」であり、家族の敵討ちは主要な動機ではなくなっている。厭夢に家族を侮辱された際には激怒しているが、それは敵討ちとは異なる怒りである。彼は鬼舞辻に連なる鬼を決して許すことはないが、戦いに敗れて死にゆく鬼を侮辱することもしない(「侮辱」は本作の頻出ワードの一つだ)。鬼の所業を裁くと同時に、鬼の尊厳をも守ろうとするのだ。

の部分はまさに私の疑問への答えに直結する内容で、つまり炭治郎には敵を斃すのを目的に戦うことがほぼ無いんですよね。相手に勝つことではなく、誰も死なせずに守ること、ラスボスの鬼舞辻を斃して妹を人間にすることが目的であり、他の鬼を斃すのも戦うのもモチベーションにないんですね。他の漫画ですと、殺す気はなくても「勝ちたい」や「第一段階として奴は撃破しておきたい」という意欲は主人公にあることが多く、だからこそ敵を撃破したときに一緒に「やったー」と思える。ですが鬼滅ではそういう感情は表には出ず、まさに裁くだけに留まる。逆に言えば鬼舞辻に対してはゴリゴリの殺意があるわけで、その感情が熱さとして紙面に載る。だから最終バトルが一番「ジャンプ漫画」っぽい。

この解(当然間違っているかもしれませんし、上記記事にこう書いてるわけではありません)に自力でたどり着けなかったのは悔しいですが、面白い考察が読めて勉強になったのは確かです。再読しつつ、次に活かそうと思います。



今回はWeb記事に勉強になるものが多く、紹介せずボツにしたのも含め結構な数と量を読むことができました。来週や年末年始は時間がとれるはずなので、気力と漫画(と一般書籍)を溜めて臨めればと思います。

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