符亀の「喰べたもの」 20210516~20210522

今週インプットしたものをまとめるnote、第三十五回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

おやすみ前にひとつだけ」 Miyako Miiya

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眠れない夜に読み聞かせられる、おとぎ話をまとめた短編集です。

とにかく画作りがうまく、漫画が芸術作品でもあることを思い出させてくれる傑作です。それでいて難解さはなく、悪い意味で芸術っぽいところが無いのも素晴らしいです。特殊なコマ割りや急展開はあるのですが、そのせいで何が起こったのかわからなくなる場面はありませんでした。これは、そうした起承転結の転にあたるコマではその直前のコマと似た絵にし、差分である「転」部分以外の情報量を下げることによって、読者が「承」からの流れを意識しやすい構成になっているのが理由かと思います。

とまあなんとか一点言語化はできましたが、肝心の絵の部分については一切消化できておりません。一体どうすれば、この絵の魅力を盗めるのでしょうか。美術面への知識や語彙力の無さを痛感しております。


千年狐 ~干宝『捜神記』より~」(5巻) 張六郎

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中国の古典「捜神記」を原作とした、千年生きた狐などの妖と人間との交流を描く物語。1~4巻は、第六回で取り上げ済みです。

今巻でも、某人物のエピソードが唐突に語られる部分などは、本筋ではない面白いだけのエピソードをぶち込みやすいという短編集を原作としているが故の長所が活かされています。しかし、この巻では基本的に「道術対決」という一本のストーリーにそって話が進み、それでいて面白い。真剣な顔で話進めている最中に真顔で突っ込んでくるギャグが本当に面白い。本筋も面白い。無敵か?

このように唐突にギャグをぶっ込めるのは作品の雰囲気、つまり脇道にそれることを許容できるゆるさに起因するのかもしれませんが、たぶんそれだけではないと思います。でもそれがわからない。フリもクソもないギャグでなぜこんなにも笑ってしまうのか。これがわからない。考えようにも読み返すと笑ってしまうので集中できない。ゆえにわからない。さては今日の私、なんもわかってないな?


スタンドUPスタート」(3巻) 福田秀

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「訳アリ」人材の価値を見抜き、起業によってその価値を高めることを目指す人間投資家を主人公とした、起業マンガです。第三回で1話を、第十回第十八回で1巻、2巻を取り上げてきた、推しマンガの一つです。

この巻も、前半のパチンコ関連の話はややnot for meでしたが、後半のキャラ中心の話は非常に面白く、上がっていた期待のハードルをしっかり飛び越してくれました。最後の話や投資詐欺についてのオマケ短編など、美味しい部分だけでなく現実も描いているところも、本作のいい点だと思います。

と褒めまくっているので、少し反面教師的な扱いをさせてください。上記のパチンコの話ですが、題材がnot for meなだけでなく構成的にもよくない点があったと思います。この話ではトラウマから欲望に流されることを嫌う女性銀行員と、彼女にパチンコ複合施設への融資を依頼する若手社長とが登場します。彼らは共に初登場のキャラクターで、このエピソードは全4話から成ります。1話目では2人の初対面が、2話目でパチンコ施設社長の過去話が、3話目で再び2人の対話が描かれ、4話目で完結します。

この1話目が鬼門で、まず女性銀行員の「黒」への嫌悪感が描かれ、その後そこにパチンコ産業への融資話が来るという構成になっています。この展開ですと銀行員のキャラに感情移入しやすく、その心の暗部に触るパチンコ店社長(とその隣にいる主人公)は悪役のように見えてしまいます。ここで問題なのがこの社長が初登場であるという点で、故に読者の彼への好感度は±0なんですね。そこから悪役をさせられるので、2話目の彼中心のエピソードになる前に好感度がマイナスになってしまう。さらに本作の主人公は訳アリな人物を見るとにやけてしまう悪癖があるのですが、それもトラウマをほじくって笑うサイコ野郎のように見えてしまう。このように男性2人の好感度は低く、銀行員側もまだ掘り下げができていない(うえに個人的理由で融資を断るというのは印象が悪い)のでそれを補うほどの好印象は稼げない。結果、キャラ全員の印象が悪い状態で話が進むことになっってしまい、人つまりはキャラの魅力を中心に描く本作においては特に面白さを損ねてしまったのではないかと思います。

まあ、長々と書きましたがこのエピソードも不快ではなく、後半は長所を活かした話がてんこ盛りですので普通にオススメです。面白かったからこそ気になったねんてごめんて。


明日の君が好き」 柚子丸ニコ(原作)、保谷伸(作画)

ネームオンリー漫画賞の大賞作を「まくむすび」の保谷伸さんが作画した、恋愛ものの読みきりです。設定などはネタバレになるので、リンクから読んで確かめてください。

前半の場面説明部分、セリフだけ見せれば十分なコマで、イラストによって情報をさりげなく足しているのが上手いです。3ページ目のラストのコマ、「それだけのための通話」(原文ママ)なのに10分以上話しているのをそっと示すことで、2人の関係性がうかがえて物語に深みが出ています。これがネーム作画どちらの仕事なのかはわかりませんが、邪魔にならずに情報量を増やす手腕は勉強になります。


アイマスの漫画を描くしかなくなった」 地獄のミサワ

地獄のミサワさんがアイマスへのハマりっぷりを描いたレポート漫画の3回目です。1回目はここ、2回目はここからどうぞ。

ナレーション形式による「なぜか?→〇〇だからである!」の連呼(これは2回目のですが)など、前置きもテンポよく書いてくれるおかげで流れを理解しながら読めるのが流石だと思います。その前置きもフリとして利いていて、ハズしも上手くプロとしての力量を感じます。あと微妙に演者さんとかオタク仲間を美化せず描いているところに若干の客観性を感じるのも好きです。


文章量の差からも明らかな通り、今週は作品分析における私の得意不得意が如実に表れてしまいました。お恥ずかしい限りです。精進します。



一般書籍

複数冊を並行して読んでいるせいで、200~400ページぐらい読んだはずなのに読破した本がありませんでした。来週にご期待ください。



Web記事

カードゲームは競技プロ化、eスポーツ化に向いてないと言う話

マジックザギャザリングがプロリーグを解体したことを受けて書かれたnoteです。

ボードゲームの宣伝を考えるにあたって同様の内容は考えていたのですが、人が何かを観戦する動機として挙げられていた「自分には到底出来そうも無い達人ならではの驚異的な技術を見られること」という点には考えが至っていませんでした。逆に言えば、これを実現できるようなゲームであれば(何やってるかぱっと見でわかりにくいゲームでも)映える可能性があるということであり、実はそういうゲームのアイデアは既に一つ思いついておりました。そいつについて考える際の、いいキーワードがいただけたと思います。


サラダマスターの『気になる』デザイン

サラダマスターのゲームデザインについてまとめたnoteです。

自分の持つ野菜のデータを見えなくし、最適解を選ぶだけにならないようにして考える余地を残す。他のゲームにも汎用的に使える考えであり、非常に勉強になりました。


【作者直撃】2人用ボードゲームの『オストル』はこうして生まれた

「オストル」の作者さんに経歴や考えを聞いた、インタビュー記事です。

アカデミックなバックグラウンドを持ち、個人よりも全体の利益を俯瞰的に見ている方が有名な作者さんにいたのには、正直驚きました。元々DAISOさんの動きには好意的な印象だったのですが、それがより強まりました。


大人になってからプレイするドラクエ4(上)
大人になってからプレイするドラクエ4(中)
大人になってからプレイするドラクエ4(下)

ドラクエ4の良さを語った、2011年の記事です。上は、ゲーム的かけひきとそれを超越できる力を得ることによる成長の実感といった「ゲームな部分」について。中は、ゲームのストーリー、特に勇者の特質性を、文ではなくゲームシステムで語っていることについて。下は、4における魔王と勇者の対比構造について、考察されています。

私は元々ビデオゲームが専門であり、なのでドラクエも1~3についてはよく考察を読んでいたのですが、4以降は語られている文献も少なく、私自身もあまり勉強しておりませんでした。時間をつくって、これらもインプットしたいところです。


部屋に何もないので生活に必要なものを経費で買った話

起承転結の「転」の火力よ。


実は今所持している漫画たちの整理中でして、買うだけ買って1巻から積んでるやつらを一気読みしてやるつもりでした。ですが、結局整理しきれず、箱の方が先に枯渇し、体力も切れて平日に漫画が読めずと見事に裏目に出ました。とはいえ400冊以上、2年分ちょいはもう収納を終えましたので、来週こそは積読の消化を始めたいと思っております。

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