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地球のカーボンサイクル 緑の地球を「人」が支える「暮らしたい未来のまち」

1.初めに

「炭素」は、地球上のすべての生命の基盤であり、人類文明が消費するほとんどのエネルギーの源泉である。一方で、「炭素」が必要となればなるほど、今日私たちが直面している最も深刻な問題の1つ:地球規模の気候変動と向き合っていかなければならない。

「炭素」は、宇宙で4番目に豊富な元素である。地球の「炭素」の大部分(約65,500ギガトン)は岩石に貯蔵されている。残りは海(水)38,000Gt、大気800Gt、植物500Gt、土壌2,300Gt、化石燃料10,000Gt、に在る。

これらを貯水池とみなすならば、「炭素」は、各貯水池の間を循環している。これを「炭素循環」:カーボンサイクルと呼び、飛騨高山の身近な事例を深堀して考える研究会を立ち上げたい。

1つの貯水池から炭素を移すと、別の貯水池により多くの炭素が溜まる。炭素の総数が変わるわけではない。大気に二酸化炭素が増えると、地球温暖化に向かってしまうため、大気の二酸化炭素を出発炭素として、大気以外で「炭素循環」に関わる技術を開発し、普及させる。

2.日単位で起きる炭素循環=高速の炭素循環

炭素の循環は、主に地球上の生命体または生物圏を通じた炭素の動きである。大気と生命(植物・動物など)、土、水(海洋)の間の炭素の動きは、光合成と呼吸を介して日単位で起きる生物現象である(高速の炭素循環、陸上植物光合成120Gt/yr、海藻類光合成90Gt/yr、生物呼吸60Gt/yr)。

他に海(水)から大気への動きは、水の蒸発と二酸化炭素の分圧に従い平衡に達するように起きる物理現象である(90Gt/yr)。

一方、人間の営みによっても日々炭素の流れが(9Gt/yr)起きる。これが、カーボンサイクルのバランスを歪ませている。

炭素は、多様で複雑な有機物の中で、原子ごとに最大4つの結合を形成する能力を持つため、生物学において重要な役割を果たす。多くの有機物は、炭素原子間で強い結合を形成し、長鎖状や環状となる。このような炭素鎖および炭素環は、生物細胞の基盤となる。例えば、DNAは2本の炭素鎖が絡み合って作られるし、タンパク質、脂質、セルロース、リグニンは炭素を基本骨格とする高分子である。。

長い炭素鎖の結合には、多くのエネルギーが含まれる。鎖が分解されると、貯蔵されたエネルギーは解放される。このエネルギーは、すべての生物にとって優れた燃料源となる(呼吸)。

光合成の際、植物は二酸化炭素を吸収し、太陽エネルギーの力で、グルコースからセルロースなどを作り出し、細胞壁構造を構築する。このプロセスは、高速の(生物学的)炭素循環の出発点である。

植物(含む植物プランクトン)は、高速の炭素循環の主役である。植物は、大気中から二酸化炭素(CO2)を取り出し、太陽エネルギーを使用して、二酸化炭素と水を結合させ、グルコースと酸素を作る。

(1)植物は、成長に必要なエネルギーを得るためにグルコースを分解する。(2)動物は、植物やプランクトンを食べ、デンプンやセルロースを分解してエネルギーを得る。(3)植物や動物は、死んで腐敗すると二酸化炭素と水に分解される。(4)植物バイオマスはエネルギーとして燃やされ二酸化炭素に還る。いずれの場合も、酸素は炭素化合物と結合して、水、二酸化炭素、エネルギーを放出する。

以上の4つのプロセスすべてにおいて、反応中に放出される二酸化炭素は通常大気に還る。高速の炭素循環は、植物と密接に結びついているため、大気中の二酸化炭素濃度の変動によって成長が変動する。北半球の冬には、陸上植物の成長は緩やかとなり、多くが枯れる場合、大気中の二酸化炭素濃度が上昇する。春に、植物が再び成長し始めると、濃度が低下する。年リズムでまるで地球が呼吸しているかの様である。

3.長期間で起きる炭素循環=低速の炭素循環

炭素は、緩やかな自然化学の反応で、岩石、土壌、海洋、大気の間を移動する。それに比べて、人間の活動が引き起こしている大気中への炭素循環は非常に速い。

長期的には、地球のすべての炭素は、大気に移動したり、完全に岩石に貯蔵されないように、バランスが保たれているように見える。このバランスは、地球の温度を安定させるのに役立っている。大規模な火山活動や地殻変動がない限り、低速の炭素循環として、数十万年以上にわたって地球環境を緩やかに変動させてきた。地球はこれらの時間スケールで氷河期と温暖期の間をスイングしている。

例えば、火山の隆起では、岩石の化学風化を通じて、より多くの炭素が高速の炭素循環に流れることになる。また、温度の低下とそれに続く氷床の形成によって、水中に溶存する二酸化炭素を低速の炭素循環に引き込むことになる。

大気から岩石への炭素の動きは、雨から始まる。大気中の二酸化炭素は水と結合して、弱い酸(炭酸)を形成し、雨となって地表面に落ちる。炭酸は岩石を溶解し、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムイオンを放出する。川はイオンを海に運ぶ。海中ではサンゴや貝、動物プランクトンなどが重炭酸イオンと反応させて、炭酸カルシウムを生成する。それらの遺骸は海底に堆積し、そこで石灰岩になる。石灰岩に閉じ込められた炭素は、数百万年、あるいは数億年保存される。

炭素含有岩石の80%がこのように作られている。残りの20%は、泥の層に埋め込まれた生物から作られる。熱と圧力は何百万年もの間、泥と炭素を圧縮し、堆積岩を形成する。特殊なケースでは、死んだ植物が腐敗するよりも速く圧縮されて、堆積岩の代わりに石油、石炭、または天然ガスになったと考えられている。石炭やその他の化石燃料は便利なエネルギー源であるが、燃やされると貯蔵された炭素が大気中に放出される。これが炭素循環のバランスを変え、地球の気候を変えつつある。

岩石に貯蔵された炭素は、火山を通して大気中に炭素を還す。地球の陸地と海面は、いくつかの動く地殻板(プレート)の上に座っている。プレートが衝突すると、一方が他方の下に沈み、極端な熱と圧力の下で岩石が溶ける。加熱された岩石はケイ酸塩鉱物に再結合し、二酸化炭素を放出する。火山が噴火すると、ガスを大気中に放出し、飛び散った岩石が土地を覆い、炭素循環が始まる。現在、火山は年間1億3000万トンから3億8000万トンの二酸化炭素を排出している。比較のために、人類は化石燃料を燃やすことで、年間約300億トンの二酸化炭素(火山の100~300倍)を排出している。

海、陸、大気の間で炭素循環は調節されている。例えば、火山活動の増加によって大気中で二酸化炭素が上昇すると、気温が上昇し、より多くの雨が降り、岩石が溶け、最終的に海底により多くの炭素を堆積させる。

しかし、海洋での炭素循環には、いささか高速のものもある。海の表層では、空気が海水と触れ、二酸化炭素が水に溶け、海水中を拡散する。またその逆に海水が蒸発して大気中に二酸化炭素が戻る場合もある。海水に溶けた二酸化炭素は、炭酸分子となり、水素イオンを解離させるために、海水を酸性化する。しかし、海水には数多くの重炭酸イオンが存在するため、急激に酸性化することはない。緩衝作用が働いている。

この反応では、風、海の流れ、海水の温度が、大気から二酸化炭素が溶ける速度を制御している。特に海洋温度は、数千年にわたって炭素を大気から取り除いたり、大気に戻したりするのに、深く関わっている可能性が高い。

4.炭素循環の変化

速度が緩やかな炭素循環は、大気、陸地、植物、海洋における炭素の濃度を比較的安定的に維持するのに重要な役割を果たしている。しかし、いずれか1つの貯水池の炭素の量が急激に変動すると、効果は他の貯水池にたちまち波及してしまう。

地球の過去には、気候変動に対応して炭素循環がドラスティックに変化した時期があるようだ。地球の軌道の変動がそれである。地球が太陽から受けるエネルギーの量が変わり、氷河期と現在の気候のような温暖期とのサイクルを生み出していると考えられている。北半球の夏が冷え、氷が陸上に積み上げられると氷河期が発達し、炭素サイクルが遅くなる。一方、植物の成長に適した気候となって成長量が増加すると、炭素サイクルが速くなる可能性がある。

大気中の二酸化炭素のレベルは、過去80万年の間、温度と密接に関連してきた。南極の氷のコアデータによって、長期的な相関関係が示されている。地球の軌道の変化は、予測可能なサイクルで絶えず起こる。約30,000年後には、北半球の太陽光レベルが下がり、氷河期が再来すると予測されている。

一方今日、人の活動によって炭素循環の変化が急速に起こっている。化石燃料を燃やし、森林を開発することによって、炭素循環を加速化させている。森林を伐採すると、幹、根、葉に炭素を貯蔵している森林バイオマスの成長が停止し、木材として利用せずに燃焼させるとそれにつれて、大気中の炭素が増加してしまう。私たちは、グラスランドや牧草地に、植林することによって、植物への炭素貯蔵量を増やすことが出来る。また、樹木から森林土壌に炭素を移すことも制御出来る。人間は、年間10億トンレベルの炭素循環を司るキーパーソンである。

人間の干渉がなければ、化石燃料中の炭素は、何百万年もの間、ゆっくりとした炭素循環の中で、火山活動などを通じてゆっくりと大気中に漏れ出すことであろう。ところが、石炭、石油、天然ガスを燃焼させることで、炭素循環を加速させ、毎年膨大な量の炭素(蓄積に数百万年かかった炭素)を大気中に一気に放出している。そうすることで、炭素を遅いサイクルから速いサイクルに移動させている。人類は化石燃料を燃やして年間約84億トンの炭素を大気中に放出している。人類による二酸化炭素の排出量(主に化石燃料の燃焼とセメント生産)は、産業革命の始まり以来、着実に増加している。大気中の二酸化炭素濃度は280ppmから390ppmへと約39%増加した。

5.炭素循環の変化の影響:地球温暖化

人類が余計に放出するこの炭素のうち、陸上植物(森林)と海洋は、約55%を取り込み、約45%が大気中に留まることになる。大気中の余分な炭素は、地球を暖める。

地球の温度を制御するための最も重要なガスは二酸化炭素である。二酸化炭素、メタン、ハロカーボンは、地球から放出される赤外線エネルギー(熱)を含む幅広いエネルギーを吸収し、再放出する温室効果ガスである。再放出されたエネルギーはあらゆる方向に移動するが、一部は地球に戻り、そこで表面を加熱する。温室効果ガスがなければ、地球は凍った-18°Cになるが、温室効果ガスが多すぎると、地球は金星のような高温の星となり生物は生息出来なくなる。

二酸化炭素濃度の上昇は、すでに地球を加熱させている。温室効果ガスが増加すると同時に、1880年以来、世界の平均気温は上昇し続けている。

6.終わりに

富士山が噴火するテレビ番組を見ている。火山活動や地球機軸の変動を止めることは、人類には不可能である。

しかし、地球全体の炭素の総数が変わるわけではない。大気に増えた二酸化炭素を減らす唯一の方向は、生物現象の利用である。

大気の二酸化炭素を出発炭素として、バイオマス由来の「炭素」を地球上に緩やかに循環させる技術を開発し、普及させる。これをローカルで考え、実践する。飛騨高山をそんな「暮らしたい未来のまち」にする。そんな街づくりに貢献する飛騨高山カーボンサイクル研究会を是非応援していただきたい。

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