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夜空を喪くしてしまったひとたちへ

近頃、ぼくは
夜な夜なほっつき歩いては
こっそり取りかえているのだ
地上の黄金を夜空に散りばめ
夜空の星を川面に散りばめ

それはいったい何のため
いったい何の役に立つ
そう聞くひとたちには
それはけしてわからないだろう
ぼくだってわからないのだから

そんなことをしている場合じゃない
他にやるべき事があるでしょう
そんな正しさに満ちた視線に
耐えられるほどに
ぼくは強くはいられないから
声には出さずに問いかけるんだ
あなたは、それでいま、幸福ですか

馬鹿げた詩人ごっこは、もう終わりだ
くぐもった声が口々に
そう言えとぼくに迫る
ぼくが口にした瞬間に
黄金は砂に
星は紙くずに
そしてぼくは
夜空を喪くしてしまうだろう

そんなわけで
ぼくは今夜もひとり
相変わらず
ほっつき歩いては
こっそり取りかえているのだ

たぶん世間を出し抜きたいから
世界の秘密にもうひとつ
ぼくしか知らない秘密を
つけ加えたいから
夜空を喪くしてしまったひとが
ひとりくらい、ふと見上げた拍子に、
驚きに目を見張ればいいと思うから

地上の黄金を夜空に散りばめ
夜空の星を川面に散りばめ

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