日々の出来事

私が来た時には
もう飛べない様子だった

よたよたと地面を這って
やっとで生きていた蜂

帰りに見ると
階段を十段降りたところで
息絶えていた

「残り十段の命だったのか」
と思った

土に埋めた

車椅子の老人が水族館に設置された公衆電話から電話をかけていた

「今、海の中からかけてます」

嬉しそうに言った

誰と話していたのかは分からないけれど、
美しいものを見て
誰かに教えたくなったのかな、
と思った

小学生の女の子が近くにある空席に座らないので気になって見ていた

その子は
"一生懸命吊革に捕まっているおじいさん"
と
"その空席"
を交互に見ていた

とても優しい子なのだなと思った

座って欲しかったおじいさんがその席に腰掛けたのでとても満足げな表情をしていた

この中でいちばん優しかった

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