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尊い自分を守るためパワハラ社長にキャバクラでNOと言った話

※今回の話は、気持ち悪い描写があるので苦手な方は読むのをお控えいただけると幸いです

会社に勤めたのは四十数年の半生で、二年ほど。

周囲に人がいると気になって集中できないタイプなので、基本的に会社という環境が向いていなかった。

僕が務めていたのは、三十代が中心の企業して数年ほどのIT企業。

そのときの僕は三十代半ばくらいだったが、社長は僕より年下で、三十代の前半。全体的に若い人が多い印象だった。

この社長、普段は礼儀正しいのだが酒乱だった。

忘年会の二次会で、北新地のキャバクラへ連れて行ってもらったことがあったのだが、ここでも社長は荒れに荒れていた。

そのとき、社長と男性社員数名でキャバクラへ赴いたのだが、赤ら顔の社長は女性そっちのけ。

僕らに「おい、俺の前へ一列に並んでくれ!」と、突如言い放った。

言われた通りにみんな並ぶので、僕は列の最後尾にこっそり移動した。

「今から俺が、社員への愛情を示すから!」と、社員の頭をぐいっと自分の顔の方へ引き寄せると、つむじのあたりを舌でベロベロ舐め始める。

それをされた社員は、みんな苦笑いしながら「ちょっと社長、やめてくださいよ~」みたいに空気を壊さないリアクションを取っている。

キャバ嬢は「この人ら、うちの店来て何してんの!?」とキョトン顔。

僕の前に並んでいる社員が、酒乱社長のハラスメントの餌食になっていく。

誰もがポップな嫌がり方をしており、主従関係を示せた社長はご満悦だ。

そして僕の順番が回ってきた。

一瞬、自分もみんなと同じような空気を読んだリアクションを取ろうかと考えたのだが、「やっぱり尊い自分を守ろう」と思った。

「社長、ずいぶんストレス溜まってるみたいですね」と言った後「僕そういうの嫌なんで、やめてもらえますか?」とできるだけ穏便に言った。

空気が凍り付いた。

他の社員たちは「大人なんだから、これくらい適当に合わせておけよ」という顔をしていた。

社長は真顔の僕を見て、それ以上、ハラスメントをすることはなかったが「こいつノリが悪いなあ」と思っただろう。

みんなが社長の顔色を窺っているのを見て、「くだらない。早いうちに辞めよう」と決意し、キャバクラの件があって一年以内にフリーランスになった。

営業は自分でしなければいけないし、全て自己責任だが、会社員時代と比べ一気に自由になった。

後から聞くと、あの社長は多くの店で乱暴狼藉を働き10店舗以上、出禁になっているとのことだった。

この前、久々に会社員時代、仲良くしていた男性とご飯を食べた。

彼は僕が退社してからも、数年間、会社で勤務していた。

僕は「その後、会社どうなってますか?」と尋ねると、「社長のワンマンに嫌気がさして、次々と辞めていきました」「残っているのは、自分で動けない人たちだけです」という答えが返ってきた。

会社の窮状を教えてくれた彼も、来月からは別の企業で働くらしい。

あの「つむじベロベロ事件」のとき、僕は「こんな奴のために自分をすり減らすのは、自分に申し訳が立たない」という気持ちになっていのだろう。

自身の自己肯定感の程度はわからないが、自尊感情はそこそこあるかもしれない。

日本人は同調圧力に極めて弱い。「周りと同じことをしておけばいい」という風潮が遺伝子レベルで染みついている。

しかし尊い自分を守るためには、嫌なことに対してNOを言うことも必要である。

日本人の多くは僕も含めて、そういった自己主張が苦手な人が少なくないが、それでも少しずつやっていくべきだと思う。

あのとき、キャバクラで酒乱社長にNOを告げられた過去の自分が結構好きだ。

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