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『本物の読書家』乗代雄介

思い出話を最初にさせて下さい。

昨年の正月に『旅する練習』を読んだ。陳腐な言葉になるけど、刺さったし、当てられた。それから乗代雄介の世界観をもっと知りたくて少しずつ読んできた。
最初は難しい文体に慣れなくて、読むのに時間がかかった。振り返って読み、また振り返って…ということを繰り返して、やっとの思いで読み切った。

『本物の読書家』を初めて読んだのは、今からちょうど一年前。

すっごい面白い!と思わなかった。引用がたくさんあったりして、「難しい」に引っ張られて分からなすぎたんだと思う。

とても噛み砕くには難しい作品だけど、当時、つまらなかったとか読まなければ良かった、とは思わなかった。
もっと自分の読書力と知識をつけたいと思ったような気がする。この作品の面白さにまだ気づけていないなとも。


思い出話はここまで。

乗代作品を一年越しにもう一度読もうと決めた。まず『十七八より』からなる、阿佐美家サーガを。やっぱり、乗代雄介さんの文章が大好きだなと思いながら、次は『本物の読書家』。

死ぬほど面白いと思った。
読み終えた時に変な気持ちが残った。これなんだろう?と思っていると、「面白い」だこれ、と気づいた。捲るページが全然止まらない。本気で楽しかった。こういう瞬間のために読書しているんだと確信を得た。

作中、かなり沢山の作品と作家名が出てくる。重要なシーンで『黒い笑い』という作品が出てくる。これを私は読んだことがないから、どんな作品かは知らない。ただ、そういう作品があるんだなということだけ。でも乗代さんってそういうことをしたいんだと思う。

修復されて作品が残るからではなく、修復する手が、その作がなければそのように動くことはなかったということが、作者がこの世の仲間に留めおく。

『最高の任務』乗代雄介
p.158 l.9〜10

『本物の読書家』は、その作がなければそのように動くことはなかった、修復する手の役割なんだ。絶版になっている『黒い笑い』が後世名を残すには、それを発信する担い手が必要だ。とても熱心で可愛い作業だと思う。可愛いって、馬鹿にしているわけじゃなくて健気だと思うことね。


これから『本物の読書家』を読む人は、川端康成の『片腕』だけでも読んでから挑んで欲しい。これも名作です。『眠れる美女』という、新潮から出ている本に入っています。

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